1-27 力試し運試し
そこは街道沿いに初めて見かけた店だった。
ジューススタンドで、ホットドッグやアイスクリームを販売している店だ。
今は当然閉店だが、壁に描かれた単なる絵のようになっている訳ではなく、一応は立体的な店舗の状態だ。
この世界で本気で店を閉められると、そういう見た目になってしまうので。
「お店、閉まってる」
「閉まってるねえ」
「うーん、ちょっと試してみるか」
「何を?」
「四十ミリ機関砲を振り回せる、このパワーを」
「あのねー。
こういう事って、力があればいいってもんでもないような気がするけど、まあ単にやりたいだけなんだよね。
ま、あんたらしいって言えば、あんたらしいな」
「では失礼いたしまして、ふんっ」
美美はしゃがみ、その小さな店舗の全面を封鎖している、地面の高さから始まるシャッターの指をかける場所に両手をかけ、腰を痛めない態勢で気合を入れた。
ガキっと音がしてシャッターは抵抗した。
「今、音がしたね」
「したねー」
「それってロックに当たるまで、ちょっと動いたって事だよね」
「かな~」
美美はその態勢のまま振り向くと、イーグルに確認した。
「ねえ、A地区の商業ギルドなんかもこんな感じだった?」
「ん? そうだな。
あっちは、もっとなんていうか、完全固定のオブジェクトにでもなっちまったかと思うような感じだったように思うが。
なんというのかな、もうそれそのものが、ただのコンクリートの塊と化したかっていうくらいのもので、髪一筋分も動かなかったぞ」
「という事は、こっちは単に鍵がかかっている程度の感覚なのかなあ。
ねえ、四十ミリ砲を撃ち込んでみちゃ駄目かな」
「駄目だ、やたらと壊そうとするな。
シャッターのロックを力づくで壊すのも駄目だ。
取り返しがつかないような事になったらどうするつもりだ。
まず、あちこちを覗いてみて、帰ってから検討しよう。
今回は、そうやって開くかどうかの確認に留めたい」
「へーい」
「ねえ。
そもそも、ここのお店って手持ちの武器で壊せるようなもん?」
美紅は禿げズラを被った首を捻り、イーグルに訊ねた。
「いや、ここの店舗なんて可動式の不破壊オブジェクトのようなものだから、本来なら破壊出来るはずがない。
それがイベントに必要な時だというのならいざ知らず。
もし、万が一壊せてしまったというのなら、ここはもう俺達の知っているオーディの世界じゃないという事だ」
「じゃ、どこなのよー」
「そんなの俺が知るか」
美美は、そんな二人のやりとりをBGMに、もう一度シャッター開放にチャレンジしてみたが、多少ガタガタするのみで開きはしなかった。
「ふんふん、ABウォークのAR01スタンドバー・フレッシュミントは、美美ちゃんが開けようとすると音がするまでシャターが僅かに動く、通常閉店モードと」
書記のイルマが、映像記録とマップ式のチェックシートの書き込みを行っていた。
「音がする感じに動くだけたいしたもんだわ。
街の方の商店・倉庫・ギルドなんかは完全に固定状態だから。
こっちの方がまだ見込みあるって事で幸先いいわね」
そう言いつつ彼女も試していたが、今度はシャッターがビクともしない。
「非力な魔道士の力では、やはりビクともしないと。
シャッターとかが開く場合でも、美美ちゃんのような力のいい人がやらないと駄目っぽいわね。
次回はイーグル・爛ママ・美美ちゃんの順でトライしてみてくれる?」
「ねえ、店の持ち主に鍵を開けてもらうのは無理?」
「美美、ここはNPC店だよ。
店の主は消えちゃったんだと思う。
どこかに合鍵がある訳じゃないしね。
普通は常時開店しているはずだもの。
特に最初のスタンドだし、常時開けておきたいからプレイヤーにはテナントとして開放していないんじゃないの?」
それにも関わらず、鍵付きのシャッターなんかを装備しているのが、ここの運営の拘りというか、よくわからないところだ。
「美紅、あんたやけに詳しいわね」
「伊達に遊び人じゃありません事よー。
ここは全店制覇済みです」
「マジか。
じゃあ、行きがけにやっていそうな感じの店を優先的にガイドしてくれ」
「ラジャー、ボス」
だが、そこから始まるショップ・ストリートも、まちまちな感じだった。
さっきのスタンドのようになっているかと思えば、壁の絵みたいになっているものや、立体的な感じのだが固定オブジェクトのようになっているものとか。
「こりゃまたカオスな事になっているな。
まあ真面な事になっていない店は一目で判別できるから却っていいか。
イルマ、しっかりと記録にとっておいてくれ。
後で整理したら何か手掛かりがあるかもしれない」
「わかりました。
開く店があるといいわね」
「ああ、一軒でも店が開いていて、とりあえずの苦境を凌げるだけでも随分違うのだが」
「時間が稼げたら、対策を取る時間もあるもんね。
じゃあレッツゴー。
美紅、どうせなら遊び人は楽しく踊りながら行ってみようか。
まあ気分だけでも」
「ほいきた!」
先頭を遊び人が踊りながら歩き、もうヤケクソなのか、後ろ足で立って同じように踊りながらその後に続くチワワがいたのだった。




