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1-18 連賞

 そして呆けているミミを、その新魔王はワンドを持つ手で差した。


「いかん。

 避けろっ、ミミ」


 慌てて転がって無様な姿を晒すミミに、芥はまた哄笑を放った。


 不思議と敵意を感じないのだが、あまり人らしくない魔染みた感じの笑いであった。


 それを見る倉田が棒立ちになって魅入られたかのように動かないのも、その印象を強くした。


 ミミは這いつくばった態勢のまま、困惑を友とする以外にどうしようもない有様だった。


 だが、そこで芥が言ったのだ。


「おい、そこの女。

 お前の武器は魔王を倒せるものだろう。


 撃て。


 そこの魔王は、ちょっと『杖で斬った』だけだからな。


 俺の武器では、少しくらい攻撃した程度ではイベント魔王は倒せん。


 今のうちに魔王に止めを刺しておかんと、いくら死に損ないが相手でもお前らは全滅するぞ」


 それを聞いて慌ててミミは起き上がった。

 若干逆上気味で。


「一体どうやったらワンドで魔王を斬れるのよ~。

 ちょっと、どういうつもりなの⁉


 あんた、本当に何がやりたいの?

 あたし達をおちょくっているの?」


 だがその美美の発した問いには答えずに、芥はくるりっと一行に背を向けた。


 そして、妙に普通っぽい感じに言った。


「倉田、いや鷹よ。

 答えを捜せ。


 何故、お前らが今こんなところにいるのかをな」



「芥さんっ、それは一体どういう意味なんだ!


 第一、あんたは確実に死んだはずだ。


 俺は、俺はっ!

 日本であんたの葬式にだって出たんだぜ!


 事故で受けた無残な傷口を縫われて、葬儀に出せるように整えられた顔も昨日の事のように覚えている。


 それとも、今のあんたはただのアバター、あるいはAIかなんかに過ぎないのか⁉」


 だが次の瞬間、ミミの三十ミリライフルがそのやりとりを硝煙の香る轟音で断ち切った。


 皆がそのやりとりに注目して注意が逸れた瞬間に、計ったかの如く騙し討ちのようにスパっと立ち上がってきた魔王の体のど真ん中を、一人魔王を監視していた美美が腰だめのクイックモーションで撃ち抜いたのだ。


 何しろ、扱う武器が三十ミリ砲なのだ。

 こいつは高ランク・ガンスリンガーならではの離れ業だ。


 魔王の体は圧倒的なまでの威力を秘めた熱い塊の暴力の前に砕け、そしてその醜悪なスタイルのアンデッドの肉体が、荒野に倒れ伏す前に(ちり)と化した。


 そして魔王に気を取られ、一瞬イーグルが目を離した隙に(あくた)の姿もまた消えていた。


 それから、イベント終了を報せるチャイムというか、まるでサイレン様の鐘の音がイベント会場となったフィールドの全てに響き渡り、黄昏時の夕日が大地から吹き上がるような荘厳なエフェクトに、辺り一面が燃え上がるかのように包まれた。


 トラトラトラの報は、本来は不要な物であった。


 あれは形式的なものだ。


 何故なら魔王を倒せば、このイベントは終わりを告げるはずなので。


 プレイヤーには御馴染みの、中性的で抑揚の少ない電子音のアナウンスは続く。


『おめでとう、ミミ。

 本年度の魔王ラスト討伐報酬の序列第一位権限が与えられます。


 銃器による討伐でありましたので、同系統の対魔王級武器が与えられます。


 なお、特殊イベント武器の二年連続獲得達成に敬意を表し、運営から特別なパスを謹呈いたします。


 そして、あなたの更なる精進を願います』


 そして新着のお報せがあったので、そこを目線でクリックしたら、そこにはとんでもない代物が突っ込まれていた。


「うわっ、なんだこれ」


 それはなんと巨大な【機関砲】であった。

 本来であるならば、人間が持つような物ではない。


 およそ標準的な成人男性の身長ほどもあるのではないかと思うほど長大な砲身は、おそらく四十ミリ口径だ。


 少なくとも『ガンスリンガー〔ガンマン〕』などという人種が、通常使う物ではない。


 西部劇の時代のガンマンとは異なり、現代のガンマンであるガンスリンガーはその名の通り、ライフルなどに装備されている方に背負うための吊り紐(スリング)に由来する、もっぱらミリタリー系のイメージが強い。


