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少女の実力

「見てなさい!本物の”BE-POP”を使用した戦い方ってヤツを!!……と思ったけどあんなヌメヌメした奴に触りたくないし、アレ・・を使うことにしよっと♪」


 そう言いながら獣耳少女は、カタツムリのもとに颯爽と疾走し――そのまま高速で通り過ぎていった。


「???」


 嘘だろ……。


 あんな大口叩いておきながら、平気で俺を置いていくつもりなのか……?


 確かにコイツはヌメヌメしていてキモイし別に俺とは何の接点もないしむしろ初対面なのに速攻で冴えない扱いしてきたし戦うはずなのに全く何の武器も所持していなかったけど――それでも、俺はお前を信じている……!!


 名前すら知らないけど……!!


 そんな事を考えている間にも、カタツムリは何の苦もなく俺のもとへと向かってくる。


「クッ……結局アイツが何のために現れたのか分からないままだけど、やはりここは自分で何とかするしかないのか……!!」


 流石にこんな何の変哲もない野良の魔物が、負け確定のイベント戦闘という事はないだろう。(そんなものがこのゲームにあったのかは知らないが)


 なら、当然コイツに倒されればそれは文字通り死につながる。


 唯一の希望だったスキルを使用するための”BE-POP”が枯渇した以上、絶体絶命の窮地を免れるための方法は最早尽きたも同然だったが、それでも覚悟を決めた――そのときだった。





「……何だ?身体の中から何かが沸き上がってくるようなこの感覚は……?」





 そう呟くのと同時に、ひょっとしたら、という気持ちでステータスを確認すると、僅かだが”BE-POP”の量が回復し始めているようだった。


 まだ、枯渇してから時間も経っておらず何かの回復アイテムも使用していないのに唐突に自身に起きた予期せぬ誤算に喜びながら、俺は軽く困惑していた。


(何だ、何が原因なんだ?……今の感覚が起きたのは確か……)


 ――それは、俺が生き残るために自分で戦う事を選ぼうとした時。


 でも、そんな……感情に左右されるステータスなんてあるのか?


 いや、”BE-POP”がマトモな能力値じゃない事は、既に分かっている事ではあるが……。


 そう思案している間に、いつの間にかカタツムリは目と鼻の先にまで来ていた。


 俺は慌てて、無駄と知りつつもスキル:”山賊領域”を再び展開しようとした――そのときだった。





「ちょっと、アンタ!なんで、ソイツが迫っているのにボサッと突っ立ってんのよ!?」





 見れば、先程逃げ出したはずのミニ丈獣耳少女が、カタツムリの背後から俺に向かって呼びかけていた。


 ”見捨てられたわけじゃなかった”という事に安堵しつつも、眼前に迫った敵を見てやはり死にかけている状況に変わりない事を実感した俺は、急いで彼女に返答する。


「俺は最弱の”山賊”だから、こんな奴から逃げるための速度すらないんだよ!!君こそ、コイツを何とかしてくれるんじゃなかったのか!?」


「……はぁ~!?嘘でしょ?何でアンタそんなに弱いのよ!それに、アンタがノロマな事と”山賊”に何の関係があるってのよ!……まぁ、良いわ!アタシの準備も終わったから、適当に何とか凌いでてよね♪」


 そう言いながら、少女は敵を見ながら静かに両手を突き出す。


 ……やはり、何の武器も持っていないようだ。


 打撃を繰り出したところで、殻を背負ったコイツは割と防御力が高いため、彼女のレベルがそこそこない限りダメージを通すことすら難しいんじゃないだろうか。


 だがそんな予想とは裏腹に彼女から繰り出されたのは、俺が思ってもいない光景だった。


 彼女が茶目っ気と力強さが入り混じった何とも言えない声音で呟く――!!





「くらえー!!”悶々波もんもんは”ッ!」





 ……ダッセェ、名前。


 だが、そんな微妙なネーミングセンスに反して、彼女の全身から何やら禍々しい瘴気らしきものが発生し、ズルズル……とカタツムリの背後からまとわりついていく。


 ……あの構えた両手、本当に意味なくないか?


 そんな俺の疑問に答えるかのように、技名致命的ダサ子さんが瘴気を放ちながら、意気揚々と解説を始める。


「この”悶々波もんもんは”は、アタシ達の一族に伝わるとっておきの妖術!……その効果は、瘴気によって相手に病気を誘発させるというとんでもない代物なのだ~~~ッ!!えっへん!」


「構えた両手、意味なくないか?」


「しかも、効果はそれだけじゃなく、瘴気の中にアタシが練り上げた”火”属性の”BE-POP”も混じっているから、悶々とエッチな気分になる事間違いなしの奥義なのです!」


 ……強い。


 そしてなるほど、そういう誤魔化し方もあるのか、と深く感心させられる。


 この短期間の間に、俺のコミュニケーション力は彼女によって爆発的な高まりを見せようとしていた。


 だが、それに反して俺の寿命は急激に減少しようとしていく……!!


