乱戦確実
ヘンゼルさんがライカとかいう獣人を相手に“転倒者”対決を始めようとしていた頃、俺達もエルフのお姉さん達の迎撃にあたっていた。
どこもかしこも乱戦になることは確実――。
つい先ほどまで、そう判断していた俺だったが……。
「ホラ、アンタ達!さっさと、降伏したら許してあげなくもないわよ!!」
「……勝敗は既に決しました。どうか、賢明なご判断をなさいませ……!!」
現在エルフのお姉さん達は、こちらの女性陣であるオボロとキキーモラさんによって、あっさりと武力的に制圧されていた。
……まぁ、この結果も当然といえるかもしれない。
エルフのお姉さん達は半裸同然の姿からして色仕掛けがメインであり、俺やここにいる他のスケベプレイヤー達にとっては脅威といえるかもしれないが、そんなものを気にしないオボロやキキーモラさんからすれば、下手に攻撃してこない分簡単に倒せる相手に過ぎなかったのだ。
魔術師エルフお姉さんの方は【野衾】で飛び掛かったオボロによって腕の間接を極められ、舌ったらずな感じの独特な方のエルフは、キキーモラさんに仕込み刀を突き付けられたまま、涙目で尻もちをついている。
ゆえに、魔術師お姉さんの方は20レベル代だったにも関わらず、瞬時に接近戦を持ち込んだオボロに、得意の魔術を行使する事も出来ずに敗北し、色仕掛けに全振りしてロクに武器も持っていなかったもう一人のエルフの女の子も、キキーモラさんの仕込み刀を前に、その場にへたれ込む事となった。
(キキーモラさんの方は、険しそうな表情を見るに相手を攻撃することにやはり抵抗があるみたいだけど……とりあえず、威嚇までならギリギリ許容範囲、ってところかな?)
青ざめている、ともいえるキキーモラさんの横顔だったが、どうやらそんな彼女の表情も刃を突き付けられた相手からすると、凄まれているように見えたらしい。
ほぼ同時に二人のエルフが声を上げる。
「痛たたたッ!!クッ、さっさと離れなさい小娘!!もう、私の負けで良いから!!」
「ヒェ~~~!!突きつけられる非情な刃を前に、降参する以外に逃れるための術を知らずです~~~!」
エルフの二人による降伏宣言により、俺達の戦闘はあっさりと決着を迎えた。
オボロとキキーモラさんの勝利を聞いて、その光景を見ていた周囲のプレイヤー達から盛大に歓声が沸き上がる。
「す、すげーぜ!!俺達が手も足も出なかったエルフを相手に、まさか無傷で勝利するなんて!!」
「女だてらに何たる漢気!単純なレベルやスペックを越えた、本物の強さを俺は見た!!」
「か、勝てる……!!この御二方さえいれば、ヘンゼルさんが存在力を消費してShippori and the Cityな行為をしなくても、マトモに異種族と戦闘出来るだけでなく、ミニ丈着物姿の獣耳娘と、清楚なメイド服爆乳お姉さんという二人を通じて徐々に異性への免疫をつけて、俺達もムチプリ♡異種族を相手に対抗できるようになるんだ……!!」
二人の勝利を目にして、プレイヤー達の声と瞳に盛大に希望の光が宿り始めていく――!!
これまでは、ヘンゼルさんのような自分達とは異なる力の持ち主に完全に保護され、依存するような形になっていた事に、彼らは無力感やいたたまれなさを感じていたのかもしれない。
だが、同じ通常のプレイヤー達とは異なる存在とはいえ、オボロやキキーモラさんという新たな可能性を示す存在を前にして、彼らは自分達なりの“希望”のようなものを見出したようだった。
最後の奴は単なる願望を口にしていただけのような気もするが……これで全体の士気も上げられるなら、指摘する問題でもないのかもしれない。
(正直言うと俺としては、オボロやキキーモラさんには、エルフの二人組を相手にキャットファイトを繰り広げて欲しかった気持ちもあるが――今はそんな理想的な展開にこだわるよりも、手にした勝利を喜ぶ場面に違いないな!!)
視線を向ければ、俺達だけでなく3ピース・ホロウの方も、自身にしだれかかっている獣人女性達を両脇に肩を組みながら、こちらに向けて笑顔でダブルピースをしている。
……あの状況から、逆転したのか。
M嗜好とかそういうのに関係なく、途中からの路線変更は薄い本だと絶対に読者から怒られる展開に違いないが、俺はあの状況から華麗な逆転劇を遂げたフクロウの手腕にただひたすらに感心していた。
「さて、と。これであとは、ヘンゼルさんが相手しているライカっていうお姉さんを何とかすれば良いだけだな……」
そんな風に、俺が口にするのとほぼ同時だった。
「ッ!?そ、そんな!……ヘンゼルさん!!」
悲痛な声を上げたのは、ロクローだった。
ロクローに合わせて、皆が一斉にその方向に視線を移す。
そこには……俺達を相手に圧倒的な強さを誇っていたヘンゼルさんが、ライカの攻撃を受けたのか、腹部から血を流している姿があった。




