異種族の猛攻
ヘンゼルさん達の後についていく形で、現場へと颯爽と駆け出す俺達。
と言っても、オボロやキキーモラさんは何とかヘンゼルさん達を見失わないように走っていけているが、俺の速度ではマトモに走っていてははぐれる事確実である。
ゆえに、俺は3ピース・ホロウに俺を背負うように命令しようとしたのだが、それよりも先に見かねたらしい3ピース・ホロウによって、素早くお姫様だっこで抱えられながら運ばれる形となっていた。
コチラを見ながら、ニヨニヨしているオボロに「そんな場合じゃないだろ!ちゃんと前向け、前!」と怒っているのか羞恥心に苛まれているのかよく分からない感情で怒鳴りつける俺。
そうしている間にも、現在この『ブライラ』という集落では、異種族達を迎撃していると思われる男性プレイヤー達による野太い怒声と悲鳴が響き渡っていた。
「グアァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「チクショウ!こ、こんな無様な形で……くたばってたまるかよッ!!」
「お母さーん!!」
プレイヤー達の悲痛ともいえる断末魔が聞こえたかと思うと、天に昇っていくいくつもの光の粒子が見えてくる。
どうやら、あの場所がプレイヤー達と異種族達が戦闘している地点に違いない。
……これまでとは比較にならない本物の洒落にならない空気を前に、俺達は一斉に押し黙りながらその場へと向かっていく。
俺達が到着した先では、場は異様なまでに重苦しい緊張感に満ちていた。
四名の異種族の女達を相手に、二十人近い男性プレイヤー達が自身の武器を構えながら緊張した面持ちで取り囲む形となっているが、彼女達はそんな数の差など一向に気にした様子もない。
見る限り、“獣人”と“エルフ”がそれぞれ二名ずつ。
皆それぞれにタイプは違うが、ほとんどは十代後半で皆ムチプリ♡体型なお姉さんといった感じで、何故か半裸に近い格好をしていた。
彼女達は現在の状況を特に気にした様子もなく、戦利品ともいえるプレイヤー達の装備やアイテムを楽し気に物色し、品評していた。
(なんだ、コイツ等の余裕は……?それほどまでに、異種族ってのが強いのかよ?)
一人魔術師的な杖を持った20代半ばくらいに見えるエルフのお姉さんはいるものの、他の三名は特に武器も持っていないし、半裸であることからも分かる通り、自身を守るための装備すらしていないようだった。
レベルの方を見ても、魔術師エルフは35レベルだったものの、他は全員20レベル代であり、とてもさっきのプレイヤーが泣きつくようなレベル差とは思えない。
ヘンゼルさんの姿を見て、先程の男同様に泣き崩れていくプレイヤー達。
そんな彼らを尻目に、ヘンゼルさんが異種族達に対峙する。
「“あの人”が獣人とエルフの混成部隊による大規模侵攻の迎撃に向かっている隙をついて、好き勝手してくれたようだね?……ここから先は、僕が相手をするとしよう……!!」
そんなヘンゼルさんを相手に、杖を持ったエルフお姉さんがフフッ……と妖艶に笑う。
「強がったところで駄目よ、ヘンゼル?貴方達“転倒者”はこの世界に存在が固定されていない稀薄な影のようなもの。ゆえに、普通の攻撃では私達を傷つけることなど出来はしない……!」
“転倒者”は、戦闘でマトモに相手にダメージを与える事が出来ない……!?
でも、ヘンゼルさんはあの投石攻撃で俺達にダメージを与えていたはずだ。
「そんなあからさまな嘘をついたところで、一体何の意味が……?」
そんな俺の呟きが聞こえているにも関わらず、ヘンゼルさんは全く相手の言葉を否定しようとしなかった。
その態度を見て、俺はある光景を思い出していた。
(そういえば……オボロがこの世界に来たばかりの頃も、“瘴気術”を用いていたにも関わらず、あのカタツムリには全く攻撃が通じていなかったみたいだった……!!)
この大森林の獣人と違って、ゲームシステムのようにオボロの名前やHPバーが表記されるようになってから、途中でカタツムリには攻撃が通りはじめていた。
アレが、この世界に存在を定着させたっていう事なのか?
確かにヘンゼルさんはオボロと違って、未だにステータス表記がバグっている辺り、まだこの世界に自身を固定化出来てないのかもしれないけど……でも、俺達にダメージを与えられたんだから、それと同じ方法で何とか出来るんじゃないだろうか。
そんな俺の意図を読み取ったわけではないだろうが、エルフお姉さんはクスリ、と笑いながら否定の言葉を紡いでいく。
「その様子だと、言うまでもなく察しているようだけど、私が施した防御術式の効果があるから、貴方の小石投げくらいなら何とか防ぐ事は出来るわよ?まぁ、流石に私の実力じゃ無傷とはいかないかもしれないけど、回復呪文も覚えてはいるし……そういうちまちました感じに貴方の力を消費してくれても、私達は困らないわ」
そう言いながら、蠱惑的ともいえる眼差しをしたエルフお姉さんが、右手で三本指を立てながらヘンゼルさんに告げる。
「勇ましくノコノコとこの場に出てきた貴方が、出来ることは三つ。
一つは、今言った通りちまちまと小石投げで力を使いながら、防御と回復術式を使用できる私達にぶつけ続ける事。
もう一つは、私達とShippori and the Cityな行為にふけって、女の本音を見せつけられる事……♡
そして、最後は私達を倒すために“固有転技”を使用する事よ!!
――まぁ、どれを選んでも結果は同じだけどね~♡」
そう言いながら、仲間の異種族達とともに高笑いするエルフお姉さん。
……なんだ!?
“固有転技”ってのは一体何なんだ!?
でもって、それを使う事とお姉さん達とエチチッ!な事をする事が、どうして同じ結果になるんだよ!?
その答えも分からぬまま、事態を見守るため俺は戦慄しながら、これから先に怒ることを見届ける決意を固めていた――。




