新たな世界への扉
オボロの新スキル――。
急激なレベルアップをしても何らスキルを得られない“山賊”の俺と違って、オボロはかなりのスキルを取得しているようだが、それらを全て俺が知っているわけではない。
果たして、どんな攻撃なんだろうか。
そう思っていた矢先、オボロが力強く技名を叫ぶ――!!
「スキル、【瘴気術】――!!」
刹那、オボロの全身から黒い瘴気が発生し、凛々しいエルフのもとへと向かっていく。
……って、確かに強いけど、初期から使っていたスキルじゃねぇか!?
とはいえ、弓エルフはこのスキルの事を初めて目の当たりにしたからか、若干慌てた表情を浮かべていたが、それも一瞬のことでありすぐさま矢を構える。
「フン、どうやら相手に状態異常を引き起こさせるスキルのようだが、神獣様から“加護”を頂いている我々にこのようなモノなど効きはせん!!――そして、正体が隠れようとも我がスキルの前では無意味!!」
そうして、高速追尾+無効化の効果が施された矢が、【瘴気術】の中にまぎれたオボロに向かって放たれようとしていた――そのときだった。
「――スキル:【野鉄砲】ッ!!」
刹那、瘴気の中から勢いよく小さな黒い物体が飛来してきたかと思うと、それは弓エルフの左肩へと激突した。
「あ、ぐっ……!?」
短く呻き声を上げた弓エルフは、想定外の攻撃を受けたことによって、弓矢を地面に落として左肩を押さえていた。
その間に、【野衾】を使用したオボロが相手に飛び掛かり、弓エルフを取り押さえていた。
「【瘴気術】にまぎれながらの、新技お披露目だったから上手くいくか分からなかったし、最悪ゴリ押しで挑まなきゃいけないリスクがあったけど、アンタがちょこまかと動き回ったりせずにスキルを過信してくれたおかげで何とか出来た……まぁ、それも含めて実力差ってヤツかも?」
「クッ……おのれッ!!」
どうやら、オボロが効果がないはずの【瘴気術】を使用したのは、純粋に煙幕として使用することによって、相手に【野鉄砲】とかいう吹き矢のような新スキルを放つタイミングをバレにくくしようとしたわけか。
視界がはっきりしない中での遠距離攻撃……確かにイチかバチかの博打だったが、今回はオボロの読みが勝ったようだ。
これで相手側は残り二名。
俺は意識を切り替えるかのように、先程から一歩も近づけない眼前の相手へと対峙する。
目の前にいるのは、長身で腹筋の割れたウサギ耳の異種族お姉さんだった。
額から角が一本生えているあたり、単なるウサギ族とかいう訳ではなくて、ゲームでもよく見かける“アルミラージ”と呼ばれる動物型の魔物がベースになっている獣人なのかもしれない。
そんな彼女は静かに笑いながら、ゆっくりと告げる。
「どうやら、他のみんなはほとんど敗れてしまったようだが……それでも、君らは何人かかっても私一人に届くことは出来やしない。――フフッ。哀れ、だよなぁ……」
そう言いながら、勢いよくウサ角お姉さんは、腕を振るう――!!
表情は変わらず澄ました感じなのに、剛腕から放たれる暴風によって、俺とラプラプ王は二人係で挑んでいるにも関わらず、この相手を相手を前に攻めあぐねていた。
この襲撃部隊を指揮するゆるふわエルフお姉さんが、ウサ角お姉さんの後方から俺達へと声をかけてくる。
「あらあら~。さっきからちょこまかとしぶといわね~。お姉さん、感心しちゃう♪……でも、たくさん動き回ったりすると疲れるだろうし、君達がすぐに楽になれるように、私も本格的に支援してあげちゃうからね♡」
そう言うや否や、ゆるふわエルフが自身の両腕を宙で交差させながら、大きく掲げる――!!
「スキル:【痺れフェロモン】――!!これでムラムラしながら、ウサ子ちゃんの一撃を受けて安らかに眠ってくれて良いのよ?」
どうやら、彼女の言う【痺れフェロモン】とやらは、あの見せつけるような両脇から放たれる強烈なスメルの事らしい。
本来なら近距離――少なくとも、ここにまで届くはずはないのだろうけど、ウサ角お姉さんが引き起こした暴風によって、彼女の脇から放たれる強烈なメスメルがこちらにまで運ばれる形となっていた。
思春期にはあまりにも強すぎる刺激を前に、【魅了】状態でクラクラして意識が飛び掛かる俺。
そうしている間にも、俺のもとへと猛威が迫る――!!
「私の名前はウサ子とやらではないんだが……まぁ、これで一人は確実に倒せるわけだし支援された以上は文句も言えないか。――フフッ。私って哀れ、だよなぁ」
そう言いながら、迫ってくるウサ角お姉さんの言葉を聞いて、俺の意識は瞬時に引き戻される。
――そんだけ強くて、俺の新たな性癖をこじ開けかねないようなマッスル&セクシーな容姿をしているくせに、名前を間違われたくらいで自分が哀れ、だと……!?
ふざけんなッ!!
それなら、学生時代の大半を不遇で過ごした俺は一体何だったんだよ!?という怒りが、俺の精神を支配する。
そんな反発を形にするかのように、俺は自身の“BE-POP”を使用して、魅了状態でありながらも何とか身体を動かしてウサ角お姉さんの攻撃を回避する事に成功した。
今の自分の状態異常がどうなっているのかは分からない。
だが、動きを止めたウサ角お姉さんの表情からして、これはバグレベルでやはり信じられない事のようだった。
――あぁ、このウサ角お姉さんからすれば、今の俺も十分反則レベルの存在かもな。
そう考えながら、俺は決着をつけるために渾身の一撃を放つ――!!
「豪快そうな外見とセクシーな衣装、それらとは裏腹にクールな物腰とネガティブな発言の数々。……属性てんこ盛り♡に俺の性癖を無理やりこじ開けようとした罪は重いぞ、ウサ角お姉さんッ!!」
そう言いながら俺は、両手の掌を揃えた状態で呆気に取られたままの相手の胴体に手をあてる。
「ウサ子ちゃん……ッ!?」とゆるふわエルフお姉さんが叫ぶが、もう遅い。
俺は、力強くその名を叫ぶ――!!
「――"火"とはすなわち、身体の奥底からムラムラとエッチな気分にさせる在り方なり。……燃やし尽くせ!天空流奥義:"パリピ発勁"ッ!!」
相手の腹筋に響かせるつもりで放った渾身の"パリピ発勁"。
……だが、この状況においても俺の天空流奥義は不発だった。
そんな俺を前にしても、ウサ子さんは怒るでもなく、先程と同じようにフフッ……という笑みを再度浮かべていた。
「今回の作戦に際して、こういう格好を初めてしてみたんだけど、そこまで人に――それも、異性から熱烈に魅力的と褒められたのは初めてだよ。……ありがとう、と言うべきなのかな?」
そう言いながら、ウサ子さんは両拳を握った状態で、両腕を天高く掲げる。
「――君が忌まわしい“プレイヤー”なんかでなければ良かったのに……フフッ。こういう残酷な巡りあわせに生まれついた私って、本当に哀れ、だよなぁ……」
そう言いながら、ウサ子さんが勢いよく俺に向けて両腕を振り下ろそうとしてくる――!!




