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1-3 自分キャラ

 外へ出てみると何かこう、何をしたらいいのか自分でもよくわからなくて病院内を漂っている新米看護士か何かのように、多くのプレイヤーが大通りを漂っていた。


 いつもの喧騒のように馬車や自動車その他は走っておらず、歩行者ばかりの歩行者天国状態であった。


 だが、何か様子がおかしい。


 いつもの、なんというのか、いかにもゲーム内のキャラですよといった感じの矍鑠(かくしゃく)とした自動歩行しているような様子ではなく、道行く人々に何かこう現実世界で歩いている市井(しせい)の人のような妙な現実感があるというか。


 そして大親友に、御馴染みとの待ち合わせ場所である近所の広場で出会って、その理由が判明した。


「ぶははははは。

 やっだー、美紅ったら」


「やっぱり、あんたもかー。

 美美、自分の顔を見ていなかったでしょうー」


 そう、そこにあったのは、お互いに自分の『本当の顔』であったのだ。


 同じく体付きも同様だ。


 実際に、ヘッドギアを装着するとセンサーにより自分の体形や造形などから基本データを電子的に収集し、そこから好きなキャラをカスタマイズしていくのだ。


 美紅は身長百五十五センチくらいの、小柄でやや丸顔の可愛い系の女の子だ。


 リアルでは丸音が値をかけている眼鏡っ子であった。


 まあ比較的グラマーな方だろうか。


 一方で美美は身長百六十五センチくらい、比較的スレンダーではあるがそれなりに肉付きはよく、出るところは一応出ているのだが、さすがにこの世界のアバターと比べてはいけない。


 面長美人で、今は黒のストレートロングをなびかせているが、今の今までそれに気がつかなかった。


 無意識のうちに手で弄ったりする癖がついているので、ゲーム内のアバターも金髪だが同じようにロングストレートにしており、髪を弄ってみても感触は普段の生活通りなので。


 まさか、こうなっているとは思ってもみなかったのだ。


「そっかあ、こんな何か急に現実染みた感じになってしまったゲーム内世界では、日常の現実世界の身体スペックでないと支障が出てしまうだろうからね」


「たぶん、何かの安全装置みたいな物が働いたのか、本人そのものの肉体のデータである初期のデフォルトデータでキャラクターを再現しているんだねー」


「うはあっ。

 今、あんた以外の知り合いに会いたくないっ」


 美紅の前で、少々だぶついた感じの衣装を持て余す感じの悪友(ミミ)が頭を抱えていた。


 それを見た美紅が、ひらひらと手をくゆらせる感じにして踊りながら親友を弄っていた。


「ふ、日頃から自分を大幅に偽っていたりするから、いざという時にそういう事になるのですよ」


 美紅のゲーム内でのデフォルト・リアルアバターは、ミミと同じくボンキュッボンな体形の、ロングでウエイブのかかった赤毛の髪で、碧の瞳の華麗な賞金稼ぎだったはずなのだが、今は別のジョブであるネタキャラである『遊び人』になっていた。


 おかげで、やはり服はだぶだぶで、より滑稽な感じとなっている。


 特にカスタマイズしないと、アバターキャラのデザイン自体は各ジョブ共通になっている。


 大概の人はゲーム内で知り合いに見分けてもらうために、異なるジョブでも同じキャラを使い回すのが基本だ。


 少々後ろ暗いプレーを楽しむ輩にとっては、また話が別なのだが。


 遊び人とは、文字通りゲーム内の様々なミニゲームやフェスティバルなどのイベントを遊び倒す天才みたいなジョブ? なのだ。


 だが、このような状態に陥ってしまった場合には少々困ったジョブなのかもしれない。


 御遊び専用のジョブであり、あまり実用的な要素が皆無なジョブなもので。


 しかもログアウトできないので、他のまだ少しは有望なジョブへのジョブチェンジが出来ないときたもんだ。


「あー、なんだかなあ。


 遊び人の衣装は気に入っているんだけど、この他ならぬあたし自身が何よりもアンマッチだわねー。


 服がだぶだぶで実に格好悪いわー。


 でもあんたこそ、本業が料理人のくせになんで戦闘モードのアバターなの?」



 こっちもまた、ただの女の子風なので迫力がない事この上ない。


 元々の設定キャラは、これがまたガンアクションを派手に決める一流映画に登場する美人女優のような、グラマーな金髪美人の設定なのだ。


 近接戦まで何故か得意で、近接で格闘技とガンアクションを取り交ぜて戦える力がある。


 ただ能力はジョブとして今も発揮できるようだが、アバターの見かけが本人そのものなので、黒の防護服が思いっきりだぶついていた。


 しかも油断すると、胸のサイズが大幅に足りないせいで胸の前部分がかなり際どくはだけてしまいそうなので、仕方がないのでずっと手で押さえていたのだ。


 まるで、大きすぎてだぶだぶなのか伸びてしまっているのか、そういった感じの緩い水着を親から着せられてしまっている女の子のような有様だ。


「さー。

 料理人ジョブでログインしたらこうなっていたよ。


 あー、御飯を食べてきてよかったなー。


 現実世界で腹ペコだったら今すぐ困るじゃない」


「同じく。

 今夜は餃子とラーメン大盛りで、がっつりいっといたわ。


 あと、トイレとかがねえ」


 美美は思わず想像して身震いしてしまった。


「い、嫌すぎる。


 いい歳こいて、ゲームの最中にお漏らししていて親に見つかるとか」



「まだ家族に見つかるならいいわ。

 あたしなんか賃貸で一人暮らしなんだぞ。

 どーすんのよ」


「明日までにログアウトできなかったらどうしよう。

 会社へも連絡できないし」


「親が見つけて連絡してくれるって。

 うちは上司が見に来てくれるかどうかだなあ。


 どうか、その時に漏らしていませんように」


 後で、ガンスリンガーの服装は調節しようと心に決めた美美であった。


 一旦衣装をアバターからエジェクトすれば、衣装箱の中でサイズなどの調節は利くのだ。


 大元の自分だって日本人の女性としたならばそう捨てたもんじゃないスタイルなのだが、完全にボンキュッボンのフィクション的なグラマー外人体形に合わせたセパレートタイプ・ブラックスーツの胸元があまりにも物寂し過ぎる。


「でも、今のステータスってゲーム内でのそれっぽくない?


 今も銃を背負っているけど全然重くないし、ほら」


 そう言って、美美はその場にて助走抜きで身を屈めてから軽々とジャンプをしてみせた。


 かなり重い銃器を手持ちで易々と撃てるガンスリンガーは、激しいガンアクションに耐えられるように力も強くて、数あるジョブの中でも身体能力は比較的高めの設定になっている。


 今も軽く三メートルは飛び上がっただろうか。


 幸いにして、あまり雑多なジョブに浮気してこなかったせいか、このイベント専用のようなサブキャラの能力は決して低くない。


 明らかに上級戦闘職のそれなのだ。


「ひゃー、長年見慣れたあんたの顔と身体でそれをやられると、どうにも違和感あるなー」


「うっさい。

 でも何があるかわかんないから当分一緒にいようよ。


 それにしても困ったなー」


「あいよ。

 まあ、そのうちに運営も動くでしょう」


「だといいんだけどなー。

 復旧がなかなか困難な大規模障害だったら困るう」


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