1-45 住人消失
「ヤッホー、美紅」
「ヤッフー、美美」
相変わらず遊び人の特装コスチュームのままで駆けてくる美紅が手を振っている。
「おや、そちらは?」
「狩猟ギルドの大手クラン・マスターで大山さんよー。
ここまで送ってもらってきたの」
「こんにちはー!」
「はは、元気いっぱいでいいねえ。
こういう時には大事な事だよ」
「もうそれだけが取り柄の遊び人っすから。
プレイヤー全員が俯いていたって、遊び人だけは大いに遊び、踊るっすよ」
「はっはっは」
それもどうかなと思う美美なのであったが、言っても始まらないので首を竦めておいた。
「ブリちゃーん、お久~!」
そう言って、速攻でワンコを拾い上げて頬擦りする美紅。
「あう、こういう時に愛玩動物は為す術もなく弄ばれる運命なんすね」
「まあまあ、可愛いからいいじゃないの」
「まあ可愛くないとか言われて蹴られるよりは、よっぽどいいっすけど」
「今回はワンコ大活躍の巻だよ。
この子を連れていけてよかったわー。
愛玩動物扱い万歳だわ」
「本部でも、残った愛玩動物が大活躍してるみたいよ」
「そっかあ、じゃあ農場の御土産は是非とも持ち帰らないとね」
そうこうするうちに、イーグルが戻ってきた。
「おお、来たかミミ。
返事が出せなくて悪かったな。
他のメンバーや赤沢なんかとも連絡し合っていて忙しかったんでな。
ジビエは開放出来たか、よくやった。
そっちの人は?」
今度は大山氏が自ら挨拶した。
「ああ、初めまして。狩猟ギルドのハンター部門のトップクラン、ジビエスナイパーのマスター大山健吾です。
君が倉田君かね。
A地区自治会の副議長さんか。
私もここじゃ似たような役回りだね。
まあうちの地区は小ぢんまりとしておるので、自治会なんて形ではやっておらんが」
「そうですか、狩場開放おめでとうございます」
「ああ、そこのミミ君のお蔭でな。
当面の肉や野草などの食料供給には応じられるはずだ。
もう、議長の赤沢さんには狩りのための応援要請がいっていると思うが。
うちもハンター不足で申し訳ない」
「いや、こっちも一線級の戦闘職はあまりいなくて」
「はっはっは、まあ魔王を狩る訳ではないのだから、腕っぷしはそこそこでいいさ。
ガイドにうちのメンバーをつけるよ」
「よろしくお願いします」
「ところで、農場の方はどうなっておるのかね。
うちからは最低分の、当座の食料を供給できると思うが、量的にも栄養的にも五万人のプレイヤーがいつまでも持ち堪えられんぞ」
「それはわかっているのですが、今この農場に人っ子一人いないのです。
何かご存知ないですか?」
「いや、恥ずかしながら自分達の事だけで手いっぱいでね。
A地区はそんな事はないんだよね。
他の地区へうちの人間を見に行かせてみようか。
このC地区だけなのか、生産区のD地区や芸術区のE地区、あるいは他地区も」
「ああ、車があるんですね。
出来ましたらお願いします。
うちも、こういう異常事態は早めに解明して自治会の方へ連絡しないといけないもので。
この事態を何とかしてからでないと、俺もA地区に帰れません」
このオーディナリー・エブリデイの世界は、基本居住区のA地区から始まり、各種専門部門の地区への連絡通路が、各地区から他のすべての他地区へ通じるようになっている。
このB地区やC地区からも、他のすべての地区へ行けるようになっているが、すべて徒歩である。
タクシーなどはNPCが担当してくれていたので、A地区からは公共交通機関がすべて消失しているのだA
B地区B地区には業務用の車両があるのだが、C地区はそれを使用する住人が消えてしまったので、A地区の人間が勝手には借りられないのだ。
そもそも施設の中へ入れないのだし。
「さあさ、ランチの支度が出来たよお。
かなり出来合いメニューだけどね」
美美が、インベントリから出して並べたピクニックテーブルの上に、皿に盛られた料理が並んでいた。
「待ってましたー!」
さっそく、バッファローのスペアリブに取りつく美紅。
他にも、朝に作ったマトンのステーキ、マトンの骨付き肉の塩茹で、バッファローバーガーなどを並べていた。
それから、立て続けに爛ママとイルマが戻ってきた。
「あらん、みんな先に食べててズルイわーん」
大山氏が、爛ママの濃さにちょっと引いていた。
「うわあ、もうお腹ペコペコ。
ハーイ、ミミちゃん。
いやー、地獄に仏ねー。
今日だけはウエストのお肉の事は忘れよう」
「イルマさん、いざという時に頼れるのは、お腹の肉だけなんですよ」
「もう狩場は開放されたんだから、肉は十分あるわよ」
「一応、熊肉もあるのですが」
「うーん、こっちは野牛と羊で間に合っているわー」
「美美、あたし熊肉食べたい」
「ふふ、猪もあるでよー」
とりあえず、ようやく仲間はここC地区に全員集合したのであった。