 主にハリウッド映画の世界のイメージだ。


 そして新しく美美に褒賞として与えられたアイテムは、成人男性が複数人で思いっきり抱えないといけないほどの巨大で重量のある機関部を持ち、男性の肘から先ほどの凄まじい大きさと太さを誇る、これまた巨大な弾薬を使用する。


 しかも、それは機関部の左横に突き出た、これまた異様に巨大なボックスマガジンにて装弾される。


 まるで旧型の機関銃か何かのような方式で、最近ではあまり使用しない給弾方式だった。


 マガジンステー上部には持ち手がついており、左手で吊るすかのように支えるようになっている。


 限りなく、超大型チェーンソーでも持つかのようなスタイルだ。


 弾薬の種類は三十ミリライフルなどと同じ十種類ほどで、予備もあるのかマガジンは二十本付属していた。


 他に地面に置いて使用するための回転砲座となる台座と、そこで使用するためのベルトマガジン及び、それを収めるための巨大な弾薬箱などのオプションがあった。


 これも十種類分のベルト及び予備ベルトがあった。


 これらは、真っ当な銃器開発思想で作られたものではない、既に魔王の討伐を終えてスーパーステータスを手に入れた人間だけが、電脳空間でのみ使えるように開発されたゲーム内専用兵器だった。


 しかし、ここではジョブのステータスによりパワーが強化されて、それを標準的な体格の日本人の女性が軽々と扱える。


 魔王バスターの称号を持つ最高のガンスリンガーは、その人間用としてはあまりにも強大過ぎる反動も一切ものともせずに、まるで本物の機関砲のように強大な敵を屠る事が可能なのだ。


 運営からの褒賞メール経由で収められたインベントリから取り出して、ズラリと並べられた『手持ちの大砲』と弾薬やアタッチメントの量に、皆が呆れていた。


「ミミちゃん。

 あんた、人間銃座から人間砲台になったわねー」


「それ、本来なら大型のガンシップみたいな地上攻撃機や、海上警備隊の割と大型の船なんかに積むような代物なんだぞ。


 はっきり言って大砲だ。

 お前、ちゃんと手で持てるのか?」


「ああ、うん」


 ミミはそう言ってから、ひょいっと巨大な機関砲を持ち上げた。


「す、すごいわ、ミミちゃん。

 力持ちねえ」


 同じ女性で、フィジカルのステータスが低い魔道士のイルマは思わず目を剥いた。


「あー、ガンスリンガーっていうジョブは元来こういうものなんです。


 なんていうかな、重量のある武器を扱う都合上、身体能力に関してはもっともパラメータの恩恵を受けているジョブなんじゃないでしょうかね。


 また、魔王を討伐したんで、さらに力なんかもアップしてそう」


「あー、あの超大型ライフルもいやに軽々と扱っているなあと思っていたんだけど、ミミちゃんって去年も魔王を倒せる武器を手にしていたせいで、戦闘イベでも活躍できているだろうから、ステータスが大幅に上がっているのね」


