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“暴れ忘八大車輪”

 ~~シスタイガー大森林内拠点・『ブライラ』~~


 現在この場所は、エルフと獣人各四名からなる系八名の増援奇襲部隊からの襲撃を受けていた。


 今回の奇襲部隊は、もはや隠密性を金繰り捨ててでも確実にプレイヤー達を殲滅する事を目的としているためか、戦闘に特化した武器を所持しているだけでなく、種族や外見から伝わる強気系・ゆるふわ系などの印書の違いも関係なしに、襲撃者達は皆一様に踊り子のような派手さとセクシーさを前面に押し出した格好をしていた。


 彼女達の姿を前に男性プレイヤー達は、興奮とも絶望ともいえぬ雄叫びを上げていた。


「クッ、奴等今度は本気で俺達を殺しにかかってきやがるッ!!……攻撃だけなら、何とかプレイヤーのスキルで耐える事が出来るが、あれほど異種族の女達のムチプリ♡なボディラインの魅力を引き立たせるコーディネートをしてくるなんて、今までの奴等とはレベルが違いすぎるッ!!」


「……このまま奴等に何も出来ないままじわじわと嬲り殺されるくらいなら、光の粒子になる事覚悟で奴等にむしゃぶりつくように飛びつくしかねぇ~~~ッ!!」


 そんな風に自棄になりかけていた仲間達を、『ブライラ』の斬り込み隊長ともいえる武闘家系プレイヤー:ヤリザールが叱咤する。


「テメェ等、こんなところで諦めてんじゃねぇッ!!……確かに、コイツ等は戦闘力だけじゃなくて、ファッション・コーディネートからして、そこいらの小物とは違うかもしれねぇが、言ってしまえばそれほどの実力者達をこの『戦力の逐次投入』なんて愚策に駆り出すほど、奴等も現在戦力が足りてねぇんだ!!ここが正念場だって腹ぁくくれッ!」


 そんな彼に呼応するかのように、手術を前にした執刀医そのものといった姿をした治療術士の男性プレイヤー:ハジーシャも言葉を続ける。


「然り。ここは、僕はヤリザールを援護する形で、奴等の動きを巧みに捌ききる。――その間に、この場にいるプレイヤー全員で一気に、異種族共に総攻撃を仕掛けるんだ……!!」


『ヤリザールさん……ハジーシャさんッ!!』


 異種族達の色香に反撃する事すらままなくなっていた男性プレイヤー達だったが、『ブライラ』の中でも実力者であるヤリザールと冷静な分析力と医療技術を持ったハジーシャ。


 名乗り出た彼らの勇姿に沸き立ち、熱狂で涙する仲間達とは対照的に、ハジーシャは冷静に小声でヤリザールに問いかける。


「(ヤリザール、君の方は一体どうやってあの八名の異種族に立ち向かうつもりなんだ?)」


 それに対して、ヤリザールは自信満々に眼前の敵を見据えながら、視線を逸らすことなく小声でハジーシャへと答える。


「(流石の俺っちも、マトモにあのムチプリ♡女達を前にしたら、装備品を全てかなぐり捨てて裸ダイブしちまうのは間違いねぇ……だから、ここは俺っちの狂化系スキル:【強引☆マイウェイ!】で理性を一気に蒸発させた感じで、奴等を分からせてやるッ!!)」


 ヤリザールの武闘家系強化スキル:【強引☆マイウェイ!】。


 それは、自身で全く行動コマンドを選べなくなる代わりに、攻撃力を倍加させて敵に強烈な大ダメージを与える猛攻撃を繰り出すヤリザールの秘奥義だった。


 とはいえ、このスキルはプレイヤー達の間ではあまり強い技とは認識されていない。


 その理由は、相手への大ダメージ以上に、デメリットがあまりにも多すぎるからである。


 行動コマンドが自身で全く選べなくなる事はそれだけで既に重大な欠点なのだが、その上攻撃が単調になりがちなため、相手がモンスターであろうと比較的知能のあるオーク程度の存在ならば、何度かの攻防でその動きを見抜かれてしまう危険性があるのだ。


 なにより、このスキルは対象が異性の場合だと、3割の確率でそういういやらしい行為を相手にしようとするのだが、現在のデスゲーム化によって『卑猥な行為をしようとすれば、光の粒子になって消失する』という風に世界法則が変化して以降は、かつては軽いプレイヤーサービス程度の扱いだったのが、うかつに使用すれば盛大に自爆しかねない禁じ手となってしまったのだ。


「(だが、今はもうそんな事を言っている場合じゃねぇ……!!俺達の“王”が奴等の軍勢の力を大分削り、ヘンゼルさんやゴチルスの奴が命を懸けたやり取りを今もしてるんだ!だったら、ここは俺達だけで何とかするしかねぇだろ……!!)」


