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1-29 遅すぎた朝

 爛ママ龍五郎の特製サラダと濃厚ポタージュスープに、スペシャル・オムライスをたらふくいただいて、皆満足そうにくつろいだ。


 アイテムとして出した、お洒落なクラッシックタイプのテーブルランプの炎が幻想的に揺らめいている。


 このあたりのエフェクトがまたゲーム的で凝っていて人気なのだ。


 ただリアルに現実を再現すればいいというものではない。


 この手のゲームには、こういう細かい工夫が要求されるのだ。


 まるでリアルにファンタジー世界の住人になったような感覚がいいのだ。


 こういうリアルでは買うと高そうな品も、ゲーム内の通貨で買えたりもするのが、こういうゲームのよいところだったりする。


 リアルではとてもじゃないがやれない、高価そうなハンドメイドクラフトの店を開く、工芸派のプレイヤーも少なくない。



「イーグル。

 明日は、どこから行く?」


「そうだな。

 本当は農場ゾーンでプレイヤーの話を聞きたいが、それはC地区だからな。


 調査チームのメンバーの話からすると、彼らも宿舎に住んでいるんじゃないか。


 シェルターもちゃんと使えたし。


 あと、やっぱりお前に農場施設のシャッターを開けられるのかどうか試したいな」



「そっか。まあ、とりあえずB地区を目指しているんだしね」


 A地区からはこのABウォークを通ればB地区へ、ACウォークを通っていけばC地区へ直行できる。


 地下街のなんとかウォークなんかと同じような物なのだ。


 ただし、どこの地区からでも全地区へ通じる通路があるのは、リアルな地下街とは異なる点だ。



「とりあえず、B地区の狩猟ゾーンを目指したい。


 お手軽にたんぱく質を入手といきたいもんだ。


 まあ狩場の中へ入れるかどうかはまた別だが。


 向こうの人間が誰か彼かはいるんじゃないのか」



「じゃ、そうしよ」


「明日は忙しくなりそうだ。

 みんな、よく寝ておいてくれ」


「はーい」

「美美は寝すぎないでね~」


「その台詞、そっくりあんたに返すわー。

 入社式に寝坊したような大物に言われとうないわ」


「いや、あたしが先に起き上がれる気がまったくしないからさ」


「お前ら、ちゃんと目覚まし機能を使っておけよ。


 遅くても七時には起きてくれ。

 朝飯を食って、八時には出発するぞ」



 それから、同じ二段ベッドで寝る事にした美美と美紅。


 なかなか寝付けないのか、じゃんけんの末に上段を獲得した美美から話を切り出した。


「ねえ、美紅。

 なんかさあ、ここまで来て、なんかこう凄い違和感がなかった?」


「あったあった。

 何しろねえ」


「あんな絵みたいになっちゃう店とかあったし、この世界ってもう、あたし達が知っているゲームの世界じゃないんじゃないの」


「うん、そんな気がすんのよねー。

 でもそれなら、今のあたし達って何なんだろう。


 ゲームの世界の装備や能力を持って、ゲームと似て異なるような世界へ来てしまったって事?


 あるいは精神のみが」



「わかんない。


 ただ、ここがもしかしたらオーディの中じゃないとしたら、そっちの方が合点もいく。


 それならNPCがいないのも頷けるし。


 それに、どんどん生活がリアルになってきているし。


 まるで、あたし達が来たからリアルの人間に合わせた世界へと改変していくように感じるわ」



「でもそれだと、やっているとしたら誰が?」

「さあー、運営かな?」


「ゲームじゃないのに?」


「そうなんだよねえ。

 あと気がかりな事がさ」


「あー、プレイヤー同士で喧嘩が可能って事?」


「うん……今までは、そういうのなかったもんね。

 せいぜい口喧嘩くらいで。


 それって殺し合いじゃなかったら、一種のPVPさえもOKって事なんじゃない?」


「どうなんだろうねえ。


 相手の持ち物は奪えないし、殺人やレイプなんかの危害を加える事もできない仕様のはずだし」


「ま、なるようにしかならないか」


「そうそう。

 でも食料は絶対に手に入れたいよね」


「だね。お休み、美紅」

「お休み~」



 そして、翌朝。


 なんだか、やたらと戸を叩く音がする。


 しばらく半目でボーっとしていたのだが、ムカついた美美が叫んだ。


「あうー、もう煩いなあ。

 寝てらんないでしょうに」


「アホかー、今何時だと思っている。

 もう八時だぞ。

 七時に来いと言っただろうが~」


「ええーっ」


 慌てて起き上がる美美。


 美紅に至っては見事に寝息を立てたままだ。

 あっぱれ遊び人。


「起きろーっ」


「起きた、起きた。

 あれえ、おっかしいなあ」


 そう言えば夕べ目覚まし機能をセットした記憶がないような、と寝起きの頭をボリボリとかく美美。


 そして、二段ベッドからもそもそと降り立つと、下のベッドで寝ている美紅を蹴った。


「起きろ」

「むにゃあ」


「ぬう、そっちがその気なら」


 そして手早く奴の布団に潜り込み、超くすぐりの刑に処した。


「ぐはははは~。

 な、何々。

 ああ、おはよ、美美」


「早く起きなよ、もう大遅刻だからさ。

 あんたも目覚ましかけてなかったのね」


「そうかもしれん。

 うふう、もう朝かあ。

 あー、よく寝たなあ」


 それから大急ぎで支度をして、ジョブ装備に換装し部屋を出た。


「ごめーん」


「ったく、二人していい度胸だ。

 お前ら、朝飯はイベント賞品を歩きながら齧っとけ」


「へーい」


 そしてよく見たら、美紅は立ったまま寝ていた。


「寝るな!」


 イーグルにズラを叩かれて起きる美紅。


 この特別仕様の遊び人装備には、『鼻提灯製造機能』が付加されていたりする。


 こういう時には寝ているのがモロバレなのであった。


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