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1―13 作戦開始

「こんにちは、スナイパーさん。

 確かミミちゃんだったっけ。

 今日はよろしくね~」


「あ、ちわっす。

 どうも、ミミです。

作手美美(つくでみみ)だから、そのまんまです」


「あたしはイルマ。

 本名は安藤亜沙美。


 入間市からの参入だから、そういう登録名なのよ。


 元から蟻さんチームじゃない臨時の助っ人なんで勝手がよくわからないけど、指揮官じゃないから何にせよ気が楽だわ」


「自分なんか強引に最終兵器扱いにされているんですよ。


 あたし本当は戦闘職ですらないんですけどね。

 あの強引な勇者さんには、本当に困ったもんだ」


「あはは。

 そもそも、ここってどこにあるのかしらね。


 ただのゲームトラブルであるものか。


 通常ならば、どこでもないようなネット空間の海の片隅なのか、あるいはサーバーの所在地という事になるものか。


 はたまた各自の意識みたいな物は自分の本体傍のPCの中に留まっていて、こことは回線を通して通信しているだけのものだとか。


 何か訳のわからない事になっている事だし、とりあえずこのイベは無事に終わりたいわね。


 早く家に帰ってシャワーを浴びたいわ」


「そうですねー、あたしも早くビールが飲みたいっす」


 狙撃の護衛チームの中で魔法による遠距離攻撃を担う砲台を担当する、ポニテにまとめた綺麗な天然と思われる栗色の髪をした、二十代後半に入ったところかと思うくらいの女性と話す美美。


 イルマは人懐っこい感じで、どちらかといえば可愛いと言う表現が似合うような年齢よりも若く見えそうなタイプだが、美人と称しても決して間違いではない容姿だった。


 そして、勇者レッドアントの演説が始まった。


「それでは、これより魔王討伐軍、全五十五名が出発する。


 敵はもう開始アナウンスと同時に進軍を開始した。


 済まないが仲間のうち五名は緊急性が高いと判断した別任務についている」


 少しメンバーがざわついたが、威勢のよい声がそれを小気味よく断ち切った。


「は、勇者の大将様よ。


 あの大軍勢を相手にこっちは数えるほどの面子しかいないんだ。


 今更五人やそこらいようがいまいが、そうそう変わりゃあしませんぜ。

 なあみんな」


 他のクランから組み込まれた応援の戦士が、そのような陽気な声を上げてくれたので、少し場の空気が和んだ。


 この若い人が多いメンバーの中では、三十台前半くらいで少しばかり歳のいった感じの人だった。


 悲観的になったって、いい事は何もないのだ。


「現在、俺達はここで通常の通りに死んだ場合、どうなるのかよくわかっていない状況だ。


 その情報に乏しい中での、ぶっつけ本番での超厳しい戦闘になるから各自慎重にやってくれ。


 いつもと違って今回は俺達本隊が魔王とは直接戦わないから、そこは肝に銘じておいてくれよ。


 魔王を撃ち取るのは、そこの大砲持ちの勇ましいお嬢ちゃんの仕事だ」


 いきなり皆の注目を浴びて、美美は慌てて長大なライフルをインベントリから取り出し軽く振った。


 皆、これが魔王を倒せる威力があるのを知っているので、現物を見せて安心させるためだ。


「よし、俺達は只の囮だ。


 ただし、あまりわざとらしくしても誘えないので、その辺はまたアドリブで行くしかない。


 そのあたりは、俺が臨機応変に指揮を執る。


 俺以外の戦闘班は十名ずつで二個分隊の小隊を組んでもらう。


 いいか、くれぐれも命を大事に、だ」



 皆、言われなくてもわかっている。


 どいつもこいつも、あのいきなり降って湧いた悪魔のジョブチェンジの裏をかいて、ここで戦闘装備をしていられるほどの古参のメンバーばかりだ。


 この訳のわからないような状況の中で、無用なリスクを負うつもりは端からない。


「では、イーグル。

 そっちの引率は任せた」


「あいよ、勇者閣下。


 地図上の狙撃予定ポイントまで行って準備出来たら、手短な合図の暗号通信を送る。


 それと、もしその合図がなかったら、何かがあったという事で誰かを様子見に寄越してくれるとありがたいな」


「イーグル、そいつは絶対に必要だと思うか?」


 ただでさえ、余分な人数を別動隊二つに割いているのだ。


 更に本隊の数を減らして生存率を下げるのはあまり好ましい事ではないが。


「ああ、場合によっては、そいつの報告を聞いて内容次第で本隊には撤退してもらった方がいいかもしれん。


 また、こっちが全滅している事も充分あり得るのでな。


 何が起こるの皆目見当もつかん。


 はたして、これは今までと同じような魔王軍の侵攻イベントなのだろうか」


「わかった。アリス!」


 そう言って、彼のクランの幹部達がまとめる小隊の指揮官のうちの一人に声をかけた。


 今日はいつもなら頼りになる副官も三番手の選手もペット化してしまっていて戦場にいないため、こういう重要な任務は四番手のアリスが担当する事になるのだ。


「はい、じゃあ私達は一個分隊で後方待機、後方から支援戦闘をしつつ、いつでもそっちの任務のために離脱できるようにしておくわ。


 行く時は、残りの分隊長に小隊の指揮を任せて、私が二人ほど連れて出ます」


「そうしてくれ。

 では、この先は二手に分かれる。


 ミミ、最後の詰めは任せたぞ」


「あなたが描いた計画が予定通りならねー。


 正直に言って、今回は何が起こるかわからないから戦々恐々の心境よ」


 ミミはその心境を表すように唇を尖らせ、首を竦めると艶やかな髪がふぁさっと舞った。



「まあ、それでもこの人数で魔王をやらにゃあならんのだ。


 俺達としては、お前の腕に賭けるしか道はない」


 勇者のキッパリとした宣言に対し、散らばる髪をお気に入りの飾り紐で束ねながら支度をし、応えた。


「わあってますよー。

 うちの相棒もシェルターへ行っているんで、絶対に下手は打てませんので。


 じゃあ狙撃犯は出発という事で。そっちもよろしくね」


 そして、本隊と手を振り合って別れ、狙撃班は別ルートを目指した。


 この種の戦闘イベントは徒歩が基本となる。


 魔王軍は谷などの地形を通ってくる。

 侵攻ルートは地形的に決まっているのだ。


 何故なら、その魔王侵攻イベに合わせてというか、そのためだけに設計されゲーム内のフィールドに作られた地形だからだ。


 もう毎回使い回して、こなれているというか使い古した感のあるイベと地形なのだ。


 だから、イベとは名ばかりのただのお祭りに過ぎず、さほど戦うのではなく参加賞だけしっかりと貰って、後は祝勝会イベで屋台を出しに行ってしまう戦闘職すら大勢いるほどだ。


 このイベは参加賞が比較的豪華なのも売りで、プレイヤーの参加率が非常に高い事でも有名だった。


 こういうサービスも、定額サービス制故の長所でもある。


 コストは莫大なユーザー人数で吸収しているゲームだったのだ。


 中には金を払っているのにまったく遊んでいない豪儀なプレイヤーもいて、分母の数が多いせいでその数も決して少なくない。


 そういう事も定額支払いサイトにはよくある事象だ。


 だが本日はそのような悠長なメンバーはどこにもいない。


 というか、圧倒的に人手不足なのだから。


 戦力にNPCである王国軍までも入れるのであれば、通常の千分の一しか人数がいない、本来ならば、ただただ絶望するしかない負け戦的な数字だ。


 皆、一様に厳しい顔つきを隠そうともしていなかった。


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