遺跡への出発
話し合いの結果、犬神 秋人が捕らえられている拠点:『スマイル遺跡』へは、俺とオボロ、ヒサヒデとラプラプ王の計四名で向かうこととなった。
「すまないね、みんな……本来なら僕も同行すべきなんだろうけど」
そう口にするヘンゼルさんの腹部の傷は、治療術士のハジーシャさんによって、見事に塞がれていた。
これも俺の山賊団に加入して存在が固定化されたことによる影響なのか、これまでロクに治らなかったヘンゼルさんの傷も治療や回復アイテムによって癒す事が出来るようになっていた。
とは言っても、俺は神獣とやらのように存在力を“転倒者”に供給できるわけではないので、満場一致でヘンゼルさんには本調子に戻るまで今まで通り、この『ブライラ』で他のメンバー達とともに防衛兼療養してもらうことにした。
「ヘンゼルさんは気にしないで!アタシ達で何とか出来るし!……むしろ、ラプラプ王もヘンゼルさんほどじゃなくても、結構疲れていてヤバいんじゃないの?『スマイル遺跡』がどんな場所か分からないけど、大抵の相手ならアタシの【野衾・極】でバンバンやっつけられるから休んでても良いよ?」
「……オボロよ。あのスキルは確かに強大だが、あそこは遺跡と呼ばれる建造物なだけに旧時代の遺物だの貴重な存在が眠っているらしい。こちらが有用に使えるモノもあるかもしれないため、そういうのをむやみに壊されると非常に困る。――何より派手に暴れすぎると、相手にこちら側の動きを察知される可能性が高くなると心得よ……!!」
オボロの提案に対して、渋い顔つきでそのように答えるラプラプ王。
そんなラプラプ王に対して、「ハーイ!」と舌を出しながら答えるオボロを見て、俺達は苦笑を浮かべる。
ラプラプ王は多少呆れたような表情を浮かべながらも、自身の考えを述べる。
「ヘンゼルは現在動けず、アキトを捕えている異種族達にプレイヤー達をぶつけるのは、あまりにも無謀過ぎる。かと言って、仲間を救うための重要な作戦を全てリューキやオボロ達に任せるのはあまりにも無責任すぎるだろう。――ゆえに、多少疲れていようが、この『ブライラ』の指導者である我が救出作戦に同行するのは当然であるといえよう」
そう言いながら、ラプラプ王が俺達を見渡す。
「『スマイル遺跡』には、アキトを捕えている異種族達だけでなく、プレイヤー”のリューキは既に知っているかもしれないが、遺跡内にはこれまでの大森林に生息していたような魔物達と違い、自動で動く古代の機械型の敵などが徘徊しているらしい。……とにかく、遺跡の攻略はこれまでとは異なる戦い方を求められると思った方が良いだろうな」
そんなラプラプ王の言葉に対して、強く頷く俺達。
――直情的な行動が目立つが、無類の戦闘力を誇るオボロ。
――現在存在力が摩耗しているが、冷静な判断力を持つ歴戦の強者であるラプラプ王。
――ムチプリ♡的な異種族相手なら、無類の強さを誇るヒサヒデ。
――そして、そんなメンバーを束ねる山賊団の首領たる俺。
敵に動きを察知されにくいように動けるような少数精鋭と、『スマイル遺跡』というこれまでとは違う敵が蠢くエリアでも戦えるバランス配分に優れた人員構成。
まさに、これ以上とないほどの最良のメンバーと言えるかもしれない。
こうして、救出メンバーが決まった俺達は『スマイル遺跡』に向かう際の細かい打ち合わせや、準備に何が必要かを話し合ってから、この場を解散することとなった――。
完全に相手から隠しきるのは無理かもしれないが、今回の作戦はひたすらに速度と隠密性が求められる。
そのため、前回の俺達の時のように盛大な見送りは全くない状態で、俺達は外部の見張りなどに警戒しながら早朝に『ブライラ』を後にした。
オボロは若干眠そうだが、ヒサヒデも元気に走ってるし、
「一晩休めたおかげで、全快とは言わんが我の存在力も結構回復する事が出来た。……これならば、万が一があろうとも支障はない!!」
と、ラプラプ王も頼もしい事を言っている辺り、メンバーの体調は特に問題なさそうだ。
……無論、俺を除いて。
「あ、クソ……やっぱ、みんな早いなオイ……!!」
レベルが上がった事で人並みの速度で動けるようになったとはいえ、それ以上にステータスが上がっているオボロやヒサヒデ、そして、レベル65と“転倒者”であることを抜いてもトップクラスに強かったラプラプ王の走行速度についていくのがやっとであり、俺は移動して十分足らずで早くも横腹が痛くなっていた。
……俺、戦闘とか遺跡に着く前に、このまま体力が尽きて死亡!とかは流石にないよな?




