絶体絶命
眼前の鬼仮面が狙いを定めていたのは、他でもない俺だった。
相手が射出しようとしているのは、光っている事以外特に変哲もない小石だが……何らかの効果がある武器である可能性は否めないし、仮に何の変哲もない小石だったとしても、地面に突き刺さるような威力からして一発でもマトモに喰らえば俺が致命傷になることは間違いない。
休む間もなく訪れた危機を前に、俺はすぐさま思考をフル回転し始めていく――!!
(【凌辱に見せかけた純愛劇】で身体能力を強化してから、雷の奥義である"チャラリティ防壁"で防御力を底上げ……って、駄目だ駄目だッ!!肝心なときに、天空流なんてロクでもないものに頼ってどうする俺!?)
かと言って、俺の速度では強化したところで、あの高速で放たれる石を回避しきることは不可能に近いだろう。
そうこう考えている間にも、鬼仮面から勢いよく小石が射出されていく――!!
(マジか、スキルで強化も出来てない状態であんなの喰らったら、一撃で死ぬんじゃないか俺――!?)
ヨースケの死の間際の光景を皮切りに、これまでの過去が一気に脳裏に浮かび上がる。
……これが走馬灯って奴か。
迫りくる確かな死のイメージを前に、何もかもを諦めかけようとしていた――その瞬間である!
「ピ、ピ、ピ~~~ス!!」
そんな掛け声とともに、俺の眼前に大きな人影が躍り出る。
顔を見なくても分かる。
コイツは、俺が山賊団に加えたばかりの3ピース・ホロウだ。
オボロの時と同様にコイツは、俺の事も身体を張って敵の攻撃から守ろうとしていた。
ドスン!という鈍い音とともに、フクロウの顔をしたマッチョが膝から崩れ落ちる。
敵は依然として健在のままだが、そんなことは関係ない。
気づくと俺は、無我夢中で3ピース・ホロウに近づいていた。
「オイ!大丈夫か、お前!!こんなところで死んだりしないよな!?」
「リューキ様、ここは私が何とか致します!”藤っ子、良い子、元気な子。万象の理のもとに、わんぱく感溢れるこの者を癒したまえ”――!!」
俺と同じく、駆け付けてきたキキーモラさんによる”ミラクル☆ヒーリング”の荘厳な響きの詠唱によって、3ピース・ホロウの胸の傷がみるみる塞がり、HPが回復していく……。
どうやら、思っていたよりも敵の投石の威力はそこまで高くなかったらしい。
最初の不意打ちによる、地面に突き刺さった光景からしてそんなわけはないと思うのだが、今の一投は本気じゃなかった、という事だろうか……?
俺達をいたぶるためだとしたら、悪趣味というほかない。
案の定、俺達が無防備になっているというのに、鬼仮面は余裕の態度のまま見せつけるかのようにゆっくりと構え始める……。
「――それ以上、好きにはさせないってのよッ!!」
刹那、そんな叫びとともに、いつの間にかスキル:”野衾”を使用していたオボロが勢いよく敵へと飛びかかる――!!
だが、余裕の態度はこれを見越していたからだと言わんばかりに、敵がオボロに向けて小石を勢いよく射出する。
「ッ!?ガ、ハッ……!!」
3ピース・ホロウの時と違って、割りと強めに放たれたのか、オボロは敵に張り付く事が出来ぬまま不恰好な形で、相手の背後の地面へと転がり落ちていく。
右手で両足の脛を、左手で腹部を押さえながら、オボロが苦悶の表情を浮かべている。
あの一瞬で、三つの小石を正確に当てる辺り、敵もかなりの使い手のようだ。
だがそんな強敵を前にしても、オボロは怯むことなく、戦意を滾らせた瞳で相手を睨んで立ち上がろうとする。
しかし、敵側からすれば、そんなオボロを待つ必要は微塵もない。
ただ無言で見つめながら、鬼仮面がジリ、ジリ……とオボロの方へと近づいていく。
その光景を前にしながら、俺の胸に去来したのは一つの燃え滾るかのような感情だった。
(――ふざけるな!!これ以上、俺の目の前で……仲間を傷つけさせてたまるかよッ!!)
先ほどの走馬灯で思い出した、ヨースケが死んだときに感じた拭いきれぬ喪失感。
それによって引き起こされた爆発的な感情の高ぶりによって、俺の中の”BE-POP”が急速に膨れ上がっていく――!!
自身の中に満ちる感覚を噛み締めながら、俺は素早く思考を張り巡らせる。
(……だけど、今の俺の足では奴のもとに到達する前に、オボロを攻撃されてしまう事は間違いない。直接どうにかする前に、何とか奴の意識をこちらに向けさせないと……!!)
そんな意識とともに、俺は無我夢中で鬼仮面に対して声を張り上げながら叫ぶ――!!
「俺の仲間に、これ以上手を出すんじゃねぇッ!!……貴様、一体何奴ッ!?」
本来ならまったく相手にする必要のない、俺の無意味ともいえる問いかけ。
だが、僅かでも良いから意識をこちらに向けさせれば、オボロが逃げるチャンスが出来るかもしれない――。
その程度の試みだったが、意外にも敵はこちらへと振り向きながら、おもむろにこちらへと返答する。
「冷奴、ってね。……仲間を庇おうとする意気込みだけは買おう。だが、それ以上答える義理はない……!!」
そう言いながら、敵が再び小石を俺に向けて放つ――!!
後ろでキキーモラさんが息をのんだのが伝わってくる。
今度ばかりは、回復したばかりの3ピース・ホロウによる助けも期待できないだろう。
――だが、今の俺の”BE-POP”でなら出来る事があるッ!!
そう覚悟を決めた俺は、自身の”BE-POP”をすべて使い切るつもりで、意思の力を燃やしつくしながら右手を掲げる――!!
「今ここに展開せよッ!!――スキル、【山賊領域】ッ!!!!」




