これからの方針
俺達とは別に、数日前から異種族達の軍勢による侵攻作戦を食い止めるために奔走していたラプラプ王。
その戦いはまさに、熾烈極まるものだったのだという。
「我は固有転技で作り出したかつての部下達を指揮し、異種族達を相手に有利に戦況を動かす事が出来ていた。――だが、敵側の“転倒者”:チョベリグが指揮を執り始めると、彼女らは我が戦士達に劣ることのない一糸乱れぬ動きを見せるようになったのだ……!!」
「チョベリグ……?」
聞きなれない単語(名前?)を耳にして困惑する俺達に、ラプラプ王がおもむろに説明する。
曰く、“チョベリグ”は独特な言語とイカしたファッションセンスを駆使する事を得意とした“転倒者”であり、彼女はそれらを用いて瞬く間に、人間でありながら異種族達のファッションリーダーになったのだという。
なるほど……確かにそれだけのカリスマ性とファッションで培った先見性ならば、ラプラプ王の完全な統率のもと生み出されたフィリピンのゲリラ兵を相手にしても一歩も退くことなく、巧みに異種族達を指揮する事が出来るかもしれない。
おまけに、ヘンゼルさんが尋問したところによると、今回『ブライラ』に襲撃しにきた八人の異種族達はチョベリグから直々に薫陶を受けることによって、自身の魅力を最大限に引き出すオシャレ・コーデに目覚めた精鋭達なのだという。
独自のセンスを通じて、周囲を率いるだけでなく能力まで底上げする恐るべき“転倒者”:チョベリグ。
これまでに遭遇したことのない新たなタイプの敵の情報を聞いて、俺は内心で激しく震えあがっていた。
――強大な“個”としての戦闘力を誇る人狼の女戦士である“ライカ”。
――“群”を率いる事と強化に長けたファッションリーダーの“チョベリグ”。
――そんな彼女達すら支配下に置く“お菓子の家の魔女”。
――そして、そんな彼女達“転倒者”に存在力を提供する支援者にして、この地域の絶対的な支配者である神獣:“マヤウェル”。
俺達は、そんな強大な勢力を敵に回して勝利を……いや、本当に生き残ることが出来るのかと、絶望的な想いが胸中に広がっていく。
そんな俺を安心させるように、ヘンゼルさんが笑みとともに語り掛けてくる。
「確かに敵側の神獣:マヤウェルと、お菓子の家の魔女をはじめとする“転倒者”達は未だ健在でとてつもない脅威だ。……だが、ラプラプ王によって異種族達の大半は再起不能の状態になっているうえに、その中でも精鋭に属するであろう八名の強者が襲撃してきたにも関わらず、こちら側はプレイヤーの犠牲を誰一人出すことなく捕える事に成功している」
なにより、とヘンゼルさんは告げる。
「――こちら側には、存在力を与える”神獣”という絶対的な支配者はいないが、僕達の存在をこの世界に確立させることが出来る“山賊”がいる!!……僕達は神の権能などに縋りつかなくても、この世界に根差した人間として、自身の力で先を指し示せるという事をこの世界に証明してみせようじゃないか……!!」
「んふっふー。良いじゃん、圧倒的な強者に対する叛逆!それでこそ、まさに“山賊”って感じだよね♪」
ヘンゼルさんの口上に、オボロが陽気に同意する。
そんなオボロの発言に対して、俺も頷きながら答える。
「普段なら『何を突拍子もない発言してんだろ』とか思うかもしれないけど……状況が状況だからかな。はたから見ると、単に後がない状況だからやけっぱちになってるだけかもしれないけど、今の俺はなんか出来る気がしてきたんだ……!!」
そこまで語ってから、すぅ……と俺は息を吸い込む。
「良いズェ。こうなったら、とことんやってやろうじゃないか!――俺達みんなで、山賊らしい『神への叛逆』って奴をな!!」
そう宣言した俺に対して、この場にいる者達皆が同意の笑みで答える。
まだ仲間の全員の同意を得たわけではないが、これで大まかな今後の方針は『俺達山賊団は『ブライラ』のメンバーと行動を共にする』という方向に決まった。
そんな俺に対して、ラプラプ王がウム!と強く頷きながら答える。
「未来を切り開く確かな意思と、自身の縄張りを守り抜くという想い。これこそが、山賊を山賊足らしめんとする“BE-POP”というものか……!!いずれにせよ、我等への協力に心から礼を言うぞ、リューキよ!」
俺達に向かってそのように感謝と賞賛を述べるラプラプ王。
そんなやり取りをし終えてから、今度はヘンゼルさんが真剣な顔つきで話を切り出してきた。
「リューキとオボロ。早速だが、君達にしてもらいたい事がある。――僕達『ブライラ』側が反撃するためにも、君達には異種族側に捕らえられた僕達の仲間の“転倒者”を救い出してもらいたいんだ……!!」