「あ、たぶんそうです。

 でもこいつは連射する機関砲だから反動が凶悪そう。


 ステータスは上がったんで、今なら手持ちでも撃てるはずですけど」



 だが、美美には一つ大きな疑問があったのだ。


「ねえ、イーグル。

 そういや、魔王軍はどうしちゃったのかな。


 アンデッドの魔王が一人で来ていたけど。


 魔王殺しライフルの三十ミリ対アンデッド弾一発でケリがついちゃった。


 アンデッドなのはさっき狙撃中に確認しておいたんで、念のために弾薬をそいつ用に換装しておいたんだよね」



「ああ、そいつはおそらく、あの芥が一人で蹴散らしたんだろう。


 あいつがワンドを持っていたのは見ただろう。

 あいつは凄い魔法系の勇者だからな。


 現役勇者の頃も、そういう芸当をサラっとやってのけた男さ」


「マジっすか、元勇者って超ヤベエーー!」



「そうか、刹那ちゃんは別に魔王軍についていた訳じゃないのね」


「今思えば、ミミの弾丸を弾いたのは、たぶん挨拶代わりっていう事なんじゃないのかな。


 本当のところはよくわからないが。


 そして、魔王は俺達への手土産みたいなもんだから、わざと倒していなかったのだろう」



「うわあ、その手土産あたしが一人で食べちゃいました……」


「別にいいさ。

 どの道、魔王を一撃で倒す武器を持っていたのはお前だけなんだから。


 芥の奴も俺達が魔王にやられて全滅するなんて言っていただろう。


 あれは本当だ。


 本来の討伐なら両翼の魔王軍部隊を冒険者二千人ずつで押さえさせて、真ん中の魔王を選抜部隊の高ランク千人がかりでやるんだから」



「うわっ、さっきは魔王を警戒しておいてよかったなあ。

 あいつ、意外とセコイんだよね」


「まあ、アンデッド系はな。

 一応、俺達にも報酬は届いていたぞ。


 みんなも見ておくといい。


 どうやら、俺達が早めについてしまったせいで本隊は魔王軍に接敵していないはずだから、戦闘報酬をもらえるのは俺達だけなんじゃないのかな。


 本来ならいい物が十個くらいは貰えるはずなんだが、今日は俺達の分の四個だけで打ち止めだろう。


 もったいねえ」



 それを聞いて、自分のメールボックスを覗く面々。


「イーグルも何か貰った?」


「ああ、今の剣よりは少し大柄くらいの魔法剣だな。


 しかも火と氷と風と大盤振る舞いの、魔法属性三種盛りの付与がついている奴だ。


 こいつは軽い上に複合魔法剣が使えるんでありがたいな」


「あたしは斬撃特性の付いた、今使っている杖の三倍くらい強力な威力で、しかも軽くて強いミスリル製のワンドですね」


 どうやら芥が使っていたワンドにも、そのような斬撃特性がついていたものらしい。


 元勇者とはいえ勇者が魔王を斬ったのだから、考えてみればそれで合っていない事もない組合せの話なのであった。


「あら、あたしの報酬って」


 龍五郎の何か困惑した様子に、美美が小首を傾げて物問いたげにした。


「これよ、これ」

「何、これ」


 見せてもらった物体に目を丸くする美美に、爛ママ龍五郎は微妙な顔で答えた。


「うーん、オカマ専用ヌンチャクですって」


「ええっ、それ専用にする必要あるの⁉

 ネタ枠⁇


 それどう見ても普通の大きな金属製のヌンチャクだよね。


 確かに相当重そうで凄い武器には見えるんだけどなあ。


 ママって、これを日本でも素で使えちゃいそうだね」


「さあねえ。

 まあ、せっかくだから貰っておきましょ。


 ネタ武器としてお店に飾っておいてもいいしね」


 そして目にも止まらぬ早業で空を切る、龍五郎ママの見事なヌンチャク捌きを見せてくれたのだった。


 どちらかというと、オカマ専用ではなく龍五郎専用といった按排の超ゴツイ代物なのであったが、その本人がオカマなのでオカマ専用と言えなくもないのであった。


 とりあえず、そのパフォーマンスに対して残りの全員で惜しみなく拍手をして、魔王討伐イベは無事終了と相成ったのであった。


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