レベルアップの恩恵
多大な労力と回復アイテムの全消費の果てに、急激なレベルアップと“線引きミミズ”という新たな魔物を仲間にした俺達。
今回の戦闘によって、俺達のレベルは以下の通りになった。
俺:レベル36
オボロ:レベル52
キキーモラさん:レベル48
ヒサヒデ:レベル42
……同じパーティで戦っているのに、この凄まじいまでのレベル差よ。
俺は、キキーモラさんだけでなく、とうとうこの前加入したヒサヒデにまで追いつくのが難しい段階になってしまっていた。
しかも、俺は“山賊”職であるため、レベルが上がっても基本的なステータスが上がる以外に何の恩恵もないのに対して、レベルアップした分に見合ったスキルをゲット出来るようだった。
オボロは、他の“プレイヤー”達と同様に、レベルアップで獲得したポイントを割り振りして、自身が習得できるスキルの中からどれが良いかを、キキーモラさんと楽しそうに話しながら選んでいる。
俺だって、同じ“プレイヤー”のはずなのに……なんで“山賊”だからって、レベルアップじゃなくて、特殊な行動をしなくちゃスキルを習得出来ないなんて仕様なんだよ!!不公平過ぎる!
一方で、キキーモラさんとヒサヒデは、“モンスター”であるからか、オボロとは違ってレベルアップしたら自動的にスキルを覚えていくようだった。
「よーし、とりあえず【瘴気術】を最大級の【瘴気術・極】にまでしたし、あとは、他の新系統のスキルもバンバン極めていくぞー!!」
……【瘴気術・極】?
今でさえ、滅茶苦茶凶悪なスキルなのに、あれ以上があるというのか?
『もう、オボロ一人で良いんじゃないかな……?』と、俺は密かに感じていた。
ちなみに当初、オボロは俺が線引きミミズを仲間にした事に難色を示していたが、今回の戦闘の発端がオボロにある事をそれとなく告げると、渋々ながら新たなメンバー入りを許可してくれた。
そうこうしているうちに、すっかり夜になってきたので、俺達は手慣れた様子で夕食の準備を行い、明日こそ目的の場所に到達するために、早めに眠りにつくことになった。
食事の時間、ヒサヒデ(とキキーモラさん)が、じっとシャレにならんレベルで線引きミミズの事を見ていたので、『新しい仲間だから、食べてはいけない』と両者に厳しく言い聞かせておいたが……。
明日の朝になったら、ミミズの姿が見えなくなっている代わりに、ヒサヒデの腹が膨れているという事になったりしないだろうか?
ミミズの方は、脳がないはずだから睡眠するのか疑問だったが、俺達の動きに合わせたのかもぞもぞと地面の中へと潜っていったが……心配だし、明日起きたら朝一で『山賊団』系列の項目を開いて、メンバーが欠けてないか確認しないとな!
だって、うんうんと過剰なほどに真面目ぶった表情で頷くヒサヒデとか、「わ、わわ、私はそんなはしたない上に、非常識なことなどいたしません!」って、滅茶苦茶慌てふためいていたキキーモラさんとか不安要素てんこ盛り過ぎるだろ。
そんな事を考えながら、俺はゆっくりと深い眠りに落ちていく……。
俺が両者に注意したことと、線引きミミズもキキーモラさんやヒサヒデ達の手が届かない地面に潜っていた事などから、特に問題なく朝を迎える事が出来た。
こうして、俺達は朝食を済ませた後に、今度こそ目的の大森林からの出口を見つけるための出発に乗り出すこととなった。
出発を始めてから、十分後、
線引きミミズとの戦闘による急激なレベルアップによって、俺の身体能力も(俺基準では)大幅に底上げされたことによって、俺は何の強化がない状態でも、人並みの速度で移動できるようになっていた。
……まぁ、本気で走られたりしたら、オボロ達には到底かなわないんだろうけど。
ちなみに、線引きミミズは最初俺達の後にウネウネしながらついてきていたのだが、元いた場所と違って日の光が差し込むことに耐えられなくなったのか、地中に潜りながら、俺達の後についてくるようになっていた。
俺達の列の後ろの地面が若干、ボコッと浮き上がっているのが特徴的。
……でも、姿が見えないから、もしかして地中の中で他の魔物がミミズに成り代わって、俺達の後をつけてきているのかも……という嫌な想像を、俺は内心で密かにしたりしていた。
そういったパーティの移動速度などとは別の問題として、俺達の眼前には、またも今まで目にしたことのない光景が見え始めていた。
「分かっていた事だけど……ヘンゼルさんの言う通り、アタシ達“プレイヤー”を迷わせる術式とやらがこの大森林には張り巡らされているようね……!!」
戦闘自体は、ここいらのレベルのモンスターなら、俺達は問題なく倒せるようになっていた。
だが、今回の目的はそういった敵を倒すことではなく、目的地を見つける事である。
この状況を打開する方法が思いつかず、諦めかけていたそのときだった。
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
ズンズンと胸を張りながら、俺達の横を通り過ぎて先頭へと躍り出たのは、ヒサヒデであった。
こちらへ振り向いたヒサヒデは、自信満々な表情をしながら、自身の胸をドン!と右の拳で叩く。
「なんだ……?もしかして、案内を自分に任せろ、と言っているのか?」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
どうやら、そうであるらしい。
確かに、俺達とヒサヒデが最初に遭遇したのは、あの森の出口付近だったし、ヒサヒデもそこなら自身の記憶から覚えているのかもしれない。
でも、俺達がこれだけ歩き回っても見つからない場所を、ヒサヒデが見つける事なんて出来るのだろうか……?
「まぁ、考えたところで他に方法も思いつかないし、ここはヒサヒデの野生の感性と土地勘に任せるとするか。それで良いだろ?」
「う~ん、不安が全くないとは言えないけど、なんだかんだ今まで結果は出してるもんね、コイツ。……幸い、今のアタシなら異種族と遭遇しても何とかできるようになったわけだし、アンタが好きにやりなさい!ヒサヒデ!!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス♡」
こうして、俺達はヒサヒデの案内で出口を目指す事になった。
「……」
それにしても、気のせいかな?
なんか、キキーモラさんの視線が厳しい気がするんだが……。




