1-24 懸案事項
「あと、気になる点について何点か、みんなの意見を聞いてみたいの」
「それは食料調達委員会からの提案なのか?」
冒険者ギルドでナンバー2クランの、オマールのリーダーである斎藤薫が手を上げた。
さすが、それなりのチームをまとめ上げているだけあって、落ち着いた雰囲気をまとっている。
今日も、スーツではないが比較的落ち着いたスタイルで来ている。
実は以前からかなりの年齢であるとの噂があったのだ。
言う事がいちいち、結構おっさん臭いらしい。
本体の容姿を見た限りでは、短髪に刈り上げた頭は金髪に染め、パッと見には三十歳前後の見た目だ。
しかし、なんとなく見た目よりも落ち着いた雰囲気があるので、『実はかなり若作り』だという噂がまた流れ始めているが、本人は黙秘を貫いている。
名前もやや古い印象がある。
また「かおる」は『昭和のおっさん』には割と少なくない名前なのであった。
「そうよー。
なんていうか、もしかしたら関係があるんじゃないのかなっていうようなレベルの話も混ざっているけどね。
謎と謎がどこかで絡み合っていて、一見あまり関係なさそうな事象同士が同じ原因で起きていて、ひょんな事から食料問題が解決するとか、そういう事を期待しているの。
さすがに今の状況はきついわ」
「なるほどな。
お前は諸所の事象から判断し、食料問題が解決できるのではないかという見込みで、その役職を引き受けたという事か」
美美は頷いた。
彼の言いたい事もなんとなくわかる。
せっかく役職を分けて、言い方は悪いが権力を分散するような体制でまとめたのに、若い奴がそれを台無しにしたらという危惧があるのだ。
そのあたりを、若さでこの主力のメンバーを引っ張る赤沢は、常に配慮して一歩下がるような姿勢で非常にうまくやっている。
年齢的にも長老クラスの斎藤が、そのあたりの突っ込みを引き受けてくれたのだ。
議長に彼を採用する方向もありだったのだが、やはり若い勇者がぐいぐい引っ張って、ナンバー2クランのリーダーにして落ち着いた雰囲気の斎藤が監査するという雰囲気は悪い体制ではない。
彼はそういう事もよくわかっている人間だった。
だてにナンバー2クランのリーダーではない。
「だってね。
この前のイベの参加賞。
あれはどう見ても……」
「ああ、一ヶ月以内に食料問題を解決してみせろと言わんばかりの内容だったな」
そう、あの参加報酬の内容とは。
「そう、『この報酬として渡した一ヶ月分の食料が尽きる前に見事に食料問題を解決してみせろ』、そう言わんばかりの内容でしたよね。
もう、まるで何かのクエストであるかのように」
「あれのお蔭で、拠点に引き籠ったままの連中も後を絶えんのだがな」
そう、しかもなんとイベント参加者だけでなく、プレイヤー全員に与えられたのだ。
『これのどこが参加賞だ、ふざけろ』
『何にもしていない奴にまで配っていたら意味がねえじゃねえか』
『これを一体どうしろというのか』
『ちょっと運営出てこい』
そのような意見も続出したのだが、運営に連絡が取れないわ、廃棄も出来ない仕様だわで史上最強に物議を醸したのであった。
それに第一、すぐに腹が減り出したので、文句を言っていたプレイヤー全員が沈黙に帰したのであった。
「じゃあ、まず一点目。
NPCに関して。
NPCが一人もいなくなってしまったにもかかわらず、この前のイベントでは魔王軍といえども大量のNPCが出現しました。
つまり、ここがまだゲームの世界であると仮定して、魔王戦まではNPCを出現させられるシステムが生きていました。
あれはまだ生きているのか。
そうならば、食糧生産系あるいは商業系のNPCも再登場が可能なのかもしれない。
確認するには、あれ以降でNPCが出現しているかいないか。
常時調査の対象にする事を食料調達委員会から提唱します」
またざわめきがホールを支配した。
今度は少々熱を帯びて、互いに確認しあっている。
「噂だけでもいいの。
それを元に調査メンバーを派遣するわ。
私が直接乗り込んでもいいし」
「ではとりあえず、それは全体のメンバーでの継続的な調査事項という事で」
「じゃあ、次ねー。
それはズバリ、ジョブを取り戻したい。
それに関して、何か情報ないしアイデアのある方。
また拠点に戻ったら他の人にも聞いておいてほしいわ。
もし料理人のジョブを全員が取り戻したら、たぶんそれだけで食料問題は解決するの。
私と合わせて、料理人ジョブをカンストしているクッキングマスターのプレイヤーが十人、その他で高ランクな料理人ジョブを所有する人が九十人います。
ここにいる皆さんも、その意味はわかるよね」
料理人ジョブは創り上げた料理を、コピーして大量生産できるのだ。
今のように材料から集めないといけないような状況でそれが可能なのかは未知数だが、美美のように強力な料理人ジョブを持つ人間の感覚では『可』なのである。
それはもう、他のクッキングマスターにも確認済なのだ。
そして議長の赤沢からも補足があった。
「そいつに関しては、戦闘系プレイヤーに関しても同様だ。
現在、全体の戦闘力が低下し過ぎている。
これに関しては当初からの問題だが、この先何があるのかわからん状況では切実な問題だ。
みんな、この案件も心に留め置いてくれ」
「ねえっ、トイレットペーパーはー?
あれも在庫が切れたらお終いよー」
続いて女性プレイヤーの一人が悲痛な声を上げた。
「そうねー。
あと注意しておいてほしいんだけど、私達が単なるゲームのキャラではなく、急激に人間化しているように、オブジェや背景なんかでも現実のもののようになっている物があるかもしれない。
例えば果物や作物、牧場の牛豚鶏に、山にいる山羊や羊など食べられそうな家畜類とか。
そういうのがあると牛乳や卵が手に入るし。
木があれば生産系のプレイヤーがトイレットペーパーくらい作ってくれるかも」
「じゃあ、あれこれと捜索だな。
これでギルドが生きていたのなら、掲示板がその手の捜索依頼でビッシリになるはずなのだがなあ」
生憎とこの冒険者ギルドの本来の主の居場所は静まり返り、カウンターもブラインドが締まってしまったままであり、そいつをどかす事さえ出来ない有様なのであった。




