“王”の帰還
ラプラプ王に続いて、新たにヘンゼルさんという強力な“転倒者”を山賊団のメンバーに加入する事に成功した俺達。
ラプラプ王の発案のもと、『ブライラ』のプレイヤー達によって、盛大に無事に帰還した事と勝利を祝った宴があっという間に執り行われていく。
みんなで何とか準備をしてから数時間後。
ちょうど日が沈み夜になってから、宴が始まっていく。
盛大に燃やした火を囲む形で、プレイヤーのみんなが飲み食いしながら踊りあかしている。
「さぁ、戦士達よ!!今宵は存分に宴を楽しむが良いッ!!王たる我が許そう!!」
そんなラプラプ王に、プレイヤー達もテンション高い笑いとともに、彼を称える。
「流石ラプラプ王!!偉大なる王の中の王だぜ~~~!!」
「ラプラプ王さえいてくれたら、例え相手が異種族だろうとマゼランの無敵艦隊だろうと、俺達は戦えるね!間違いない!!」
そんな彼らの様子を見ながら、オボロが何の混じりけもない純粋に感心したような表情で呟く。
「それにしても、アタシはラプラプ王がどんな人物なのか知らなかったけど、あの人って有名な王様で戦士と言われるだけあって本当に凄いカリスマ性ね~!……リューキ、どうすんの?」
「いや?別にどうもしませんけど???僕は、なんも焦りとかありませんので?」
しどろもどろに答えながらも、何とか話題の方向性を変えようと俺は必至で言葉を紡ぐ。
「まぁ、こんだけカリスマ性があれば、プレイヤー達をまとめ上げるだけじゃなくて、この『ブライラ』っていう集落に家を作らせたりする事も出来るわけだ。ヘンゼルさんも仲間達から凄く慕われてるし、こりゃ異種族に囚われているっていうもう一人の“転倒者”も凄い人望のある人なんだろうな~」
何の気なしに呟いた俺の発言。
だが、そんな俺の言葉を耳にした近くのプレイヤー達は、露骨に嫌そうとも困惑ともいえる表情を浮かべていた。
……なんだろう。
俺は何か。間違った事を言ってしまっただろうか?
戸惑う俺に対して、苦笑を浮かべながら彼らが答える。
「あぁいや、お前が悪いわけじゃないんだリューキ。……ただ、ラプラプ王やヘンゼルさんと違って、もう一人の奴はちょいと扱いが難しいというか、難がある奴でな……」
「腕っぷしは強い奴なんだが、やたらと自分の家柄やら血筋を持ち出す奴でな……ラプラプ王の言うことは辛うじて聞いていたけど、ヘンゼルさんにはやたらと対抗心燃やしたりと、とにかく自分が偉くないと気が済まない!って感じで色々問題があったんだよ。アイツは……」
高貴な家柄で武力もあるけど、性格が高慢で難がある“転倒者”、か……。
それはそれで結構分かりやすい性格をしていると思うけど、一体何者なんだろうか?
ヘンゼルさんやラプラプ王のような有名な人物なのか?
俺がそれを質問しようとした矢先に、ラプラプ王と並ぶ今回の宴の主役という事でみんなの前で『ダイナソー!ヤッター、ダイナソー!!』を歌うように引っ張りだされたので、その場はうやむやになってしまった。
そんな感じで俺達は賑やかに過ごしながら、その日の夜は無事に過ぎていく――。
戦勝&帰還パーティを終えた翌日。
ヘンゼルさんとラプラプ王の呼びかけのもと、俺達は、最初に俺達が会談の時に訪れたラプラプ王の家へと集まっていた。
現在この室内にいるのは、俺とオボロ、ヘンゼルさんとラプラプ王の四人。
ヒサヒデ達には、異種族達のもしもの襲撃に備えられるようにゴチルスさん達『ブライラ』のプレイヤー達とともに外で周辺の警護を任せていた。
今回俺達がここで話すのは、俺達山賊団側のこれまでの状況報告とラプラプ王側の戦況報告、そして、これからの方針についてである。
俺達は、線引きミミズとの死闘の果てに、回復アイテムを全て使い切りながらも急激なレベルアップを果たした事と、キキーモラさんが単身で外の様子を調査しに行った事を包み隠さずヘンゼルさん達へと話した。
その際に、自分の方針とそれをする際の疑問についても二人へと訪ねる。
「今後どうするかはまだはっきり決まってないけど、この『ブライラ』で俺達が世話になる以上は、異種族達の奇襲に備えられるように、オークと線引きミミズを中心に、可能なら他にも魔物を俺が何匹か仲間にして、ここの防衛を任せるようにしようと思います。……ただ、線引きミミズが分裂した場合、増えすぎたら敵どころかこの『ブライラ』まで被害が出るかもしれないので、そこは慎重にならなくちゃいけないかも……」
そんな俺の問いに対して、答えたのはラプラプ王だった。
「それならば、おそらく問題はないぞリューキ。“線引きミミズ”は我も含めて、この『ブライラ』のプレイヤー達も何度か戦った事があるが、奴等が一番スッキリするのは相手を全滅させた時だが、相手が上手く逃亡しきったり、自分達がどれほど分裂しても敵わないと判断した時には、それ以上労力を使う必要がないと言わんばかりに――分裂に使ったエネルギーを回復するかのように、何故かもとの一つの個体へと収束していく性質があるらしい。……分裂した個体はそれぞれ不快に思うポイントが違うはずなのに、それで問題がないのか不思議ではあるのだが……」
そっか……分裂したらそのまま別の個体として存在し続けるわけじゃないのか。
確かに、そうだとしたら今頃線引きミミズがこのシスタイガー大森林をほとんど覆い尽くしていてもおかしくないはずだしな。
まぁ、そうなってもヒサヒデのような野生の“3ピース・ホロウ”みたいな線引きミミズを捕食する魔物が増えまくるだけかもしれないけど……。
とにかく、ラプラプ王とヘンゼルさんの合意のもと、線引きミミズをこの『ブライラ』の防衛に充てる事に関しては、問題ないとお墨付きをもらった。
キキーモラさんの動きに対しても了承してもらい、いよいよ異種族の軍勢を率いる“転倒者”と戦ったラプラプ王の話へと移ることになった――。




