1-25 パスカード
「それで、ここからがまた難儀なお話なんだけど、もしかしたら一番重要な案件かもしれない」
「ほお、そいつは興味深いな。
聞かせてもらおう。
お前は直近のイベントの功労者だからな」
有力な冒険者クラン・オマールのリーダーである斎藤薫が、そこで興味を示した。
「ピンポーン、まさにその議題です。
ズバリ、これ」
それは例の銀色のパスカードであった。
「ふむ、それは?」
「これは魔王討伐の報酬じゃなくって、その報酬を獲得した時の特別報酬なの。
たぶん、貰った事があるのはあたし以外にいないと思うんですけど。
赤沢さんも見た事はないって」
「見せてくれ」
ナンバー2クランのリーダーが近寄って確認してくれたが、首を振った。
「俺にもわからんな。
パスカードだと?」
「えーとですね。
運営はあたしにこうアナウンスしました。
『おめでとう、ミミ。
本年度の魔王ラスト討伐報酬の序列第一位権限が与えられます。
銃器による討伐でありましたので、同系統の対魔王級武器が与えられます。
なお、特殊イベント武器の二年連続獲得達成に敬意を表し、運営から特別なパスを謹呈いたします。
そして、あなたの更なる精進を願います』
特別なパスとだけしか聞いていないわ。
でも、その後の大きな環境の変化を考えると、もしかしたらこのカードも何か関係があるというか、これの使い道次第で進展がある物なのかもしれなくて。
だって、ここへ来て運営と連絡がとれなくなってからの初めてのイベントで、特別に貰った唯一の物だから」
そこで生産系の数少ない出席者から手が上がった。
眼鏡でひょろっとした二十代前半くらいの男だ。
「あー、通常生産系のプレイヤーが使っているタイプのものではありませんね。
パスなんて大概は個人のゲーム認証を使って済ませてしまいますので。
個人では、それを指輪などに転送して遊ぶのに使う技術系もいますが、あまり安全ではないのでね。
そういう訳で、ゲームアイテムとはいえ失くしやすいカードなどで個人が使う事はまずないです。
運営だけが使うセキュリティカードのような物でしょうか。
何かのイベントへの招待状か、何かの設定条件をクリヤすると商品が貰える特別なキーなのか。
すみません、その手の生産系の人間の間での噂にすらなっていないくらい特別なものですね。
もしかしたら運営がワンオフで設定した特殊な希少品なのかも。
これから使っていこうと準備していたアイテムのプロトの可能性もあります。
たぶん、ゲーム内で私らが解析するのは無理でしょう」
また別の生産系の女性からも意見があった。
「ICカード系のものかしら。
あるいは何かに挿入するとか当ててみるとかで起動する物。
そういう個人に与えられた物はきっと、持ち主が手当たり次第に何かやってみないと、何に使う物なのかわからないわねえ。
他人に預かってもらい、トライしてもらってみても駄目じゃない?
前にも、そういうタイプのイベがあったのよね」
「ああ、宝探しイベか。
使っていたカードの質も紙製の使い捨て用って感じだったな。
あれは参加賞が酷かった。
なんかショボイ感じのコレクションカードのみだった。
しかも、なんかの使い回しデザインの奴」
「一等賞の賞品も微妙だったみたいよ。
骨折り損のくたびれ儲けだってボヤいてたわ。
時間がない中で運営もネタ切れの苦し紛れの苦肉の策だったんじゃないかって、もっぱらの噂だったわね」
その話を額に皺を寄せて聞く美美。
前にそういうイベがあったという事は、今回もそれに該当する可能性がある。
おそらくカードはそれよりも遥かに上等そうだが、あまりよい物、あるいはサービスではないのかもしれない。
何かこう記念品的な何かのような。
たぶん、通常にゲームで楽しめるなら感激物の内容なのだろうが、今のような『蜘蛛の糸』的な期待に相応しいのかどうか非常に心許なくなってきた。
結構ウルトラC的な内容を期待していたのだが。
「わかりました。これに関しての確認は自分で頑張りますが、何か情報があったり、こいつを使えそうな場所を見つけたりしたら教えてください。
カードを嵌める、カードを翳す、あるいはカード挿入用のスリット他ですね」
「お前からは、そんなところか?」
「あと気になるのですが、この状況になってから子供のプレイヤーとかを見ていませんよね。
もしいたら保護してあげてほしいのですが。
あと、お年寄りも御世話が必要かも。
不思議と、あたしはそれらの少しはいるはずのプレイヤーをまったく見ていないんです。
まあいないならいないで幸いなのですが」
それを聞いて参加者達も顔を見合わせた。
「俺も見てない」
「私も」
「言われてみれば。不思議ね」
「大概は、あのくらいの時間なら、どこかには何人かいるはずだけどな」
「そういや、家族連れも見ていないな」
「大体、若者の範疇に入る人が多いな。
十代以下の子供もいなければ、四十歳以上の人もあまりいないようだ」
「ま、まあいなければいいのよ。
いたら、自治会としては放っておくのもなんだなという話なだけなの」
だが斎藤や赤沢、倉田などの主要メンバーは、少しその意味について考えているようであった。
何しろ、大量にいたはずのプレイヤーのうち、5%くらいしか今ここにいないのだ。
そのように多くのプレイヤーが不思議に感じるような事は、また異変の謎を解くためのカギの一つではないかと考えているのだ。
「ふむ、謎だらけだな。
まあ、とりあえずまずは食い物からだ。
特に他に意見表明や疑問などがなければ、とりあえず解散して行動に移りたい。
また何かあったら、いつでも遠慮なく言ってくれ。
会合を開きたい奴は、言ってくれれば開くようにしよう。
ないか? じゃあ、自治会メンバーは残って、主要な人達とフレンド登録して連絡先を確保してくれ。
それが終わった人から解散してくれ」




