淫靡なる車輪に囚われし者達
襲撃者達が放った謎のスキル:【暴れ忘八大車輪】。
桃色の粒子の雨が、プレイヤーどころか彼女達自身にまで区別することなく、その場にいたすべての者達へと降り注いでいく――。
「なんだこりゃ、ダメージは全くないがこんなもの……ッ!?」
「ッ!?気をつけろ、ヤリザール!!……これは、僕のスキルが解除されている!?」
珍しく感情を露わにしたハジーシャの言葉を受けて、ヤリザールもすぐに驚愕の表情を浮かべる。
なぜなら桃色の雨を浴びてすぐに、二人は異種族に立ち向かうための自身のスキルが焼失している事を感じていたからだ。
慌てて、すぐさま再度SPを消費して同じスキルを使おうとするが、確かにスキルを選んだにも関わらずうんともすんとも機能する様子が見えない。
そんな二人を狼狽ぶりがさぞ面白いとでも言わんばかりに、エルフの女が玩弄するかのような笑みを浮かべる。
「ウフフ、どんだけ抵抗してもダメですよ~~~♡この“暴れ忘八大車輪”を受けた人達は、無駄なしがらみを一切なくして、私達との悦楽で出来た輪廻を未来永劫続けたいと心の底から願うようになるスキルなの♪」
彼女の言葉の意味するところ。
それすなわち――。
「つまり、お前達の“魅了”を阻害するような行動は一切取れなくなる、という事か……!?」
額に脂汗を浮かべながら、そう呟くハジーシャ。
連結スキル:“暴れ忘八大車輪”。
それは、『仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌』という人が持つべき八つの徳を全て忘れて、お目当ての遊女目当てに足しげく遊郭に通うろくでなしの男達のように、淫靡なる輪廻に相手の魂をとらえる魔性のスキル。
このスキルの効果は、自分達の魅了を阻害するようなスキルや魔法、行動が出来なくなる・無効化する――という、あとは魅了された行動をそのままするほかないと言っても過言ではない凄まじい性能なのである。
現にその発言を証明するかのように、ハジーシャは言葉を口にするのもやっとの有り様かつ、胸元をはだけさせる有り様であり、相棒であるヤリザールに至っては、彼女達の方を見ながら、ハッ、ハッ、と犬のような呼吸を繰り返しながら、しきりに「ヤリタイ……ヤリタイ!!」と、うわごとのように呟いていた。
このままいけば、異種族達のもとに辿り着くことなく、頼みの綱であった二人の強者プレイヤー卑猥な姿を白日のもとに晒して、自滅同然に光の粒子になって消えてしまう……。
この場にいた他のプレイヤー達も、桃色のスキルによる浸食を受けながら、単なる色欲とは異なる切に絶望に満ちた叫びを上げていく。
「だ、駄目だ~~~!!この場で一番対抗できる可能性のあったヤリザールとハジーシャの二人があぁなった以上、俺達ではもはやどうする事も出来ない!!……こ、こうなったら、血液が逆流し過ぎて眠れない夜を過ごす前に、お姉さん達にこの想いの丈をぶつけてスッキリと永眠するっきゃない!」
「あっ!?あの敵側の獣耳の勝気そうな女の子に、高飛車そうなエルフ耳のお姉さまが唇同士のひっつけあいっこを仕掛けようとしてるぞ!!――コイツ等も、自分達のスキルの影響で昂ってやがるんだ!!」
「クッソ~~~!!戦闘中にも関わらず、種族を越えた百合恋愛を仲間達や敵である俺達の眼前で愉しみやがって!!……すまねぇ!ヘンゼルさん、ゴチルス……!!この淫靡さと尊さのコントラストを前にしてしまった以上、俺達はもうここまでだ~~~ッ!!」
そのように、誰もかれもが諦めてかけていた――そのときだった。
この混沌かつ絶望が支配する現在の『ブライラ』に、全てをかき消すかのような場違いともいえる声が響き渡っていく……!!
――必殺パンチが 目に染みる
行け!ダイナソー
ヤッター、ダイナソー!!(ヤッター!)
最初、それを耳にしたものは、あまりにも素っ頓狂かつ音程が上手く合っていなかったため、それが歌であるという事に気づかなかった。
だが、次第に哀愁を漂わせた歌詞と、それでも前を目指す意思が込められた声音を聞くうちに、プレイヤー達は煩悩に耐えながらも、懸命に言葉を紡いでいく――。
「オイ、この歌詞って……昔大ヒットした『ダイナソー!ヤッター、ダイナソー!!』とかいう曲じゃねぇか?」
「ていうか、これ歌ってるのって……もしかして、アイツなのか!?」
仲間の誰かがそう言った瞬間にすぐさま、ハッ!とする男性プレイヤー達。
そんな彼らに応えるかのように、歌の最後のフレーズが力強く熱唱されていく――!!
――今なら間違いなくお姉さんの方を選ぶに決まってる
必殺パンチが目に染みる
行け、ダイナソー
ヤッター、ダイナソー……!!♪
そこまで歌い終えてから、姿を現した者達の姿を見て、プレイヤー達が妖艶なる異種族達からすら目を離して彼らを見つめる。
「あ、あぁ……リューキ!!まさか、お前達がここに戻ってきてくれるなんて……!!」
「お、おまけに一緒にいるのはラプラプ王じゃねぇか!?……王様がいてくれるんなら、この状況ももしかしたら……!!」
彼らの言う通り、この『ブライラ』に到着したのは、危機を察知して駆けつけたリューキ達一行だった。
沸き立つプレイヤー達に向けて、リューキがここを出る時とは異なる強い意思を秘めた表情で彼らの想いに応える。
「本当に待たせたな、みんな――!!ここまで持ちこたえるのは大変だっただろうけど、到着した以上は、コイツ等は俺達で何とかしてみせるッ!!」




