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鏡の中から出て来た少女

「まずはお部屋に案内させて頂きます」


 サルディローリア……サルディローリア……どっかで聞いたな…………………………あぁこの国の名前だ。もしかしてルチアさんは王家の血縁者なのかも知れない。


「あの〜一つ質問いいですか?」


「どうぞ………あと、私に敬語は必要ありません」


「あっハイ。じゃあえーと、サルディローリアって言う事はもしかして王家の血縁者で?」


 ルチアさんが立ち止まる。


「ええ、まあその様な者です」


 そのままルチアさんは歩き始めた。


 なんだろう。ルチアさんずっと俯いている。何かあるのかもしれない。...でも他人の事だし、あまり触れるべきでは無いだろう。


「此方がセイア様のお部屋になります。お部屋の説明をさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「あぁ。お願いします」


 部屋に入ると、この城が如何に凄いかが分かる。


 まず何処を見ても豪華絢爛、美麗荘厳。


 そして説明されて分かった事がある。この世界の生活基準は以外に高いかも知れないと言う事だ。トイレは魔導具のお陰で水洗だし、シャワーも湯船もある。水は宮廷魔法士が毎日綺麗な水を作っているらしい。


 ただ断言出来る訳ではない。この城はトップクラスに金がかかってるだろうし、王がアレだから自分は散々贅沢しておいて国民からは税金を絞り取っているかもしれない。


 だから、全ての人の生活基準が高いとは限らない。


 魔導具は本来、自身の魔力を流して使う物だが、俺のような魔力の扱い方を知らない人でも、魔石さえあれば使うことが出来るらしい。石を魔法陣に触れさせるだけでいいそうだ。


 貰った魔石は鑑定石と同じ素材で、赤く淡い光を放っている。巨大な魔石に魔法陣を刻み込んだ物が鑑定石と呼ばれるそうだ。


「掃除は、城を巡回している魔導人形(マギドール)がしてくれます」


 心なしか部屋の紹介をしているルチアさんは、生き生きとしているように見えた。


魔導人形(マギドール)とは?」


「簡単に説明させて頂きますと、魔石を組み込んだ自立式人形です。単純な命令なら大体はこなします。複雑な命令が出来るかどうかは制作者の腕によりますね。人間とそっくりなので最初は驚かれると思います」


 と、ルチアさんは笑顔で語る。


「此方の鏡は魔力を纏っていて、汚れが付かずキズも出来ません。指の痕なども残らないですよ」


「へぇ、それは凄い」


 俺は気になり、鏡に触れた。その瞬間バチィ! と音がして鏡から銀の光が放たれる。


「ヘァっ」


 ルチアさんが驚いて尻餅をつく。


 どう言う事だ!?


 ルチアさんの反応から見て普通の事ではないのは分かる。


 光がどんどん増してゆき、音も激しくなる。しかし、何処か優しい温もりを感じる。


 鏡に人影が見える。それは段々ハッキリとして来て、手が映り、やがて全身が映る。


 それは少女の姿をしていた。一糸纏わず、銀髪で透き通るような白い肌。


 その余りの美しさに俺は固まってしまっていた。


 鏡面が水のように波打ち、手がすり抜ける。次第に全身が現れてくる。


「助けて…」


 少女が小さな声で呟きながら俺に覆い被さって倒れる。


 今まで固まっていたルチアさんが動き出した。


「ふっ服。服取って来なきゃ」


「セイアさんは後ろ向いてて下さい!」


 そう言われ、俺は慌てて後ろを向く。


「えーと服っ。それと……ベッドそうベッドの用意を」


「セイアさん! ベッドの布団をめくって下さい!」


「あっハイ」


 ルチアさんの余りのギャップに少し驚いてしまった。


 俺は少女を優しく動かし、急いでベッドに向かい布団をめくる。


 ルチアさんが自分の羽織っていたブランケットで銀髪の少女を包み、そのまま抱き抱えた。ベッドに横たわらせ、


「服を着せるので見ないで下さいね」


と、強めの口調で言い、服を取りに行った。


 俺は言われた通りに後ろを向き、着替えが終わるのを待った。


 布の擦れる音がする。


 ……………………。


「終わりました。もう此方を向いていいですよ」


 俺はルチアさんの方を向く。


 ルチアさんは申し訳なさそうな表情をしていた。


「さっきはすみません。気が動転していてつい口調が…」


「ああ、別に良いですよ。俺はすぐ動けなかったですし」


 俺は手を左右に振りながら否定した。


「彼女何者なんでしょうか? 鏡から出てくるなんて……」


 怪訝そうな顔でルチアさんは俺に尋ねる。


「さあ………俺にも分かりません」


 二人で少女の方を向く。すると少女の目がゆっくりと開かれる。その瞳は美しい紫色だった。


「起きたみたいですね」


 少女が俺の方をジッと見つめてくる。その瞳はまるで吸い込まれそうな程、澄んだ色をしていた。


「えっと自分の名前は分かりますか?」


 ルチアさんが優しく問いかける。


「名前…名前……分かる。アルテナ。そうアルテナ。私の名前はアルテナ」


 少女がたどたどしく答える。


「アルテナちゃん。他に分かっている事はある?」


「……分からない。自分が誰なのか、どうして此処にいるのか。あなた達は誰?」


「えっと……此処はサルディローリア王国なんだけと、分かる?」


 ルチアさんが少しずつ質問しながら確かめる。


「分かる、大陸の真ん中にある人族の国」


 少女の〈人族の国〉という言い方が気になる。やはりファンタジーのように他の種族がいるのだろうか。


「うん、そうだね。で、此処はその国の王都ヘサリアにあるフィセリア城よ。私はルチアと言うの。此方はセイア様。あなたは鏡から出て来たのだけとどうしてか分かる?」


 此処そんな名前だったのか……


「分からない。世界の国とか常識は思い出せる。けど自分が誰で、どこから来たのかは全く思い出せない……………」


「うーん……取り敢えず今日は私の部屋で休んで。信用出来ないかもしれないけど、それしか方法がないの。明日までにどうするかじっくり考えといて貰えるかしら?」


「分かった。そうする」


「じゃあこっちについて来て。その前に……」


 ルチアさんが少女の頭に改めてブランケットを被せる。


「髪の色が目立つから少し我慢してね」


「セイア様。此方の魔導具を使えばすぐ参りますので」


 そう言って、彼女達は去っていった。



 ◇



 彼女達を見送り扉を閉める。


 俺はいつの間にか扉にもたれ掛かっていた。


 勇者召喚などというファンタジーな出来事に、無意識のうちに精神をやられていたのだろう。


 動悸が止まらない。


 何よりも、あの少女の吸い込まれる様な瞳。俺はあの瞳を見た事がある? そんな気がした。


 しばらくして落ち着くと、俺は部屋に備え付けてあった風呂を堪能した。かなりリラックス出来た。流石風呂だ。


 ベットに横たわり、今日を振り返る。


 交渉はなかなか上手くいったと言えるだろう。少なくとも殺されたり、野垂れ死ぬ事は無い筈だ。職が見つかれば安定するだろう。


 そして、何よりもこの世界の常識を知る事が先決だ。硬貨や物価。周りの国々との関係。さらに、この世界にしか無い魔法や魔王などの存在。


 この辺はルチアさんに聞くべきだろう。


 取り敢えず明日は常識を知る為、街に出てみよう。


 そう思い、俺は寝ることにした。

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