オボロの新スキル
オボロとヒサヒデが武装集団に対して、今にも挑みかからんとする中、俺は先ほどのリーダー格の男の言葉を思い出していた。
『コイツは、自分の事を“プレイヤー”などと言っているが、明らかに異種族にしか見えない女や、フクロウの魔物を引き連れている!!怪しい!――消えたもう一人の女だけでなく、地中にも何らかの魔物を引き連れている可能性が高いから、決して警戒を怠るな!!』
聞いたときは何とも思わなかったけど、今になって感じる発言の微かな違和感。
これまでの情報から、俺の脳内では「ひょっとしたら……」程度の推測が浮かび始める。
(今の状況からしてそんなはずがないけど……でも、リーダー格の男の発言や取り囲んでいるコイツ等の姿……どういう理屈なのかは分からないけど、もしかしたら!!)
駄目だ、情報を整理するためにもう少し時間が欲しい。
だが、リーダー格の指示のもと、敵側も一斉に動き始め、しびれを切らしたオボロが「もう、こうなったらアタシは止めても行くからね!!」とこちらへと叫ぶ。
……今は、ここまでか。
そう判断した俺は、今度こそオボロへと告げる。
「聞いてくれ、オボロッ!!……確信はないんだが、とにかくこの敵に【瘴気術】関連を使うのは絶対に駄目だ!!――何とか、相手を殺さない程度に俺達でコイツ等を何人か無力化するんだ!」
俺の発言に対して、オボロが訝し気な視線を向ける。
「ハァ!?何よそれ?その言い方だと、コイツ等は加護とやらを受けている“異種族”みたいな奴等じゃないって事だろうけど……」
そのように俺の意見に難色を示しながらも、オボロはすぐに前へ向いて言葉を続ける。
「――まぁ、別に良いや。とりあえず、コイツ等を全滅じゃなくて無力化すれば良いだけなら、アタシだけで十分だし、リューキとヒサヒデは巻き込まれないように、ここでじっとしといて!」
……巻き込まれないようにする?
それが一体、どういう事なのかと問いかけるよりも先に、オボロが高らかに告げる――!!
「――スキル:【野衾・極】発動ッ!!」
そう告げるや、否や物凄い衝撃と弾けるような音がしたかと思うと、オボロの姿が一瞬で掻き消える――!!
『――ッ!?』
突然、眼前まで接近したはずの対象の姿が消えた事に、動揺したのか驚愕した様子で武器を手にしながらその場に立ちすくむ木の仮面を被った男達。
そうしているうちに突如、ズドン!という豪快な音とともに短刀を持った武装兵が、その場から勢いよく吹き飛んでいく――!!
飛ばされた武装兵が立っていた場所に、オボロの姿が視界に映る。
だがそれも一瞬のことであり、オボロは兵士にぶつかったときの衝撃を利用したのか、そのまますぐに勢いよく飛んでいく。
オボロは放たれた銃弾の如く、高速で木や地面を移動しながら、先程と同じように次々と敵へとぶつかっていく。
そんなオボロの速度を見切れていない俺とヒサヒデは、オボロに言われた通り、大人しくその場でうずくまりながら戦場の様子をじっと見守る。
「な、何が【野衾】だよ!?……ここまで言ったら、目隠しどころじゃすまない砲弾レベルの物理攻撃じゃないか……!?」
「ピ、ピ、ピース……!!」
オボロの猛攻を前に戦慄する俺達だったが、こうして縮こまっているわけにもいかない。
“転倒者”であるらしい相手のレベルがどのくらいなのかは分からないが、これだけ強力な攻撃を食らわせてしまえば、例えそれが一撃だけだろうと死んでしまっていてもおかしくないのだ。
かと言って、この状況で迂闊に止めようとすれば、それこそ本当に俺達も巻き添えにあうかもしれない……!!
そう考えていた俺だったが、事態はすぐに決着を迎えた。
「あ、ぐっ……!?」
呻き声が聞こえたかと思うと、そこには、自身の右足を抱えるように地面へと倒れ込んでいたオボロの姿があった。
対して、そんなオボロを見下ろす形になっている武装集団のリーダーは、右手の短剣を持ったまま、なおも建材と言わんばかりに佇んでいた。
どうやら、この武装集団のリーダー格にこれまでの奴等と同様に、突撃しようとしていたようだが、おこの男に見切られて反撃を受けてしまったようだ。
それでも何とか立ち上がりながら、なおも戦意を絶やさぬオボロに向けて、男が静かに語り掛ける。
「……まだ遭遇した事のない獣人の類かと思っていたが、どうやらこれまでに全く情報のなかった存在のようだな、お前は。おかげで、我の部下は残り三名となってしまったが……彼らの勇姿によって、お前のとても速いが単調な動き、ようやく分析する事が出来た……!!」
そう言いながら、男が短剣をオボロに向ける。
「この森に、お前のような強き者がいるとは思わなかった。その雄姿を我が称えよう!!――ゆえに、獣人の女よ、最期に勇気あるお前の名を聞いてやろう……!!」
「……フフン、アタシはまだこんなところで死んだりしないから、教えてあげない♪――そっちこそ、アタシの攻撃を単調とか言ってくれちゃっていたけど、こっちの攻撃が一つだけとか、油断し過ぎじゃないの?」
対するオボロは、自身の身体から瘴気を徐々に放ち始める。
――このままだと、確実にマズイ。
オボロの方は、どうやら相手にやられたことでかなり冷静さを失っているようだ。
俺が言っていた事も度外視して、【瘴気術】関連を使用するつもりなのかもしれない。
だが、今の相手の発言からして、今度こそ俺の『ひょっとしたら……』という憶測は、確信へと変わった。
俺は二人の間に割って入るかのように走りながら、右手であるものを掲げる。
「二人とも、スト―ップ!!……えっと、この集団の偉い人!!俺達は、敵じゃないです!!ヘンゼルさんからコレを渡されたれっきとした“プレイヤー”なんです!!」
「――ッ!?貴様、それをどこでッ!!」
男が見つめる先にあったのは、俺がヘンゼルさんから帰還する際に使用するように渡された輝きを放つ白い小石だった。
警戒する相手に対して、俺は矢継ぎ早に『ブライラ』の名前を告げてから、俺や仲間達がどういう存在なのかの説明と、この森林に着いてからの事を全て、相手の返事も聞かずに一気に捲し立てるかのように話した。
ポカンとしたオボロとは対照的に、武装集団のリーダーは終盤になるにつれて、感じ入ったように頷きながら、話を終えた俺に対して厳かともいえる様子で語り掛けてくる。
「……“山賊”の少年:リューキよ。逃げようとした事も含めて、我に正直に話したお前の真摯さは、我が同胞ヘンゼルが託したその石の如く、微塵も濁ることなく輝いていると我は信じよう。――そして、よくぞ我が『ブライラ』の窮状を知らせてくれた。重ねて礼を言うぞ、リューキ……!!」
「……やっぱり、貴方がヘンゼルさんの言っていた、『ブライラ』側に現在残っている最後の“転倒者”で、あそこにいた皆が言っていた“王”なんですね?」
そんな俺の質問に対して、「あぁ、そうだ」と言いながら、眼前の“転倒者”である男性はおもむろに自身の顔に被せた仮面を外していく。
「――ッ!?ア、アナタは……ッ!!」
その中から出てきた顔を見て、思わず衝撃を受ける俺。
オボロは、そんな俺とは違って特に反応を見せなかったが、それも無理はないだろう。
なぜなら、現在俺達の前に現れたのは、世界史の教科書に載るほどのある有名人物だったのだ――!!




