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魔眼

「えっ…………何でその事を……あっ! 職業………………」


 ルチアさんは急に挙動不審になりながら、声を震わせる。


 しばらく考えた末、こう答えた。


「母の家はあまり権力が無いので、私にもあまり力は無いんです」


 無理矢理笑顔を作っているのかぎこちない。目は光を失っていた。そして、何かから自分を守るかのように手で体を抱きしめる。


 何かある。そう事情を知らない俺でも、すぐ分かるほど動揺していた。


 明らかに第一王女と差のある服装。王の従者に命令するかのようなあの口調。今思えば最初に似たような質問をしたときも少し動揺していた。


 権力が無い。それがこの王城の中で暮らす上でどれだけ重要なのか、俺は知らない。だがルチアさんがつらい思いをしている、それだけは分かった。


「まあ、今はあまり関係有りませんね」


 俺は話を逸らす。それが今俺に出来ること。いや、それしか()()出来ない、が正しいだろう。


「そっそうですよね。えっと、とこまで話しましたっけ?」


 ルチアさんの表情が少し良くなる。


「ステータスが見れるかどうかの話ですよ。スキルは見えませんでしたがそれ以外は見えるみたいです」


 俺はなるべく愛想良く言う。


「すごいっ! それが見れるだけでも十分役立ちますね」


 ルチアさんが少しずつ笑顔を取り戻す。


「ええ」


 今俺が出来る精一杯の反応をする。


「じゃあ次は空間魔法ですね。ここじゃ危ないので外に出ましょう」


「そんな危険なんですか?」


「ん~危険というよりは範囲が広いからですかね」


 範囲が広い? どう言う事だろうか。


「それじゃあ着いて来てください」


 ………………………………………。




 ……………………。


しばらく歩くと、中庭らしき場所に出た。


 様々な花が色とりどりに咲き乱れ、それぞれが競い合うかのごとく力強く主張していた。


 人影が見える。


 銀髪で紫の瞳。昨日の少女アルテナだろう。


 服装はルチアさんと似たような黒のドレスだ。違う点はノースリーブのハイネックになっている事だろう。白い肌が対照的で、とても映える。


 彼女は黒薔薇の前にしゃがみ込みじっと見つめていた。


 よく見ると、その黒薔薇どこか力なく萎れていた。


 ルチアさんが気づきアルテナに駆け寄る。


「アルテナちゃん。部屋から出ちゃダメって言ったでしょう」


 それは我が儘を言う子供を諭すような言い方だった。


 しかし、アルテナはきょとんとした顔で首を傾げる。


「ハァ……」


 ルチアさんは諦めたかのように溜め息をついた。ルチアさんの反応をみるにすでに何度も部屋から出ているのだろう。


 そんなルチアさんには目もくれずアルテナはこっちを向く。


 そしてじっと俺を見つめると、ボソッと呟いた。


「魔力を自覚した?」


 と。


 ……………………………は?なんで知ってるんだ?


 さっき俺の部屋に居なかった筈だ。なのに何故俺が魔力を使えるようになった事を知ってるんだ?


 ……………………………………訳が分からない。


 混乱する俺に対し、ルチアさんは驚愕した表情でアルテナに詰め寄る。


「もしかしてアルテナちゃん魔眼(タ マティア マギカ)|なの!?」


 もしかしたら、アルテナが鏡から出て来た時よりも驚いていたかもしれない。


「魔眼ってなんですか?」


 ルチアさんがすごい形相でバッと此方を向く。


 そして早口で、捲し立てる様にして答えた。


「魔眼は凄いんですよ! 何が凄いかって魔力が見えるんです。相手の魔力の流れとか量とか一目で分かっちゃうんですよ!? 凄くないですか? あと、とてもレアなんです」


 ルチアさんの余りの勢いに少し困惑したが、なるほど。


 普通、体感でしか分からない魔力。それを視覚で認識出来るのか。うん、はっきり言って凄く便利だ。


 俺が考えてる間もルチアさんは質問を浴びせる。


「魔力はどんな風に見えてるの? やっぱり一人一人色が違うのかしら」


「魔眼は魔力を使うの? それとも常に魔力が見えてるの?」


 時々自問自答したりと、かなり自分の世界に入り込んでいる様だ。


 それに対してアルテナは、突然の質問攻めに混乱している。まさに漫画のぐるぐる目だ。


 そして縋るような眼を此方に向けてくる。


 このままじゃ終わりそうに無いのでルチアさんに声をかける。


「ルチアさん。少し落ち着いて下さい」


 バッと此方を向き、そして何かに気づいた様にほおを赤らめて恥ずかしがる。


 そして申し訳無さそうに、


「すみません。少し興奮してしまって…………。余りにレアだっだもので……」


 と応える。


「えっと、確か空間魔法の話でしたよね?」


「ええ」


 ルチアさんはまた手帳を取り出し見ながら説明する。


「まず基本から。空間魔法などの属性魔法と呼ばれる魔法にはランクがあるんです。低い方からエナ、ディオ、トゥリア、テセラ、ペンデの五段階になります」


「エナが一番詠唱が短く、魔力の消費も少ないです。ペンデになると大量の魔力が必要なので、だいたいは大人数でやる儀式魔法ですね」


「空間魔法のエナは結界で、効果は自分の周りに透明な壁を作り出す魔法です」


「範囲が広ければ広い程、壁が厚ければ厚いほど必要な魔力も多くなります。効果時間も魔力を込めれば込める程長くなります」


 ふむ。じゃあ場合によって使い分けられるのか。狭く厚く短くだとか、広く薄く長くみたいに変えられるだろう。


「長々と説明してもつまらないのでやってみましょう。私の言った事を繰り返しながら自分のやりたいようにイメージして魔力を手に集めて下さい」


 俺はなるべく狭く薄い壁が自分の周り一メートル位にある事をイメージし魔力を手に集める。


『原初の空間よ 我が求めに応じ 我が身を守れ 結界(コーロスディエレステ)

 

 ルチアさんの言葉を繰り返す。


『原初の空間よ 我が求めに応じ 我が身を守れ 結界(コーロスディエレステ)


 その瞬間、手に集めた魔力は霧散し、透明な壁を作り出す。それはイメージしたままの物だった。


 ガラスの様な透明さが有りながら非常にしなやかで綺麗なカーブを描いている。しかし叩くとコツコツと音が鳴り、非常に固い。


 これが結界か。


「成功ですね!」


 ルチアさんの明るい声が響く。しかしそれに対し、アルテナは複雑な表情で結界と俺を見比べる。


 そしてしばらく悩んだ末、


「ロスが多い」


 と呟いた。


 効果時間は二分位をイメージしていたので、そろそろ消えるだろう。


 結界が消えるとアルテナが近づいて来る。


「魔力を霧散させるんじゃなくて、最低限の魔力でこねて作り出すイメージでやった方がいい」


 とても的確だ。俺の今のやり方だと、かなり魔力が無駄に散る。けれど粘土の様に、こねて作れば散る事は無い。


 少し見ただけで此処まで的確なアドバイスが出来るのか。魔眼、かなり優秀だ。

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