発動!”山賊領域”!!
「――ッ!?」
僅かながら、敵が仮面越しに驚いた事がこちらにも伝わってくる。
それと同時に、俺のスキル発動によって、視界に映る周囲の景色がわずかに歪んでいく。
――正直言えば、この一度も成功した事のないスキルを使用したところで、何が起こるのか全く予想もつかない。
だが、『仲間を守りたい』という明確な意思を持った今の俺なら、何が起こるのかは分からなくても何とか出来るという、理屈とも言えぬような確信めいたものがあった。
(――今の俺なら、ひょっとしたら、”天空流”だって本当に使用出来るのかもしれないな……!!)
とはいえ、このまま景色が多少揺らいで終わるだけなら、ただ単に”BE-POP”を多大に消費しただけの結果になってしまうかもしれない。
だが、そうはならなかった。
敵から勢いよく放たれたはずの投石は、いまだ俺に到達することなく、見えざる揺らぎに阻まれるかのようにスローモーションのようにゆっくりとこちらへ向かっていたのだ。
――自身の望んだ場を形成するスキル:【山賊領域】。
これがその完成形だとは思いたくないが……今の俺にはこれ以上とない救いの一手だった。
この速度なら、あと何発石を放たれようが余裕で回避出来るが――今の俺には、それよりも先にやるべき事がある!
「……今だッ!そいつをやっちまえ!――オボロッ!!」
最後の最後に女の子に頼るとか、我ながらなんて他力本願かつ情けない判断だろうか。
今回ばかりは自分でも流石に呆れるが、それでもこれが最大限にやった今の俺の本気なんだ。
絶対に次に”挽回”してみせるから――せめて、この場面だけは皆で生き残るためにお前の力を貸してくれ!!
そんな俺の願いが通じたのか、「任せてッ!」という快活さを絞り出したような返事とともに、オボロが最後の力を振り絞って敵の背後から【野衾】で飛び掛かる――!!
今度こそ、完全な不意打ちからの両腕による首絞めによる拘束状態に持ち込んだオボロは、一気に勝負を決めるための渾身のスキルを放つ。
「これで、今度こそおしまい!――喰らえ、【瘴気術】ッ!!」
オボロの全身から放出される黒い靄が、鬼仮面へと纏わりついていく。
これで勝負は決まった!!
――そのはずだったが、どうにも様子がおかしい。
あろうことか、敵は瘴気の只中にいるにも関わらず、微塵も倒れるそぶりを見せないのだ。
それどころか、オボロの首絞めにも全く動じていない。
(何かのスキルを発動させたようには見えなかったし、マリオのように状態異常を無効化させるようなアイテムを所持しているようにも見えない……となると、今の状態はアイツのもともとのステータスによるものなのか?)
ひょっとしたら、あの仮面にそういう効果があるのかもしれなかったが、すべての状態異常やダメージを無効化するようなチートアイテムなんて流石に俺は聞いた事がない。
それよりも、瘴気術を無効化する特性と、首絞めすらものともしない圧倒的な防御力からして、コイツは猿族のお姉さん達とは違う種類の”獣人”なんじゃないか、と俺は判断していたし、それが現在の状況も含めたうえでもっとも自然かつ正しい答えのはずだ。
(獣耳とか尻尾もなかったし、ロクロ―を拘束している他のプレイヤー達ともグルに違いないから、俺達余所者が気に食わないこの集落の高レベルプレイヤーか何かだと思っていたが……もしも本当に瘴気術が通用しない”獣人”だったなら、オボロにとどめを任せたのは流石にマズすぎたか!)
【山賊領域】を解除し、懸命にオボロのもとへ走りだす俺。
対するオボロは、鬼仮面の首を絞めながらも、眼前の光景が信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべてポツリ、と呟く。
「ウソ……まさか、アンタ、本当にこの場所の”獣人”だったの……!?」
自分の攻撃が通じなかったのが、よほどショックだったのだろうか。
それ以外の答えなんてないはずなのに、それだけはあり得ない、と言わんばかりにオボロは茫然としていた。
そうしている間にも、鬼仮面もオボロの動揺に合わせるかのように、オボロの両腕へと自身の手を伸ばす――!!
使用出来る”BE-POP”は既に空に等しいが、このまま奴を完全に拘束から解き放ってしまえば、誰にも手がつけられなくなる。
無為無策かもしれないが、それでも俺が何とかしなければ――と、がむしゃらに殴り掛かろうとしていたそのときだった。
「何やってんだよ、”ヘンゼル”さん!!――そいつらは、敵なんかじゃないって説明したはずだろ!?」