 そう口にしてから、ヤリザールは自身とは対照的に異種族達に冷徹な眼差しを向けているハジーシャに問いかける。


「(ハジーシャ、お前はどうするんだ?”治療術士”のお前に、俺みたいな狂化スキルはないはずだろ?)」


 そんな彼の問いかけに対して、ハジーシャは初めて笑みともいえる感情を込めた声音で返答する。


「(何、問題ない。僕は治療解析スキル:【七十五ナナジュウゴ杉田スギタ玄白ゲンパク】を用いて、奴等の身体を単なる骨と肉だけで出来た機械として認識してみせる)」


 ハジーシャの高位治療解析スキル:【七十五ナナジュウゴ杉田スギタ玄白ゲンパク】。


 それは、杉田玄白を彷彿とさせる透き通った視点を一時的に得ることによって、対象の内部まで見通せるようになるスキルである。


 それによって、外部からでは見つからない内部にある敵の弱点を見つけ出したり、味方に使うことによって、状態異常を引き起こしている箇所や損傷部分を見つけ出して適切な治療を施す事が可能となるのである。


 ハジーシャはこのスキルを応用することによって、異種族達の外見の色香に囚われることなく、手にした鋭いメスで彼女達の命を刈り取ろうと考えていた。


「(……なるほど、確かに【七十五ナナジュウゴ杉田スギタ玄白ゲンパク】の透き通る視点なら、俺の【強引☆マイウェイ!】同様に奴等に対抗できる、ってわけか……!!)」


 大学の体育会系のヤリサーの如き本能任せな戦法のヤリザールと、合理性を突き詰め過ぎた理系の如く、人間性がどこか別方向に振り切れた冷徹な視点のハジーシャ。


 異なる側面からの二人による攻撃ならば、確かに異種族達がどれほどの実力者であろうと簡単に負けることはないかと思われた。

 

 そんな彼らに対して、ニコニコと笑みを浮かべた眼前のエルフ女性が語り掛けてくる。


「男の子同士のひそひそ内緒話は終わったかな~?あんまり女の子に慣れてなくっても、私達が優しく手ほどきしてあげるから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ~♪」


 間延びした声と気遣いの言葉とは裏腹に、自分達を挑発するかのような意図を感じたヤリザールが激しい敵意とともに異種族達を睨みつける。


 そんな彼に笑みを返しながら、今度は自身の仲間である異種族達に呼びかけを行う女エルフ。


「みんな~!!それじゃあここにいるプレイヤーさん達を、ライカお姉さまが出来なかった分までまとめてやっつけちゃうわよ♪」


キャピッ、キャピッ♡』


 そんな彼女の意思に応えるかのように、一斉に声をあげる異種族の奇襲部隊。


 それを目にしながら、ヤリザールが不機嫌を通り越した本気の敵意を浮かべる。


「んだぁ、テメェ等……!?俺達二人を前に、流石に余裕こきすぎだろ。どんだけ、俺等の血流を逆流させてイライラ棒にするつもりだ、コラァ……!!」


「よせ、ヤリザール。――ここは、一気にスキルを使用するぞ」


 そうハジーシャの制止を聞いたヤリザールは、彼と同時にスキルを発動させる――!!



「スキル発動!【強引☆マイウェイ!】――!!」


「スキル発動、【七十五ナナジュウゴ杉田スギタ玄白ゲンパク】――!!」



 妖艶な色香に惑わされることなく、最高のコンディションでスキルを発動させた二人の強者が、この『ブライラ』に足を踏み入れた襲撃者達へと瞬時に迫る――!!


 ……にも関わらず、対する異種族達は全く動じる様子を見せようとしない。


 それどころか、エルフの女性は妖艶な笑みを色濃くしながら、迫りくる二人を愉しげに見つめる。


「あらあら、お盛んな事で感心、感心♪それじゃ、その有り余る元気をた~~~っくさん、私達にぶつけてもらいましょ♪」


 そう言いながら、恐るべき言葉を口にする――。



「私達八人の魅力に溺れて良いのよ♪――連結スキル発動、【暴れ忘八大車輪】……♡」



 そう告げるのと同時に、八人の異種族の女達の胸元にそれぞれ、桃色に艶を放つ珠のようなエネルギー体が一つずつ浮かび上がる。


 そして、怪しげな桃色の珠は宙に高く浮かんでいったかと思うと、瞬時にパァン!と勢いよく弾け散る――!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 来るのが分かっているのにも拘わらず、 「リューキ、早く来てくれーーー!!」 とは思わずにはいられない、展開の緊張感とリューキの主人公感! ゴチルスの行為に報いるために、自分達も命を賭ける…
[一言] 相変わらずネーミングセンスが突き抜け過ぎている!!wwwww
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