奇怪なる鬼仮面
「そんじゃあ、改めまして――よく来てくれたな、みんな!ここが俺達プレイヤーの”シスタイガー大森林”における拠点:『ブライラ』だ!!……ここには、今”あの人”が滞在しているんだけど、流石に今すぐ会うことは出来ないみたいだから、今日はゆっくりしていってくれよな!」
そう言いながら、ロクロ―が俺達に集落を案内していく。
木材で出来た家がポツポツと立ち並ぶ中、集落の中心部にそれよりも目について大きな建物があった。
ここが恐らく、ロクロ―の言う”あの人”がいる場所なんだろうけど……大きさもさることながら、豪華な装飾品が色々されている辺り、まさに王様か貴族と言わんばかりの雰囲気だ。
よほど、凄い高レベルかつ上級職のプレイヤーなんだろうか?
そんな事を考えていた俺とは別に、キキーモラさんが不思議そうに疑問の声をあげる。
「それにしても、ロクロ―様。この場所におられるのは男性プレイヤーの方々のみのようですが……女性の方はおられないのですか?」
周囲を見回してみれば、確かにこちら側を観察しているのが男性プレイヤー達の姿があった。
それに対してオボロが、呆れたような表情を浮かべながらつぶやく。
「おおかた、ここにいるのなんて、リューキみたいにこの大森林にある”修正パッチ”とかいうアイテムを狙いに来たスケベなプレイヤーばっかりでしょ?本当に男って、どうしようもないというか……ヤダヤダ」
「オイ!俺は、そんな風に説明してないはずだろ!!変な言いがかりすんな!……てゆうか、今の会話中に俺とか全く関係なかったよな!?」
勝手にここにいるロクに知りもしない連中と、常に躍動する意思と高潔な願いを携えながら日々懸命に生きている俺を、一緒くたにしてんじゃねー!!
そんな感情を込めて否定していた俺だったが、当事者の一人であるロクローはハハッ、と力ない笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく。
「確かにオボロちゃんの言う通り、ここにいるプレイヤーはほとんど全員、この大森林の奥にあるっていう”修正パッチ”狙いの奴等ばかりだった。……だけど、今はこの場にいる全員がそれとは違う目的でここに集まっているんだ」
「目的が、”修正パッチ”ではない?……それはどういう事なのですか?ロクロ―様……」
ロクローの言葉の真意を測りかねたのか、キキーモラさんがそのように不思議そうに尋ねる。
次の瞬間、オボロが「みんな、避けてッ!!」と突然叫びだす――!!
オボロの声を受けて、何が起きているのか分からぬままにその場から跳ね上がるように回避する俺達。
それと同時に先ほどまで自分達の立っていた位置に向かって、上から勢いよく降ってきた破片らしきものが地面へと突き刺さる。
「これは……白い小石?」
地面に突き刺さるほどの勢いで飛来してきたのは、数個くらいの輝きを放つ白い小石だった。
一体、誰がこんな事を……?
そのように油断しているうちに、俺の背後で「ンググッ!?」と何やらくぐもった声が聞こえる。
何かと思って振り返ってみれば、そこにはこの集落の仲間である男性プレイヤー達によって口元に布を咥えさせられながら、手足を押さえつけられたロクロ―の姿があった。
「なっ……なんだお前ら!?いくら潤いに飢えているからって、なんで仲間のロクローを羽交い絞めにしてんだよ!てゆうか、そういう事するにせよ、何も客人である俺達の前でする必要なんかないだろ!!見えないとこでやれッ!」
「アンタも落ち着きなさいよ、馬鹿リューキ!!今は、それよりも目の前の相手を何とかしないと!!」
「は?相手って……」
そこまで言ってから俺は、すぐに押し黙る。
オボロが見つめる先にいたのは、”鬼”をかたどったような面をした一人の男が、自身の右手で白い石をジャラジャラ鳴らしながら佇んでいた。
下はゆったりとしたズボンを履いているものの、上半身裸な上に裸足となかなかの野性味あふれるファッションである。
背丈は俺より少し高い175㎝くらいか?
そこそこ鍛え上げられた身体つきと若菜色の髪をしている事以外、コイツが何者でどんな意思を持っているのか、仮面越しでは伺い知ることが出来ない。
「なんだ、コイツ……もしかして、この集落にまで入り込んだ”異種族”なのか?」
今まで聞いてきた情報や目にした相手から、この”シスタイガー大森林”にいるのは、異種族には女性しかいないと思っていた。
だが、常識的に考えたら女がいるなら、男の獣人やエルフがいたっておかしくないはずだ。
そいつがこの集落に侵入して、ここにいる”プレイヤー”を裏切らせるように仕組んだのだろうか?
俺がそんな推測をしていた矢先、オボロが博徒さんと初めて遭遇したときと同じような怪訝な表情を浮かべながら、相手に向かって小さく呟く。
「……アナタって、もしかして……」
「ッ!?なんだ、オボロ!!コイツの正体が分かったのか!?」
「え?あぁ、うん!なんとなくだけど……でもそれより先に、向こうから来るよッ!!」
オボロの呼びかけと同時に、鬼仮面を纏った男がこちらに向けて再度、白石を射出しようとしていた――!!




