邂逅と駆け引き
俺達の前に姿を現した、謎の武装した男達。
彼らはそれぞれに異なる武器を手にしているが、顔面をすっぽり覆う木製の仮面に、鍛え上げた自身の肉体を惜しげもなく晒すかのように、軽装を通り越した腰布だけの恰好をしていた。
どこぞの部族を思わせる容姿だが……少なくとも、ムチプリ♡したお姉さんじゃない事から、コイツ等が獣人やエルフのような異種族である可能性は低いのではないか、と俺は判断した。
とりあえず、相手の出方が分からない以上、迂闊な真似は出来そうにない……。
そのように警戒する俺達に向かって、頭に白いハチマキのようなものを巻き付け、首飾りをしたリーダー格と思しき仮面の男が語り掛けてくる。
「誰ネ、誰ネ!?お前達、一体誰ネ!?」
……どうやら、俺達が何者なのかを訊ねているらしい。
コイツ等の正体や真意も分からない以上は迂闊な事を言わない方が良いに違いない。
そう判断した俺は、手探りで情報を小出しにしながら、自分達の事を伝える事にした。
「あ~……俺達は、ここに迷い込んだプレイヤーでさ。ここを出る方法がないかと探し回っていたんだ」
一番上手い嘘のつきかたは、本当の事を隠すことだと聞いた事がある。
俺はプレイヤーやヘンゼルさんがいる『ブライラ』の事や、パーティの仲間であるキキーモラさんが出口から既に離脱した事を告げずに、本当に今の自分達の現状だけを伝える事にした。
だが、そこまで口にしてからようやく俺は、自身が重大な見落としをしていた事に気づく。
俺達の状況を伝える傍ら、奴等を一人一人見渡してみると、あるべき名前やレベル表記が、見当たらない。
いや、厳密には存在していたのだが、リーダー格を筆頭に20人近い武装集団全てのステータス表記がバグに侵されているかのように、見えなくなっているのだ。
俺が知る限り、コイツ等の正体を言い表すための言葉は一つしか思い浮かばない。
(嘘、だろ――俺達を取り囲んでいるコイツ等全員が、“転倒者”だって言うのかよ!?)
ヘンゼルさんの話では、この『ブライラ』に属する“転倒者”は、合計で三名。
『ブライラ』に残っているヘンゼルさんと現在異種族側に囚われている一人を除けば、残ったのはあと一人だけのはずだった。
となると、この20名近くもいる“転倒者”は、『ブライラ』側ではなく、確実に敵対する異種族側に属する存在のはず……、
ただでさえ、戦力不足かつ負傷しているヘンゼルさん達のもとに、コイツ等を行かせるわけにはいかない――!!
けれど、どれほどの強さか分からないこの武装集団を相手に、回復アイテムも全く所持しておらず、残り僅かな“BE-POP”しか使えない俺が挑むのは、ちょっとばかり無謀か……?
いや、戦いに関しては、【瘴気術・極】なんていう響きだけで禍々しさMAXなスキルを取得したオボロがいる以上、そっちは大丈夫かもしれないが、ここで事を荒立ててしまっても良いのか判別が難しいな……。
そう悩んでいる間に、リーダー格が威圧するような声で俺へと詰問してくる。
「お前、プレイヤーと言ったな?お前の仲間、ここにいる奴等で全員か?」
ヘンゼルさん達同様に、キキーモラさんの事も無駄に言う必要はないだろう。
そう判断した俺は、
「ハイ、そうです……!!」
と答えたが、最初に自分自身の心の中で思案していた『一番上手い嘘のつきかたは、本当の事を隠すこと』という法則から外れたのが、俺の最大の失敗だった。
リーダー格の男は、仮面越しにゆっくりと視線を地面に落とす。
……不意打ち、などに警戒しながらも、男と同じように恐る恐る顔を下に向ける俺。
そうして地面に顔を向けてから、俺は相手が何を言いたいかという事にようやく気づく。
その答え合わせをするかのように、眼前の男はゆっくりと追い詰めるかのように、言葉を紡ぐ。
「この場所には、お前とそこの女とフクロウ、そしてもう一つ女のモノと思われる足跡がある。……その女は、一体どこへ消えた?」
……ッ!?マズい!
もしもこれでまた下手な嘘をつけば、確実にコイツ等を敵に回すし、正直にキキーモラさんの行き先を告げれば、そんなことが出来る俺達が何者なのかとさらに怪しまれるに違いない。
何を言ったとしても、既に積んでいるも同然の現状を前に、俺は上手く言葉を口にする事も出来ずにしどろもどろとなる。
そんな俺にしびれを切らしたリーダー格が、周囲の部下らしき者たちに指示を飛ばす。
「コイツは、自分の事を“プレイヤー”などと言っているが、明らかに異種族にしか見えない女や、フクロウの魔物を引き連れている!!怪しい!――消えたもう一人の女だけでなく、地中にも何らかの魔物を引き連れている可能性が高いから、決して警戒を怠るな!!」
俺達の後に続いていた地面の盛り上がり具合から、地中にも俺達の仲間がいる事を看破するリーダー格の男。
マズいな……この転倒者はかなり、知恵の回る指揮官タイプの戦士であるらしい。
俺の些細なミスから、あっという間に一触即発の空気になってしまった。
……まぁ、嘘がバレなかったとしても、(今回は本人が全く悪くないとはいえ)“プレイヤー”でありながら、この大森林の異種族にしか見えないオボロや、魔物のヒサヒデを仲間として連れている時点で、俺の事を何の変哲もない普通のプレイヤーだなんて思うはずがないよな……。
そう諦観する一方で、俺は相手とのやり取りを通じて、何か引っ掛かりのようなものを感じていた。
(待てよ、さっきの発言ってことは……もしかして、コイツ)
そんな風に脳内で状況整理しようとしている間にも、オボロやヒサヒデが武装集団を相手に、戦意を剥き出しにしながら対峙する。
「リューキ!何をぼさっとしてんの!?――早く、コイツ等を何とかするわよ!!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
意気込みながら、背後の俺へと振り返るそう呼びかけるオボロとヒサヒデ。
そんな仲間達を前に、俺は――。




