1-22 委員会メンバー
「後は仕事を出来そうな奴でメンバーを決めたい。
悪いが、うちは冒険者クランだからな。
有能な奴らが率先してウサギや犬になっちまっているくらいだ。
分野や議題ごとに、なるべくそういう専門のギルドから人を出してほしいのだが。
なんとか委員って感じでな」
そして彼は最前列に座っているイーグルを真っ直ぐに視線で射た。
彼は諦めたように頭をかきながら立ち上がる。
「はいはい、やればいいんでしょ、やれば」
「みんな、そいつはリアルじゃ二十代半ばほどで大企業の課長になったくらい優秀な奴だ。
性格的にも問題がない。
今からそいつを副議長兼、二代目議長に指名しておく。
彼は現在クランには所属していないが、実力もピカイチでクランのサブマス経験者でもある。
どうだ?」
少し苦笑するイーグル倉田本人を除き、賛同の輪が広がった。
特定のクランに属していない中立性も好ましいポイントだ。
彼も本当は芥を捜しに行きたかった。
彼がこの異様な状況を打破する鍵になるのではないかと考えているのだ。
赤沢としても、本来ならば彼を議長に指名したかったのだが、この混乱している時期の最初の議長は勇者クランの威光でまとめた方がよいと思い、自分が立候補したのだ。
奇しくも、異なるクランで勇者としてリーダーを務めた自分と、勇者の補佐をしていた人間が新タッグを組む形となった。
その反面、芥問題を倉田に任せたい考えもあったのだが、食糧問題も合わせて一緒にやっておけばいいと思い直したのだ。
そして、そっちの問題も絡むとなれば、当然次のメンバーは。
「では時期議長も兼ねて副議長も決まったので、次は龍五郎。
あんたも何かやってくれ」
おっと、という感じに立ち上がる龍五郎。
さすがに彼は大勢いるこの集団の中でも一際異彩を放っており、ざわめきが広がった。
さっきから、彼の周囲は空間が目立っており、体格と容貌も相まって格別な注目の的であったのだ。
「えー、あたしに何をしろと?」
だが、わかっているだろう? という赤沢からの言葉にならないメッセージを視線から受けとった。
「あんたには、いろいろ俺からの特命事項をやってもらいたい。
いわば、荒事というか危険を伴うかもしれないような物も含めて任務を遂行する特命議員ってわけだ。
いいよな?」
その、リアルからのフィジカル補正を見込んでの起用なのだ。
しかも異様に濃いタイプなので、その迫力を前にして、そう簡単には相手が逆らえまい。
「はあ。
まあやってもいいけど、それには食糧問題も入っているんでしょ。
そいつはあたしの管轄外よ。
関わっていないとは言わないけどねえ。
あとついでに、時期副議長もやんないわよ」
「わかっている。
そっちは補佐をつけるよ。
それに、あんたの時期副議長就任は、俺の現議長権限で今この瞬間に全力で拒否しておこう」
場を爆笑が渦巻いた。
さすがに、それはないと皆も思っているようだし。
まあ妥当な方向性だった。
大体において、いい感じの面子は揃いつつあった。
彼らは実力者でありながらも、人を見下したりおかしな真似をしたりはしないだろうと思われているメンバーだ。
「そういう訳だから、美美。
お前を奴の補佐につける。
あれこれ、やってもらいたい。
特にカンスト料理人マスターとして、食料問題のアドバイザーも務めてほしい。
龍五郎もリアルでも店をやっていたから、なかなかいいタッグだと思うが」
その指名に、まだ壇上にて赤川と共にあった美美もさすがに顔を顰めたが、あっさりと承諾した。
「あっちゃあ。あたしは料理を作る方が専門で、原料調達は管轄外なんだけど。
まあ、どっちにしろ食い物は集めないといけないんで、やるしかないかあ。
やるなら関係するギルドやクラン、プレイヤーの協力を得たいわ。
そういう訳で、どうせやるんなら、ただの補佐じゃなくて何かいい肩書をちょうだい。
あと補佐を二人欲しい」
「ほお、では欲しい肩書は?」
「そうねえ、じゃあズバリ食料調達委員長で。
それなら、うちの地区じゃない人達にもインパクトがあるから。
B地区やC地区の有力なプレイヤーの協力は欲しいわ。
あとチワワが欲しいな」
また場を笑いが支配し、当のチワワが壇に駆け寄って可愛くキャンキャンと抗議の声を上げた。
「おいおい、これを一体どうするつもりだ」
「可愛い物を連れていくと、話し合いの場が和むじゃないの。
だって議題が議題だけに、話し合いでも殺伐とした空気が醸成されかねないんだもん。
和み系で補佐までしてくれる優秀な人材は欲しいのよ。
チワワくれないんなら就任は拒否よ。
ウサギの方はあんたにあげるから。
だってウサギなんか連れて歩いてると食料扱いで、持ち主のこっちまで狩られそうだし」
「えー、あたしって今、マジで食料扱いなの~」
それを聞いて涙目のショウが本気で嘆いた。
「じょ、冗談よー。
非戦闘状態のセーフモードにしておけば手なんか出されないって。
そもそも捕まえられない設定のはずなんだし」
「おっと、そいつをセットするのを忘れてましたねー。
戦闘能力もないような小動物の分際で!
はいセーフモード起動しました」
「いいけど、この前のイベみたいな時には、それ役に立たないからね」
「そうだったー!」
「という訳で、議長秘書までなんとか決まったね」
「う、そう来ましたか。
うちの大将が議長なんだから、それは仕方がないですね。
まあ、電脳世界でよかったです。
ウサギの前足では筆記用具とかは持てませんからね」
そして、チワワが気弱そうに言った。
「あのう、俺のポジションわ?」
「「愛玩動物!」」
同じ愛玩動物のウサギ並びに食料調達委員長から同時に突っ込みが入った。
「あ、ドッググードとウサギフードも探さないと!」
「あるのか? そんな物が」
イーグル副議長の疑問はもっともな話で、その場の全員がもれなく首を捻った。
なにしろ、そいつらは元々周年記念のマスコットプレでしかないのだ。
それがプレイヤーの体になってしまうなど理解不能の事態なので。
「うーん、なきゃ作るしかないよね」
「で、出来ましたら美味しい物がいいです。
なるべく草は食みたくないですねえ。
人間としての尊厳が……」
「とりあえず、チワワはネタ景品でもらった魔物の骨でもしゃぶっておきますかあ……」
「一応、キャットフードと」
「ハムスターフードもお願いしますー」
その他の愛玩系キャラからも請願があった。
「あんたらは議長の補佐役ね。働かざる動物食うべからず」
「はいはい、食糧調達委員長様」
「おなしゃーす」