共同作業
「アンタねぇ~!簡単に、ここから出るっていうけど……“プレイヤー”や“転倒者”は、この大森林にかけられた何らかの術式の効果で、ここを抜き出せなくなっているってヘンゼルさんが言っていた事じゃない?話聞いてた?」
オボロが呆れたような表情で、俺の発言に答える。
まぁ、自然に考えたら当然のことだろうけど、俺だって別に単なる思い付きで口にした訳じゃない。
「落ち着けよ、オボロ。ヘンゼルさんの言う事を疑う訳じゃないけど、俺達は自分達の目で実際に入り口がなくなっているのを目にした訳じゃないだろ?もしも、本当にその場所に行って何もなかったとしても、俺の“BE-POP”を使えば、ひょっとしたらその術式とやらを何とか出来るかもしれない……!!」
「あ……確かに、それは一理あるかも!」
俺の答えを聞いて、途端にオボロはバァッ……!!と、快活な笑みを浮かべる。
現金な奴だな、と思うのと同時に、(まぁ、こんな男むさい上に、敵は過剰にエチチッ!で何故か自分の“瘴気術”も通用しないような相手ばかりの場所なんて、長居したくなかったんだろうな……)と納得出来る気もした。
「とりあえず、今日一日だけで色々な事があり過ぎたし、もう日も暮れてきた事だから、ヘンゼルさんが用意してくれた屋敷で一泊だけしていこうぜ?」
「それもそうね!じゃあ、キキーモラさん。今日は一緒によろしくね♪」
「はい、よろしくお願いいたします。オボロ様」
そう言いながら、キキーモラさんを連れて俺が進んでいたのとは別の建物に進んでいくオボロ。
何をするつもりなのかと慌てて俺は問いかける。
「ちょっ、オイ!教えてもらったのって、そっちの建物じゃないぞ!?」
それに対して、オボロが小馬鹿にするような表情で振り返って、俺に返答する。
「ハァ~?アンタやフクロウみたいなスケベ男子と同じ屋根の下で一緒だなんて、そんなの安心して眠れるはずないでしょ?アタシとキキーモラさんは、ヘンゼルさんから教えてもらったもう一つの空いている家を使わせてもらうから。明日の待ち合わせは、アンタの場所にしてあげるんだから感謝してよね!」
……クッ!
こ、この俺をフクロウみたいなエロ魔物と同程度に扱う、だと~~~!!
全然関係ないけど、『同程度』っていうと『童貞度』って言葉と誤解してしまって、慌てて否定したくなってくるぜ~~~ッ!!
そんなスケベ男子な俺の力をアテにこの森を脱出する作戦のはずなのに、一番の功労者となるかもしれない俺に対して、なんだその態度はッ!?
“山賊”はとっても偉いんだ!それが分からないメスガキは、この俺がじっくりと分からせてやるッ!!(パンッ、パンッ♡)
……などと口に出来るはずもなく、俺はそんな内心の想いをおくびにも出すことなく、
「あぁ、うん。分かった……」
とだけ告げていた。
そのまま去っていくオボロと、苦笑しながらこちらに一礼してからオボロについていくキキーモラさん。
取り残された俺とフクロウは、無言のまま顔を見合わせる。
「……」
「……」
「……とりあえず、俺達も自分達用の建物に行くとするか」
「……ウッス」
なんだ、コイツ。
今普通に、低い声で返事しやがったぞ。
いつもの鳴き声はどうした。
……なんか、無性に腹立たしいな……!!
俺やオボロに用意されたのは、これまで他のプレイヤー達が住んでいた場所だった。
彼らは、今回の襲撃以前の異種族との戦闘で命を落としたプレイヤー達であり、室内は遺品は整理されていたが、流石に掃除にまで人手が行き届いていなかったのか、結構埃にまみれていたりした。
「亡くなった人が住んでいた場所か~……まぁ、一泊するつもりの俺達のためだけに新居を立ててくれ、とも言えないし、借りている以上は掃除くらいはしておくか。そんじゃ、協力してチャチャっと終わらせるぞ、フクロウ!」
「ピース!」
俺と3ピース・ホロウはこうして、簡易ではあるがまず初めに室内の掃除をすることにした。
最初はぎこちなかった俺達の連携だが、オボロの言う通りスケベ男子で似た者同士だからか、次第に息も合うようになり、的確に役割分担をこなせるようにまでなっていた。
夜空に月が昇る頃、俺達は3ピース・ホロウが捕獲してきた調理してくれた料理を食べようとしていた。
「……いや、見た目に反して器用なのはありがたいんだけどさ、案の定、今日の献立は虫まみれか~……」
俺の眼前には、芋虫のバター和えをはじめとする虫料理がズラリと並んでいた。
「ピ、ピ、ピ~ス……?」
何かマズかったのかと、3ピース・ホロウが不安げに問いかけてくる。
……まぁ、ムカデみたいなどぎつい虫やらネズミみたいな生き物が入っていないだけマシ、かな?
それに俺が具材を調達や調理したわけでもないんだし、文句を言うのも筋違いだろう。
そう判断した俺は、苦笑を浮かべながらも意を決して梟が用意してくれた食事を勢いよく口の中に運び込む――!!
「――ッ!!これは……ウマいッ!?」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
俺の反応を見て、喜ぶフクロウ。
そうしている間にも、俺はガツガツと料理を平らげていく――!!
「ふぅ~、食った、食った!」
結局、3ピース・ホロウの作った料理をすべて完食しきった俺。
すっかり気を良くした俺は、上機嫌のまま3ピース・ホロウに話しかける。
「これほど上手い飯を用意するだけじゃなく、お前は戦闘でも活躍してくれているし、まさにアッパレ、アッパレじゃ!!……そんなお前を“3ピース・ホロウ”とか“フクロウ”と呼ぶのも、味気ないな……特別に俺がお前に名前をつけてやるぜ!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス☆」
どうやら、異論はないようだ。
とはいえ、突発的に口にしたものの、全く名前なんて考えていなかった。
何か候補がないかと俺は、思考を巡らせていく。
(フクロウで、やたらとエチチッ!な性質ながらも、結構頼れるヤツ……)
それらの要素から俺は、ふとある人物を思いついた。
そして、その名を俺は3ピース・ホロウに向けて告げる――!!
「3ピース・ホロウ!俺の世界で有名な“乱世の梟雄”と呼ばれた戦国武将にちなんで、お前の名前は今日から“ヒサヒデ”に決定とするッ!!」
「ッ!?ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
そのように、嬉しそうに声を上げるヒサヒデ。
どうやら、俺が与えた名前を気に入ってくれたようだ。
そんな俺よりも遙かにガタイの良いフクロウ頭のマッチョが、眼前で無邪気にはしゃいでいる姿を見てほっこりする俺。
……あ、でも松永久秀って、割りと知略家で主君の信長を裏切るような人物だったな……。
まぁ、有名な二人の作家をもとに名前をつけられたはずの俺が、今までそんな栄光やら才能とは程遠い人生を送ってきてるわけだし、多分大丈夫だろ。
そこで思考停止することにした俺は、ヒサヒデとともに仲良くダブルピースをしたりしながら、夜を過ごしていく……。




