立ち向かう理由
何やら異変が起きていた『ブライラ』へと急いで戻ってきた俺達。
プレイヤーのみんなは、かなり相手に追い詰められていたのか、戻ってきた俺達の姿を見て盛大に歓声を上げている。
それにしても、その場に立っているだけでもキツそうなプレイヤー達に反して、敵の異種族のムチプリ♡お姉さん達は余裕綽綽で艶めかしく腰を動かしたりしながら挑発的な笑みを浮かべたり、そんな周囲を無視して女の子同士でイチャついたりしていた。
俺はこの光景を目にしただけで、あの八名の襲撃者達がこれまで出会ってきたような、ただストレートに自身の欲求をぶつけてきただけの異種族達とは比べ物にならない強さを感じ取ったり、『あわよくば、俺もあの二人の間に挟まれたい』という感情を抱いたりしていた。
「クッソ~~~!!あわよくば、俺もあの二人の間に挟まれたいズェ~~~!!」
「思いっきり、本音が口から出てるよ。馬鹿リューキ……」
……ッ!?
しまった、無意識でそんな事を口走るくらい、俺にとってこの光景が衝撃的だったらしい。
俺はオボロに聞かれた気まずさを誤魔化すように、仲間達に勢いよく号令をかける――!!
「うるせぇッ!!こうなったら、行くぞみんなッ!!」
言うが早いか異種族達に向かって疾走していく俺の後に続くように、ヒサヒデやオークといった味方の魔物達が続く。
「って、行き当たりばったりすぎでしょアンタ!!」
「ハハハッ、良いではないかオボロなる娘よ。この熱き衝動、“山賊”というのもまた我等とは異なるあり方の戦士なのだと実感させられる……!!」
呆れた様子で呟くオボロと肯定的な意見を述べるラプラプ王も、そんなやり取りをしながら俺達同様に敵へと突撃していく。
「オ、オイ、リューキ!!助けはありがたいけど、お前みたいな“山賊”なんて最弱職じゃ、やみくもにアイツ等に挑んだところで勝ち目なんかないぞ!今すぐ、引き返せッ!!」
「あの同性同士ですら魅了させるような【暴れ忘八大車輪】とかいう強大なスキルを使われたら、流石にまずいぞ!!……このままだと、リューキ達は全滅してオボロちゃんもあの百合の饗宴に参加させられる事間違いなしだッ!?」
「……いや、でもリューキ達やオボロちゃんのレベルが凄い事になってないか!?それに、ラプラプ王も今までとなんだか違うような……」
周囲のプレイヤー達からは、俺達の突撃に悲鳴にも似た声が上がり始めていく。
【暴れ忘八大車輪】とやらがどんなスキルか分からないが、先手必勝、だったらそれを使用される前に相手を制圧すれば良いだけだ――!!
俺は、この場にまだ姿を見せていない仲間へと呼びかける――!!
「今がチャンスだ、“線引きミミズ”――!!」
刹那、俺がそう言うのと同時に、地面から巨大なミミズが姿を現す――!!
「なっ……!?なんで、線引きミミズがこんなところに!?――いや、それよりもなんでプレイヤーなんかに味方してんのよ!!」
「多分、このイモっぽさ剥き出しの冴えない奴が、猿姉妹が言っていた何故か“3ピース・ホロウ”を引き連れていたプレイヤーって奴だ!!――コイツ、アタシ等から離れろォッ!!」
線引きミミズが、オボロやキキーモラさんにやっていたように、二人の獣人の身体に絡みついていく。
「ンググッ♡」
「ちくしょう、ちくしょうっ!!……こんな奴にッ!!」
これで線引きミミズが二名を制圧する事に成功した。
ヒサヒデはエルフを相手にShippori and the Cityな行為をしているし、新入りのオークに至っては、百合空間を築き上げていた異種族同性カップルの動きを牽制するかのように、少し離れた場所から監視したりと、山賊団に加入してすぐにも関わらず、さっそく見事な活躍を見せていた。
「これで相手の残りはエルフが二人と獣人一人の計三人……!!ここで一気にキメるッ!!」
――それにしても、名前の通り3ピース♡な行為を好むはずのヒサヒデが、一対一にも関わらず激闘を繰り広げている辺り、本当に手ごわい相手なのだと今更ながらに実感させられる。
そんな俺の認識を裏付けるかのように、俺達のパーティ最強ともいえるオボロが扇情的な姿とは裏腹に、凛々しい顔つきをした弓矢使いのエルフ少女を前に、攻めあぐねていた。
「クッ!!……近づけさえしたら、簡単に倒せる相手のはずなのに!」
悔し気にそう呟くオボロ。
先程からオボロは、【野衾】系のスキルを使用して相手に飛び掛かろうとするが、相手のスキルもしくは魔術が施された高速追跡型の矢に何度も阻まれて、全く近づくことが出来なかった。
幸いにも、矢は刺さっていないようだが、このままいけば無駄にSPを消費するだけでなく、ダメージも無駄に蓄積する事となる……。
オボロが睨むようにしながら、相手へと確認を行う。
「アンタのその矢での攻撃……肝心の威力は下手したら普通の矢よりも大した事はないけど、その代わりに高速追尾だけじゃなくて、相手のスキルを無効化させる効果があんのね……【野衾・大】だけじゃなくて、アタシが使える最大威力の【野衾・極】まで勢いが完全に殺されるなんて、いくら何でも流石におかしすぎるもの……!!」
そんなオボロに、凛々しいエルフのお姉さんが、「えぇ、そうよ」とあっさり頷く。
「私にこのスキルがある限り、アナタはおろかお仲間が何人迫ろうともこの私に近づくことなど出来はしないわ。――どうする?降参するなら、今のうちよ?」
そんな相手の言葉に対して、オボロが不敵に笑みを口元に浮かべながら告げる。
「ハッ、冗談!……降参するのは、アンタの方よッ!!」
そう互いに闘志を漲らせながら、対峙する両者。
……でも、オボロの【瘴気術】は神獣の“加護”を受けている異種族達には通じないし、【野衾】で近づくのは至難の業。
一体、オボロはどうするつもりなんだ……?
そんな俺の疑問に答えるかのように、オボロが意気揚々と叫ぶ。
「――こうなったら、見せてあげるわ。アタシのもう一つの新しい攻撃スキルって奴を!」




