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運命共同体(仮)

「なんでなんで!?どうして、アタシが”BE-POP”使えなくなってんの!?」


 先程までの可愛らしい(?)鳴き声から一転、オボロが絶叫の声を上げていた。


 それというのも無理はない。


 彼女にとって切り札ともいえる”BE-POP”の能力値が、あろうことか自身のステータスに表記されていなかったからだ。


 無論、いきなりそんな訳がないと言わんばかりにオボロは、”BE-POP”を用いた技を使おうとしていたが、彼女の表情を見るにどうやら結果は芳しくないようだった。


「な、なんで……あのカタツムリに”悶々波もんもんは”を放ったときは、妖力だけじゃなくて確かに”BE-POP”を混ぜて使用出来ていたはずなのに……あれ、そういえば最後らへんは何か違和感が……」


 これまで見せてきた活発な表情とは裏腹に、憔悴した様子で何やらブツブツと呟くオボロ。


 そんな彼女を見やりながら、俺はこれまで一連の流れを見て感じた疑問を彼女に投げかける。


「……なぁ、あの糞ダサ……独特な名前の技って”BE-POP”がないと、使用出来ない感じなのか?」


「え?……うぅん。”悶々波もんもんは”は、妖力さえあれば普通に使えるよ?ただ、私は火属性に練り上げた”BE-POP”を混ぜて自分なりにあの妖術を改良してみたってわけ。……カタツムリとの戦闘中は無我夢中だったから気づかなかったけど、確かに途中から”BE-POP”の感覚がなかったかもしれないけど……それがどうしたの?」


 どうしよう。


 あの”悶々波もんもんは”とやらに対する俺の暴言が気にならないくらいに精神的に弱っているのか、それとも彼女自身薄々あの技名がダサいと思っていたのかよく分からないまま、話を続ける展開になったようだ。


 気にするだけ負けという事だろうか。


 とにかく俺は気を引き締めると、自身の推論を述べることにした。


「もしかして、この世界では職業:”山賊”でないと、”BE-POP”を使用出来ないんじゃないのか?」


 俺の意見を聞いて、キョトンとした表情を浮かべたオボロだったが、すぐにまくし立てるかのように俺に対して反論してきた。


「確かにアタシは、ただ単なる山賊の娘ってだけだけど……でも、アタシは最初”BE-POP”を戦闘で使用出来ていたって言っているじゃない! 話聞いてなかったの!?」


「落ち着けよ。俺にとっては正直君がまだどういう存在なのかよく分かっていないところはあるけど……とにかく君がこの世界のNPC(住人)ではなく、俺と同じようにPANGAEAこことは別の世界から来た存在と仮定したうえで話すんだが、この世界はおそらく俺達のもとの能力よりも、この≪PANGAEA・THE・ONLINE≫というゲーム世界の法則が優先されるようになっているんだと思う……」


「……この世界の法則?」


 純粋に困惑した視線を向けてくるオボロ。


 そんな彼女に対して頷きながら、俺は持論を述べていく。


「たぶんこの世界では”BE-POP”は山賊職だけが使える特殊な能力値、っていう設定なんだと思う。……そして、これが君に見せてもらったステータス表だ」


 そう言いながら、俺はオボロに向けて彼女自身のステータス表を見せた。





 オボロ レベル1 職業:妖仙術師


 HP:45/45 MP:0/65 SP:72/72

 攻撃力:15 防御力:10 敏捷力:30 叡智力:15


 スキル:【障気術】【野衾】





「……とまぁ、君は今この"妖仙術師"っていう職業だから、"山賊"専用ともいえる"BE-POP"が必要なスキルが使えなくなってるんだと思う」


「そうなんだ……でも、何で? どうして、急にこういう事になったの!?」


「この世界が何でこうなったのか?という疑問なら、今の君と同じく俺にも理由は分からない。……ただ、種族表記にせよ君が突然で"BE-POP"が使えなくなった事も全部、君という存在がこのゲームの仕様に合うように調整させられた結果なんじゃないかな?」


 現にオボロの攻撃は途中まで全くカタツムリに効いている様子がなかった。


 それが変わったのはオボロの名前とHPバーが表示されてからであり、おそらくあの時点でようやく彼女は今の俺と同じ『この世界の存在』として認識されるようになったに違いない。


 ……それとは別に俺は表示されているオボロのステータスを見ながら、こっそり自分のステータスと見比べる。





 リューキ レベル8 職業:山賊


 HP:48/48 MP:0/0 SP:10/10

 攻撃力:12 防御力:9 敏捷力:10 叡智力:6


 スキル:【山賊領域】





 ……あまりの差に愕然とさせられる。


 レベル1の相手にここまで能力値が劣ってる俺って……。


 と言うか、コイツもう既にスキルを所持しているのか。


 特殊な種族と職業だからだろうか?


 "妖仙術師"っていうのは聞いた事ないけど、もしも、"山賊"なんかじゃ及びもしない高位の職業だったら、ショックでうちひしがれそうだ……。


 いや、既に負けているんだけども。


 そんな事を考えていた俺と同じように、何やらオボロは一人ブツブツと呟いていた。


「……さっきの戦闘で私の妖力も尽きたし、回復出来たとしてもここがどんな場所なのかまだよく分かんないし……」


 そこまで語ると、何かを思いついたように勢いよく顔を上げて俺の顔を見つめてきた。


 思わぬ行動に反応するのも忘れて息をのむ俺に、オボロが自信満々かつ茶目っ気溢れる表情で語りかけてくる。





「こうなったら、アタシが元の場所に戻るための手段を見つけるまで、一時的にアンタと組んであげる! ……アンタが知らない事もい・ろ・い・ろ♡教えてあげるんだから、感謝しなさいよね♪」





 ……クソッ!!


 『い・ろ・い・ろ♡』とか言いながら、どうせコイツが教える内容なんて、"山賊"とか"BE-POP"関連に決まってるくせに!


 一瞬でも『エ・ロ・エ・ロ♡』かつ『ペ・ロ・ペ・ロ♡』な妄想に走った自分が憎いッ!!





 ――かくして、悔しさに悶絶する俺とニシシ!と何やら勝ち誇った笑みを浮かべたオボロによる、即席かつ一時的な運命共同体パーティーがここに結成される事となった。





 ……一昔流行ったというラノベのヤレヤレ系主人公みたいに『この先、不安しかない……』とか言いたかったが、実は密かに楽しみだったりする。

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