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縁、結ぶ。異世界結婚相談所~現世で100連敗を喫してもなお、結婚目指して異種族婚活はじめます~  作者: 宮地拓海
五章

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追加業務に拒否権なし -1-

 いつもと同じように出社し、いつもの席へと腰を下ろす。

 ただ、いつもと違うのは、かつて私の席であったデスクに私の荷物が存在していない。それくらいでしょうか。


 相談所にはまだ誰も来ていません。

 静かな室内を見渡し、ここから見るこの風景も今日で見納めかと、そのようなことを考えていました。


「……おや?」


 デスクの向こう。

 相談者様と対面するカウンターの上に一冊のファイルが置かれているのが見えました。

 あれは、お見合いを行う双方のデータをまとめて入れておくためのファイルです。あの中に、近々お見合いをされる方々のプロフィール用紙が入っているのでしょう。


 本日私がお願いされたのは、相談者様と会ってほしいということでした。

 あのファイルの中に、本日お会いする方の情報が入っているのかもしれません。


 あのちびっ娘所長が私に何をさせるつもりかは分かりませんが、情報は多く持っているべきです。その方がどのような状況にも対処できますし、こちらも心構えが整えられます。


 席を立ち、カウンターへ向かうと、ファイルから用紙がはみ出していることに気が付きました。

 きっと、このファイルを準備したのは所長でしょう。

 あの人は、そういう細かいところを適当に済ませてしまう杜撰な部分が多々あるのです。


「まったく、シワになったらどうするんですか」


 用紙を直すためファイルを手に取ろうとしたところで、はみ出した用紙に書かれている文字が見えました。




【新規登録者・プロフィール――

         

 名:トラ――

 性:シ――

 年齢――

 性――



 これは……


「おぉーっと、待ち給えカサネ・エマーソン君!」


 私の手が届くより早く、横から伸びてきた小さな腕がそのファイルを掻っ攫っていきました。


「所長……。おはようございます」

「うむうむ。おはよう。来ているなら所長室に声をかけてくれればいいのに」

「ここで待っていろ――と言われていましたもので」

「……君は本当に融通が利かない娘だね。まぁ、いいさ」


 くるりと、ファイルを人差し指一本で回転させて小脇に抱えると、ぴょんっとお尻からカウンターに飛び乗る所長。

 ……ですから、そういう杜撰なところが…………


「相談者様の貴重な情報はもっと丁寧に扱ってください」

「ふむ、検討しよう」

「没収します。私が管理しましょう」

「おーっと、そいつはお断りだ! 相談者様の個人情報は極秘機密だからね。『部外者』に触らせるわけにはいかないのだよ、むふふん」


 ……では、部外者を内側に引きずり込むような行為を慎めばよろしいのでは?


「そんなことより、今はもっと重要な話があるんだよ」

「……お伺いしましょう」

「カサネ君。君のスリーサイズを報告し給え」

「そんなくだらないことよりも個人情報の管理方法の方が重要です。必要なら私が直接あなたを再教育いたしましょうか?」


 私のスリーサイズなどという個人的最重要機密を教える義務も、そんなつもりもありません。

 あの口に溶けた鉄を流し込んで完全に溶接してしまいたい気分を必死に抑え平静を装います。


「悪いが時間がないのだ。おとなしく教えてはくれないかい?」

「お断りします」

「じゃあ、私が得ている君のスリーサイズから変更があったかどうかだけでも教えてくれないだろうか?」

「あなたがいつ私のそんな個人情報を知り得たのか存じ上げませんので、お答えしようがありません」

「私が得ている情報だと、上からナナジュウ……」

「黙らないとその口に溶かした鉄を流し込んで溶接しますよ!」


 声を荒らげると、小さな所長は目を真ん丸にして私を見、そして嬉しそうに唇の端を持ち上げた。


「君は、随分と感情表現が豊かになったんじゃないのかい?」

「……誰のせいですか」

「少なくとも、私ではないだろう?」


 今、声を荒らげたのは間違いなくあなたのせいですけれど。


「結構、結構」と腕を組んで満足げに頷く所長を見れば、反論する気も失せます。

 何を言っても、どうせ無駄なのですから。


「社会通念にもとる情報のため、お答えできません」

「そっかぁ、ん~…………まぁいっかぁ。胸が弾けてぽろりするなんてことは絶っっっっっ対にあり得ないし」


 ……なぜ、そこまで力強く確信が持てるのでしょうか?

 あり得ないとは言い切れない可能性は否定しきれるものではないと思うのですが?


「一番危険なのはウェストがぱっつんぱっつんになってボタンが弾け飛ぶかもしれないということだけど……それくらいなら面白ハプニングとして笑って済ませられるだろうし、問題ないとしよう」

「……なんの話をされているんですか?」


 なんだか、ものすごく嫌な予感がします。

 いえ、嫌な予感しかしません。


「さぁ、カサネ君! お着替えの時間だ」


 パン! と、手を叩き、カウンターから飛び降りると、所長はくるりと腕を回して所長室を指し示す。

 私に「そこへ向かえ」と指示するように。

 所長室で着替えをしろというのでしょうか?

 おそらく、そこに衣装でも用意してあるのでしょう。不敵な笑みがすべてを物語っています。

 この誘いに乗るのは非常に危険です、回避しましょう。


「相談者様の対応に不適格な衣服を着ているつもりはありません。この服装で十分対応できます」

「相談業務ならね」

「では問題ないでしょう」

「今日君が行うのが相談業務であったならば、問題はなかっただろうね」

「所長は昨日、相談者と面談してほしいとおっしゃいましたよね?」

「はて?」


 非常にイラッとくるトボケ顔で小首を傾げる所長。

 退職前であったならば、退職願を握りしめた拳で顔面を殴っていたかもしれません。

 そう考えると、退職を早まったのではないかと思えて仕方ありません。


「私は『面談』とは言っていないはずだけれどね?」

「ですが、会って話をしてほしいと――」

「そう。『会って』『話をする』んだよ、君は、この後、とても大切な人と、それに相応しい場所で、ね?」


 背筋に、嫌な悪寒が走りました。



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