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1-41 今夜は……

 それから美美は顔を顰めながら、その地面スレスレに設置された意地の悪いスリットに苦労してカードを挿入した。


 一瞬ブンっと微妙なハム音を奏で、ゲートを塞いでいた壁は綺麗に消滅した。


 外で待ってくれていた狩猟ギルドの人達は歓声を上げていて、二人の帰還を称えてくれ、少し年配のハンターの人が訊ねてきた。


「いやあ、よくやってくれましたー。

 ところで、どうやって解除したのですかな」


 美美は彼を中へ手招いて座り込み、ぶっきらぼうに支柱の下を指で指指した


「解除用のスリットなら、そこにあったわ」


 その短いが、少々ささくれだった感じの(いら)えに彼も目を瞠り、しばしそいつを馬鹿のように見つめていたが、突如として爆笑を始めた。


「いやあ、いかにもオーディの運営らしいやり方ですな。

 うわっはっはっは」


「えー、笑い事じゃないんですけど。無駄に二日間もサファリパークを彷徨っちゃったわー」


「はっはっは、さすがにこれはすぐに見つからないでしょう」


 だが美美は首を振った。


「うーうん、あたしが間抜けだっただけなのよ。


 もっと頭が切れる人間なら、真っ先にここを捜したかも」



「いやいや、この広大な狩猟場のどこかと言われれば、焦って飛び出していくのが普通ですわ。


 まさかそんなところにあるだなんて、大概の人間は思いもしませんよ。


 クエスト自体は無期限でも、我々の食料は一ヶ月持たんのですから。


 しかも五万人のプレイヤーがね」



「そうなのよねー……。

 じゃ、当座のお肉の調達はお願いね。


 早めに食料の供給があると、皆も落ち着くと思うの。


 日一日と食い物は無くなっていくし、農場の方も何かトラブっているみたいだから」



「そうですなあ。

 では狩りに行けそうな装備の人間を、明日の朝から向かわせるとしますか」



「明日、我々は手土産を持ってC地区へ行きますから。


 あ、これ今日の戦果。

 羊と猪の肉三分の一と素材は全部あげます。


 あ、虎の毛皮はあたしに頂戴」


 自分のインベントリに転送されてきた獲物を見て、顔を綻ばせる彼。


「ジンギスカンですか、いいですなあ。

 今日はとっておきのビールを開けちゃいますかな」


「あ、それ参加したいな。

 私の本業は料理人ですから調理は手伝いますよ。


 料理人ジョブとしてのスキルはないですが、元々料理は普通に出来ますので」


「そうですか、そいつはありがたい」


「狩りに行けそうなハンターさんは、あまり人数がいないですか?」


 その話題には彼も眉を曇らせた。


「ええ、まあ。

 みんな、張り切ってハンタージョブでゲームにログインしてきますからねえ。


 見事に一線級のハンターは全滅です。


 元々、物好きが多いギルドで、人数も少ないですし。


 ここは、どっちかというと観光や腕試しの新人冒険者が来る方が多いんじゃないですかね」



「まあ、PVPの設定がないゲームなんで、流れ玉を食らってもダメージないはずですしね。


 でも、今はどうなのかな。

 ちょっとよくわからないんですよね」


「はあ、そういう事ですか。

 では入場も迂闊な人が入らないように制限した方がいいかもしれませんね」


「うん、なんかこうやたらとリアルになってしまっていると心配だわ」


「あと、ハンターも日頃はハンタージョブでログインしていない、なんていうか少しロートルな感じの人しかいなくてですな。


 今狩猟に出られるのは、リアルからの恩恵がほぼないような人ばかりでして」



「あっちゃあ、そうでしょうねー。

 うちら料理人もそんな感じなので、食糧供給にも支障が出ていますよ。


 その辺は仕方がないので、勇者に頼んで戦闘職の応援を呼ぶしかないですね。

 連絡しておきます」


「お願いします」


 後ろから別の若い人に声をかけられた。


「すいません、他のゲートも見てもらえませんか?

 結構広いので、明日でいいんですが」


「ああ、はいわかりました。

 どうせ……」


「きっと、門の内側の同じところにあるんでしょうなあ」


「十か所を一つずつ開放しないといけない仕様かあ。

 もう嫌がらせに近いな」


「ああ、車で回りましょう。

 外から回れば早いですよ。

 私がお送りいたしますから」


「ありがとう。

 じゃあ今晩は、リアル料理人の腕を振るうとしますかあ」


「はっはっは、それは楽しみだ。


 何しろ、こっちは比較的年齢の高めなおじさんしかいませんのでなあ。


 若い娘さんの手料理なんて滅多にありつけないですから。


 リアルじゃ、嫁に行った娘が近所にいるので、たまに来て作ってくれますが」



「そうですか。うちは実家住みなんで、休日は父と一緒に私の手料理で自宅飲みしたりしてますよ」


 そう言って、美美はまだへばり加減のチワワを拾い上げた。


 とりあえずの心の重荷も降りた事だし、今夜のお楽しみに心の照準を合わせていくのだった。


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