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1-43 朝から罪作り

 翌朝、まだ隅っこで蹲って拗ねているチワワ。


 ぺったりと寝かされた耳が、彼の心情を表しているようだった。


「いい加減に機嫌直しなさいよ。

 日がな一日、小便小僧を担ぐこっちの身にもなってよ」


「ふーんだ。

 どうせ俺は小便小僧ですよーだ」


「もうっ、拗ねないの。

 今日は朝から貴重な和牛にしてあげるから」


「え、ほんと?」


 他の食材が豊富になってきたのもあって、貴重な和牛はなかなか出そうにない雰囲気だったので、一瞬にして立ち上がり、見事なまでに尻尾を振っているワンコ。


「あんた、現金ね。

 まあいいや、もっと和牛が食べたかったら頑張ってちょうだいな。


 犬の鼻その他、当てにしているわよ。


 今日の農場の動向次第で、あんたがこの先も和牛を食えるかどうかの命運が決まるわ」



「頑張るっす!」


 そして、料理をしている美美の足元で待ち切れない様子のそわそわしたチワワ。


「はい、一応冷ましたけど、まだ熱いと思うからゆっくり食べなさいよ」


「はーい。

 いっただきまーす」


 肉に齧りつくワンコを尻目に、美美は昨日の羊を取り出した。


 マトンなので、塩胡椒に紹興酒、それをワサビ醤油でいただくという、朝から罪作りな逸品だ。


 マトンの肉が好きな人は、あの独特の臭みに対しても寛容なタイプなので、敢えて四頭分あったラム肉をメニューに持ってこなかったらしい。


「くそ、朝からこんな物を作るんじゃなかった。

 一杯飲みたくなるから、こいつは封印しよ。


 今朝は栄養補給食品にしとこ。


 農場では、マトンの塩茹でをやってもいいかな。


 くっくっく、美紅にはシンプルな味付けのスープで煮た、羊の脳味噌の丸煮でも出してあげようかな~」


 少し黒い笑いを浮かべながら簡易な朝食を済ませている美美を、呆れたような顔でチワワが見ていた。


「また悪い事考えているっすねー。

 まあ、確かに羊や山羊の脳味噌は本場での御馳走だとは思いますが、ああいう物はスパイスたっぷりで炒めたりカツレツにしたりする物なのでわ?」


「あたしも羊の脳味噌はまだ食べた事ないのよねー。

 あと、モツ煮も美味しいらしいよ」


「ああ、俺がしがない犬をやっている間に、どんどん御馳走が出来ていって悲しいっす」


「まあまあ、きっとそのうちにジョブ開放のクエストがあるって。


 そう考えていないとやってられないわよ。


 とりあえず、あんたの能力は有用だから、人間に戻るのはしばらく禁止」



「美美さーん、それは酷いっす」


「きっと、あんたのとこのクランのマスターもそう言うに決まってるわよ」


「ああ、あの人の事だから、それは大いにあるかもっすね」


「そういえば、今頃あの可愛いウサギさん達はどうしている事やら」


「連中も、しっかりと働かされていると思うっすよ。

 御飯はきっと運営配給の動物用の餌だろうけど。


 俺はこっちへ連れてきてもらったので、御飯だけは美味しいんで幸せっす」


「それはいい事だっと」


 朝食も早めに片付けて、ガンスリンガー装備で出かけていくと、もう狩猟ギルドの人は待ってくれていた。


「あ、ごめんなさい。

 遅くなりました」


「いえいえ、まだ七時だから大丈夫ですよ。

 我々が待ち切れなかっただけで」


 よく見ると、全員がハンターっぽい格好で待っていた。

 昨日までよりも、その数は多い。


 きっと他のゲートにも、それなりの人数が詰めかけているのではないだろうか。


 皆それぞれ、お好みの狩場があるのだろう。


「さあ、では車へどうぞ」

「お邪魔しまーす」


 オープンスタイルの、いかにもサファリに出かけるスタイルの、ジープのような車で出かける。


 いかにもゲーム内のオブジェといった感じの、アスファルトでもコンクリートでもない不思議な感じの素材で出来た道路を車が走り、美美達を揺らしていった。


「これって、あんまりサファリパーク向けの車じゃないですね」


「はは。

 中に入る時は普通のクロカン車で行きますよ。


 我々はハンターですけどね。

 まあ一線級の人材は、ほぼ誰もいない状態でもありますし」


「いずこも同じですか」


 とにかく、これでクエストは一個片付いたのだ。


 今回のクエストからして農場地区でも、何かクエストが出ていて、美美が行くと更にその先のクエストが美美個人向けに発せられるのに違いないのだ。


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