「よく分からんがこのカタツムリ、君の攻撃でロクにダメージも状態異常も受けてないし、普通にこっちに来てるんだが!?」


 俺は何とか”山賊領域”で眼前に僅かな空間の揺らぎを発生させながら、ギリギリでカタツムリがこっちに来るのを防いでいた。


 そんな俺を見て、今度こそ慌てた様子で少女がカタツムリのもとへと接近する。


「え、えぇっ!?何で効いてないのよ!!……この、このっ!」


 そう言いながら、近距離から瘴気をカタツムリにぶつけたりするが、それでも敵に目立った変化は見られない。


 俺の”BE-POP”も回復した量が僅かであるため、今度こそ流石にマズイ――!!


 先程までから一転、俺達は互いに激しくテンパりながら技を使用していたが事態は特に変化を見せず、何の感情も覗かせないカタツムリだけが無駄な奮闘と言わんばかりに平然としていた。


 このまま万事休すかと思われたが……変化は思わぬところから出現した。


「……オボロ?それが君の名前か?」


 獣耳少女の頭上に、突如HPバーと『オボロ』というキャラクター名らしきモノが出現したのだ。


「へっ?何でアンタがアタシの名前を知ってんの?……てゆうか、このリューキって文字とかなんかの棒みたいな奴って何?」


 オボロが俺に対してそんな返事をしたのと同時に、突如、それまでから一転して何故かカタツムリが盛大に苦しみ始める――!!


 ――ほんの今まで、何も起きていなかったのに一体どうして……?


 そんな思考をすぐに振り払い、”BE-POP”が枯渇した俺はスキルを解除し、敵が苦しんでいる隙に急いで奴の眼前から距離を取る。


 カタツムリは苦しみながらも俺の方に向かおうとしていたが、何が起きているか分からないなりにこの状況を好機だと判断したオボロが瘴気を奴の背後から浴びせ続けていく。


「と、とにかく今がチャンスって事で!!覚悟しろー!」


「~~~~~~~~ッ!!」


「うわわッ!?いきなり、こっちに方向転換しようとすんな~~~!!」


 現在の自身にとっての脅威が俺ではなく、オボロの方であると判断したカタツムリがノロノロと彼女のいる方向へとUターンし始める。


 敵が迫ってくるのに驚いたオボロは流石に瘴気を中断する羽目になったのだが、彼女は最弱職の”山賊”である俺と違って並のステータスはあったらしく、走る事によってノロマな巨大カタツムリから逃げおおせることに成功していた。


 オボロを追い回していたカタツムリだったが、状態異常による効果でダメージを受け続けたためか、途中で力尽き遂にその動きを完全に停止した。


 恐る恐る奴の様子を伺う俺達の前で、敵は光の粒子となって消え去り……あとには、奴が背負っていた巨大な殻だけがドロップアイテムとして残っていた。


 敵が消えた事をようやく実感した俺達は、勝利を祝うよりもへとへとな状態で互いに倒れ込んでいた。


「……やったぞー!!俺達は、アイツに勝ったんだ!!」


「……もう!ほとんど頑張ってたのアタシじゃない!?……でも、勝ったぞー!!」


「勝ったぞー!!」


「うっさい、調子に乗んな!……とにかく、勝ったぞー!!」


 そんなやり取りをしながら、倒れ込んだ状態で互いの顔を見ながら声を上げて笑い出す俺達。





 ……誰かと、こんな風に笑い合ったのはいつ以来だろう。


 俺は、いつから無表情でいる事がカッコイイだなんて勘違いしていたんだろうな。


 そんなモノ、ただ単に不愛想でこんな気持ちすら忘れたつまんない奴だってだけなのに……。





 笑いながらもそんな物思いに耽っていた俺だったが、突如変貌したオボロの形相で急激に現実に引き戻される事となる――!!


「あっ!!てゆうか、結局アンタは何者でここは一体何なのよ!?……納得できる説明が出来るまで、絶対に許さないんだからね!」





 彼女の剣幕を前に、慌ててのけぞりながら正座する俺。


 ただ単にキョドったように見えるかもしれないが、俺自身としては無意識ながらでこんなノリの良いリアクションが出来るのか……と、自分でも知らなかった意外な側面を発見して軽い感動を覚えていた。


 でも今はそんな事よりも、彼女に対してどう答えるか……が先決である。


 なんせ、俺自体が自分が何故このデスゲーム世界に巻き込まれたのか分かっていない有様なのだ。


 しかし、そんな状況をこの”オボロ”という女の子が理解してくれるという保証はどこにもない。


 今回は協力してくれたものの、最悪の場合、激昂して俺に敵意を向けてくる可能性もあるのだ。


 そうなれば、カタツムリにすら手も足も出なかった俺など、この少女にかかれば一撃で倒される事は間違いないだろう。





 これは、あんまり迂闊な真似は出来ないぞ……!!

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