1-26 他地区へ
「じゃ、行こうか」
「あいよっ」
美美は、禿げズラ鼻眼鏡の相棒と一緒に、他地区への道行きにはしゃいでいた。
だが、またもリーダーとして同行したイーグル倉田が首を捻った。
「なあ、なんでそいつと一緒なんだ?」
「あたしが退屈しないようにですー」
「うちも同じく」
「そして何かをやる必要が出た時には、そこの遊び人の足元にすら及ばない、このただの愛玩動物たるチワワもいるっす」
「足元にはいていいよ、だって可愛いんだもん」
そう言いながらしゃがんで、チワワである彼の頭を撫でてやる美紅。
しかし、美美は遠慮なくこうのたまった。
「何を言うの。
その鼻は思いっきり当てにしてるもんね」
「あー、何か成果がでればいいんですがね~」
「だって、雲を掴むような話ばっかりなんだもん。
一匹しかいない犬の鼻は貴重だわー」
「はあ、このボディ何故か嗅覚とか聴覚とかが本物並みに凄いんですよね。
何故、そこまで犬っぽさを再現したっすか、運営」
「まあまあ、元々は愛玩動物としての起用なんだからさ。
駄目元でいいじゃないの。
遊び人が遊び、犬が匂いを嗅げば、普通じゃない何かが起こるかも。
いやホント、起きてください。
マジで。あたし一人であれこれ探すのは絶対無理!」
「遊び人は、そういう何かを引き起こすジョーカー的な能力もあると言われてるよね。
まあトランプの絵柄由来の話なんだけど。
しかも遊んでいる最中にしか奇蹟は起きないという噂だから」
「でもここの運営って、そういうベタなネタが大好きだよね」
「そして、そういうネタが好きな客が集まっているのであった」
「しかも、MMORPGで遊ぶ人口の半分がそうだという訳で」
「それが原因で、更にベッタベタなネタが運営によって世界に反映されていくのよねー」
他には魔王軍討伐チームの面子だ。
人間五人の犬一匹という編制だった。
「A地区を出るのって久しぶりだなー」
「A地区も拡張していないよね」
「前回かなり大規模な地区拡張をやったからね」
「そういやさ、新地区を作るとか言っていた話はどうなったのかな」
「さあ、まだまだ先だったんじゃないの。
正式には概略マップすら発表されていないんだしさ」
「実はもう出来ていた新地区、そいつが半ば稼働していて実装を待つばかりだったとか。
そいつが今回の悪さ加減の原因だったりしてね」
「そこまで出来ていたら、あのお喋りな運営なら黙っていないよ」
「かもねー」
女子連がお喋りに花を咲かせていた頃、男性陣は共通の知己である芥について話していた。
「なあ。
奴が言い残した言葉、俺達がここにいる理由を探せみたいな話、龍五郎はどう思う?」
「そうねえ。
でも、今もこうやって何かを調査に出かけている訳だから。
しかも何があってもいいように精鋭部隊で。
不確定要素のプラスを見込んで、犬や遊び人まで連れているわけだし。
赤沢もあんたの話を気にしていない訳じゃないから、人手が足りないにも関わらずあんたを送り出して、自分はまた新たに抱え込んだ仕事にかかりきりなんじゃないの」
「そうだなあ。
この間派遣されていった連中も特に何か見つけられなかったようだし。
一番期待がかかるのは、美美のあのカードだよな。
そうそう手掛かりはないのかもしれないが、食糧の在庫とかを考えると、何かがあってほしい」
「食い物の話は切実だからねえ。
でもよかったわあ。食い物は他人に奪えない仕様にしてくれてあって」
「ああなんていうか、もう完全に今の状況にする気満々で設定してあるよな。
なんていうか、宝探しならぬ食料探しゲームだ」
他地区へは本来ならばポータルか何かで移動してしまえばいいのだが、わざと道を通って地区間の旅を楽しむ設定になっている。
今は閉まってしまっているが、道中には飲食店や遊戯施設なども多数設置されている。
そこで抽選に当たったりイベント報酬などで出店権利を得たプレイヤーが店を出したりする事も可能だし、各種ギルドの中にも、そこに拠点を構えているクランなどもある。
街はプレイヤーの数が増えれば拡張し、大きくなっていく。
この地区間街道も、要望があれば拡張し店舗やテナントビルなども増やしていく、街道という形の一種の街といってもいい。
一行は、そこも調査しながら行くのであった。
彼ら自治会は、あくまでA地区の自治会なので、こういった街道や他地区はどうしているか知らないが、そのあたりに知己のいる人間を通して情報を得る予定だ。
もし向こうにも自治会が出来ているようなら連携する事も視野に入れている。
そういう意味もあって倉田も一緒に来ているのであった。
基本的に議長には倉田が向いている感じなので、長く議長を勤めそうだからというのもあった。




