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1―14 魔王退治は岩山登りから

 この狙撃班は、なかなかに体力には自信があるチームだった。


「イルマ、ここからどんどん地形が険しくなるけど大丈夫か?


 聞いた範囲では、このチームの中では、魔法士であるあんたのステータスが行軍には一番キツイはずなんだが」


 そのメンバーのステータスに気を配る指揮官の言葉通りに、前方には体力の少ないジョブの女性が行軍するには少し厳しいような、岩だらけの地形が長く展開されていた。


「ありがとう、へっちゃらよ。


 あたし、こう見えて元は自衛隊出身だから。

 リアルで行軍には慣れているのよ。


 アバターのジョブによる体力的な恩恵は少ない魔法士だけど、それでもステータスの恩恵も多少はあるわ」


「マジで⁉」


 イーグルも驚きを隠せなかった。


 この今使われているデフォルトの自分アバターは、妙に本体のステータスが上がるというか、単に自前の能力がアバターに影響するようだ。


 通常のゲームでは、そのような事はないのだが。


 たとえば、勇者赤沢や爛ママ龍五郎などは明らかに戦闘力が異常に増している感じなのだ。


 逆に、ミミなどは本体である美美の、リアルな見かけの華奢といってもよいようなアバターであっても、能力は自分が強力に育てたガンスリンガーのステータスのものだ。


 ただ、その場合も肉体的には特にアドバンテージのない美美なので、お兄さん方のようなリアル本体補正によるアバター強化のような要素はない。


 強いて言うのであれば、お料理くらいは現在の料理力が繁栄されて、並みのアバター以上に出来るくらいだろうか。


「あたしは結婚して辞めたから、自衛隊にいたのはもう何年も前になるけど、当時鍛えた筋肉は今でも健在よ。


 今も腕立て腹筋走り込みは毎日欠かしていないの。


 子育てに体力は必要だからね。


 ああ、それにしても早く帰らないとまだ子供が小さいから心配だな」


「それもマジで⁉」


 思わず一人の女性として突っ込んでしまう美美。


「今三歳よ」


「た、大変だなあ。

 イルマさん、そんな小さな子供を置いてきちゃったんだ。


 そうか、まだ若いんだもん、子供だって小さいよね。


 きっと家の人が心配しているんだろうな。

 本当に、今あたしらの体ってどうなっているんだろう」


「ま、そいつは今考えたってしょうがないわさ。


 うちは旦那がもう滅茶苦茶に子煩悩なんだし、実の母親も近所に住んでいるの。


 まあなんとかなるわよ」


 イルマはそのように楽天的な口ぶりで、にっこりと魅力的な笑顔を返した。


 そして、今度は爛ママがイーグルに絡んだ。


「もう、イーグルったら、あたしの心配はしてくれないのね。

 もーお、このイケズ」


「あのなあ、龍五郎。


 リアル・フィジカル王者のあんたが、この面子の中じゃあ一番後まで二本の足で立っていられそうな情勢なんだからな。


 いざとなったら、あんたがミミを背負っていって任務を完遂しろよ。


 指揮官である俺の代わりは増援のアリスが引き継いでくれるだろうしな」


「ほっほっほっほ。

 それも悪くない提案だわね」


「一応、あたしもステータス的にはたぶん大丈夫そうだけど、万が一の時はお願いしまーす」


「よし、頑張って進むぞ。

 魔王が通過しちまった後に現場へ着いたって何の意味もないからなあ」


「まさにその通りだわ」


 イルマもステータスの低さを、自衛隊上がりのリアル・フィジカルで補いながらの行軍に勤しんでいた。


「ねえイーグル。

 魔王って、いつもどのあたりにいるんだっけ」


「ん? まあ中盤くらいかな。

 毎年位置取りは違うぞ。


 魔王の種族もまちまちだしな。


 さすがに、毎年そっくりそのままじゃユーザーだって興醒めだ。


 運営手抜きコールだって湧いちまうしな。


 何しろ、ここの戦闘系イベじゃサイト最大のお祭りイベなんだから」



「今年は魔王が先頭にいてくれないかなあ。

 早めに撃ち倒したいわ。


 魔王軍のど真ん中にいちゃあ、生きた心地がしないから」



「おいおい、どっちかというと暗殺する気なら魔王の位置取りは後ろの方がやりやすいんだぜ。


 前にいた場合は、うっかりへたを打つと魔王が下がってしまって、先に押し寄せる全魔王軍の相手をせにゃあならなくなる。


 もしも、そんな状況になったなら、お前の狙撃タイムリミットが極端に短くなるぞ」


「げ、そいつは願い下げだなあ。


 ガンスリンガーとして結構イベントには参加したし、狙撃は回り持ちのポジションで何度も経験しているから丸々素人じゃないけど、今回みたいなシチュでそいつは勘弁だあ」



「はは、お前ってそういうあまり緊張しないところがいいよな。


 これでブルっちまうような奴だと作戦成功率が極端に下がるからな」


「まあ、そういう性格ですので」


 それは、この現実感のない世界の出来事だからという事が大きいのだ。


 もしこれで、今自分達の存在が生身と同じような物だという事にでもなれば、その時点で戦場を恐怖と戦慄が駆け抜ける事になるだろう。


 彼らは所詮、ゲームで遊んでいただけの一般人でしかないのだ。


 むしろマジの生き死にがかかるような事態にでもなれば、ゲーム内の勇者リーダーなどよりも退役自衛官の主婦の方が遥かに肝も据わっていて動じないはずだ。


 だが、実際にどうなのかはわからない。


 もしわかるとしたら、それは部隊に『人的損失』が出た時なのであろう。


 その結果がどうなるのかは、勇者を始めとした誰にも今はわからない。


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