魔力とスキル
説明回です。
不思議な夢を見た。
頭に花の冠を載せた女性が白いドレスでシロツメクサの花畑を舞う。
ひとたび歩くとその艶やかな銀の髪と共に、花びらも舞う。
時々此方を見ては、おいでよと誘う。
表情こそ見えないものの、周りの景色が明るくなるほど幸福そうに見えた。
そんな彼女を俺はゆっくりと追いかける。
ついに痺れを切らした彼女は、自ら近寄り、何処から出したのか一つ葉のクローバーばかり集めた花冠を取り出す。
それを俺の頭に乗せ、『お揃いだね』と笑う。
それは銀の鈴のような澄みとおった声だった。
彼女が手を差し出し、俺はその手を取ろうとする。
瞬間、パリンッと彼女は、鏡の様にあっけなく割れ砕ける。
そこから広がる様に花畑に、空に、世界に亀裂が走り、いとも簡単に粉々になった。
◇
朝、俺はルチアさんにこの世界の魔力の仕組みについて説明を受けることにした。
呼び出す為に、俺は魔石を説明された魔導具に置く。
見たところなにも変化はない。
しばらくするとルチアさんがやってきた。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
「実は……」
俺はこの世界について説明してほしいと言う事と、午後は王都を巡りたいと言う旨を話す。帰る方法を探すにしても、この世界でしばらく暮らす事になるのは変わりない。
「そうですね。では、まず基本的な事から説明致します。この世界は女神ラワーヌが作った世界で、セイア様の世界との違いは魔法、つまり魔力が主なエネルギーだという事です。魔力によって私達の生活は成り立っています」
地球で言う電気がこの世界で言う魔力みたいな事なのだろう。
「空間の中に魔力は溢れています。しかし私達はこの魔力をそのまま使う事はできません。波長が違うのです。そのため私達は魔力を体内で変換し、自分の波長に合った魔力にして使います。魔力の波長は、ほぼ全ての人が違うので自分が変換した魔力を他人が使う事はできません。稀に波長が合う人がいますが、大抵は双子なのでセイア様にはあまり関係有りませんね」
「魔力は魔法を使ったり魔導具に魔力を流したりする事によって消費されます。あとスキルなどを使う時も消費しますね。使った魔力は魔法を発動した後、空間に帰ります」
ん? それだと疑問が生じる。
「一度使った魔力は、空間に帰っても他の人には使えない波長のままじゃないですか?」
「あっ! ごめんなさい。魔力は消費したりして体内から出ると波長が空間の魔力の波長と同じに戻るんです。そして他人の波長に合った魔力でも時間をかければ自分にの波長に合わせる事が出来ます。効率が悪いので、やる人はいないですけど」
「ちなみに魔力を変換する器官が有るんですか? それとも全身で変換しているのでしょうか?」
「それは…………確か目で変換するんだったような……目の魔力変換効率と魔力の保有出来る量でその人の強さが分かるとか何とか……すみません私はあまりそういう事は詳しく無いので…………」
「目、ですか……僕にも魔力、使えるんでしょうか?」
「勇者様と同じなら異世界人であるセイア様も女神様の力で体が作り替えられている筈なので、多分使えるかと」
良かった。魔力が使えないとそもそも生活が厳しそうだったからな。
「確認するために使ってみますか? 教えますよ」
「ええ、是非」
憧れとは少し違うが、ワクワクした感情が自分にあるのを感じる。同時に、本当に自分が使えるのかという無駄な不安も生まれる。
「まずは魔力が体内に流れているのを実感してもらいます。波長を少しずつ合わせていくのでジンワリとですが」
ルチアさんはクスリと笑いながら俺の手に両手で触れる。すると、今まで何故気付かなかったのか不思議なくらい存在感のある物が体に流れているのを感じる。
俺は驚き、目を見開いてルチアさんを見る。
するとルチアさんは笑顔で
「どうです。不思議でしょう」
と答えた。
ルチアさんの手が離れる。
手が離れても魔力を感じる。
使えたという嬉しさと、本当に自分は異世界に来てしまったのだという実感が湧き、ただ呆然としてしまった。
異世界、魔法。その言葉だけがひたすら頭の中でぐるぐる回る。
「えっと、セイア様………」
ハッと目を覚ますと、目の前に困った顔をしたルチアさんがいる。
「大丈夫ですか?」
「あっええ、すごいですね」
ルチアさんの困った顔を見て、少し冷静になる事が出来た。
「はいっ! それでは続けますね」
ルチアさんはニコニコしたまま説明を続ける。
「魔力を手に集めてみて下さい」
体を流れる魔力を、手まで流れたら止め少しずつ溜めていく。今までやった事も無いのに自然と出来た。出来てしまった。
「その魔力をこのライトに流して下さい」
差し出されたライトに魔力を流す。溜めていた魔力が外に出て行く。
ライトが光った。
「成功ですね。これをスキルに利用します。スキルは詠唱をせず使える物と、詠唱を必要とする物が有ります」
「詠唱を必要とする物は、自分の使える魔法の属性を示した物です。『○○魔法』と付く物は詠唱が必要です。それ以外は詠唱が必要有りません」
確か、俺の鑑定結果に魔法と付くのは空間魔法だけだったはず。
「セイア様は鑑定がスキルにあったはずです。それを使ってみましょう」
ルチアさんは何処から出したのか手帳を開く。革張りの手帳だ。背広は革紐で留められていて、表紙にはカーネーションだろうか? が型押しされている。長く使っているのか、大分革が柔らかくなっていた。しばらく読むと、手帳を開いたまま説明を始めた。
「鑑定は、目に魔力を集めて使います。魔力を集めた状態で、心の中で『鑑定』と唱えると使えます。鑑定は、過去に鑑定を使った人が残した情報を見たり、自分自身も鑑定に情報を残す事が出来ます」
「つまり、より多くの人が共通で認識している事の方が、詳しい情報を得ることが出来るかと。多分個人についての情報までは分からないと思います。例えばこの手帳なら、手帳の歴史は見ることが出来ても、私の手帳だという事は分からないと思います」
うーん。つまりウィキペディアみたいな物って事か。最初に鑑定を残した人の情報に次に見た人が間違いを直したり新たな情報を加える。より多くの人が知ってる事の方が情報が多いし正しい。マイナーな事はそもそも情報を残す人がいない。だから分からない。そういうことだ。
ただ逆に多くの人が勘違いしている場合、情報も間違っている可能性もあるのだろう。
「ちなみに勇者様の鑑定は特別でステータスが見れるそうですよ」
…………は? なんだそのチート。個人情報ダダ漏れじゃねーか。
ん? その場合、俺の鑑定はどうなるのだろうか。劣化版らしいが勇者の証はある。…………これは試すしかない。
「すみません。ルチアさんのこと鑑定してみても良いですか?もしかしたらステータスが見れるかもしれないです」
「ええっ! ああ! セイア様も確か勇者の証を持っていましたね」
「劣化版ですけどね」
俺は苦笑いする。
「私も気になるのでいいですよ」
許可も貰えたので早速使ってみる。
目に魔力を溜める。
『鑑定』
視線をルチアさんに向ける。
すると文字が浮かび上がってきた。
おお! 成功したみたいだ。
☆
ルチア・ルイーズ・サルディローリア 職業 サルディローリア王国第二王女
魔力 350
えっと……第二王女? マジで?
俺は動揺を隠さず質問する。
「ルチアさん……第二王女だったんですか?」