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1-19 勇者の称号

 それから、しばらく休憩の後に皆で街へ戻っていったのだが、街の入り口で赤沢が待っていた。


 そしてイーグル達帰還者と出迎え人の間で短いやりとりを始めた。


「お帰り」

「ただいま」


「赤沢、芥に逢ったよ」



「やはり、刹那だったか。


 遠目に瞬間見ただけだったんで、はっきりと確認できなくて思わず心が揺れた。


 想定外の事態だったので、接敵前に本隊を引いてアリスも向かわせなかった。


 みんな、よくやった」



「疲れた」


「こっちもだ。

 一旦冒険者ギルドへ戻ろう。

 皆が待っている」


「わかった。

 おいみんな、ギルド会館まで戻ろう」


「そうしましょ、そうしましょ」


 やや非力なのは否めない彼女にとっては、きつい行軍となったイルマもボヤいていた。


「いや、マジで疲れました~。

 こんなにキツイ魔王戦イベは初めてです。


 あたし、もう少しフィジカルを鍛え直そうかしら。

 最近ウエストが気になっていて」


「ああ、お疲れさん」


 それから美美がレッドアント赤沢に向かって報告した。


「これ、賞品で貰いました」


「ほお、今度は機関砲か。

 またえらい物を。


 これはたぶん四十ミリだな。

 またこいつは奇天烈なくらいでかいな。


 まだ昔の外人風のミミならこいつを持っていても、ゲームキャラっぽくてむしろ納得なのだが、今のお前が持つと凄まじくアンバランスな代物だな。


 本当にお前がそれを使えるのか?」


「さあー」


 ミミも、とりあえずそれをウエイトトレーニングのバーベルのように首の後ろにズシっと置いて膝屈伸を何度かやり、そのまま赤沢の周りをドカドカと駆けてから、少し離れた場所で銃身を持ってグルグルと何度も振り回してみせた。


「まだ試射していませんが、なんだか手持ちでも撃てそうな気がしてきました」


 それを見て、豪快に仰け反り笑いを見せた勇者赤沢。


「お前、本当にたいした奴だな。


 それにしても、二年連続で魔王退治用の武器を手に入れるとはな。

 そのうちに勇者の称号でも付きそうだ」


「勇者の称号?」


「ああ、勇者というのは、運営が勇者の称号をプレゼントしたプレイヤーの事さ。


 それが与えられる基準は、それを持っている自分でも全部はよくわからんのだが、生半可な事では貰えんはずだ。


 言動やプレイ記録から判定する人格査定まであるぞ。


 見たのだろう?

 あいつを、芥刹那を」


「ええ、あれの相手をするのはさすがに嫌だな。


 今日はまだ比較的友好的な雰囲気だったので助かりましたが。


 それにしても魔王を狙撃した弾丸を弾くなんてありなんですかね。


 あれって魔法ですか?

 さすがに肝が冷えました」


 それを聞いて、また赤沢は豪快に笑うと一言。


「言っておくが、今までの勇者でも、魔王イベにて二年連続で褒賞武器を手にしたような奴はいないからな。


 通常なら、ただ一人に与えられる栄冠だからな。


 お前の三十ミリ砲は周年記念も兼ねた滅多にない大判振る舞いなのだ」



 それを聞いて目を丸くする美美。


 冷やかしでイベに参加したのに、単に参加チケットのナンバーで引き当てただけの物なのだから。



「まあ褒賞も凄いんで、独り占め禁止の意味合いからもそれはなかったのだが。


 魔王に止めを刺すチャンスに恵まれるだけでも、あれは凄いのだぞ。


 言っただろう。

 お前は強運、そして『持っている奴』なんだと」



「まあいいんですけど。


 ああ、そういや二年連続で魔王を討伐できるようなイベント褒賞武器を入手したからって何かを貰いましたが、何ですこれ。


 運営から特別なパスを謹呈と言っていましたが」


「ほお? 見せてみろ」


 取り出された物は、手の平サイズの小型電卓程度の大きさで、ただ銀色の輝きを放つ金属様の軽量な板であった。


「ふむ、俺は貰った事がないのでよくわからないのだが、運営が特別にイベント功労者に謹呈すると言うのだから、それなりの物なのだろう。


 パスというくらいだから、特別な場所への通行証とか何かの特殊なイベントへの入場証なのかもしれんな」


「へえ、いい物なんでしょうかね」


 だが赤沢は少し妙な含み笑いを見せた。

 ミミはそれを訝しみ、彼の返事を待った。


「その辺はまあ考え方一つだな。


 こういう場合は大概、『お前を強者と見做して』それなりの面子でないと入場させられないような特別の催しへのインビテーションとなるものかもしれん。


 強者の証としてあの機関砲とセットで貰ったというからには、まあその中身は想像がつこうというものだ」


 さすがの楽天家のミミも、これには顔を顰めざるを得ない。


「わあ、ゲロゲロだあ。

 あのう、これって勇者向きのイベントチケットじゃありません事?」



「魔王を仕留められるような武器を二年連続で獲得しておきながら、なんだその弱腰は。


 もしかすると、勇者の称号が賞品のトーナメントとかかもしれんじゃないか。


 そんなものなのだったら、俺が出たってしょうがないというもんだ」



「うえっ、そんなイカレた奴らの相手だけは勘弁してくださいな。


 まだPVPで魔王の相手をする方がマシですよ。


 頭のおかしい勇者や魔王軍の軍勢に邪魔されなければ、魔王なら私でも自力で倒せるじゃないですか」



「はっはっは、対戦の第一シードが芥刹那とかでどうだ?」



「もうあなたも含めて、勇者にはゲップが出まくっていますよ。


 特に、あのカラシナ君は何がやりたいんでしょうかねえ……」




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