ロクローの案内
「いや~、本当に凄かった!!……それにしても、今まで俺と変わらない最弱職だと思っていたけど、フクロウ兄貴みたいな魔物を仲間に出来るなんて、”山賊”って実は凄い職業だったんだな!!リューキ!」
「ピ、ピ、ピ~ス!!」
当初の警戒心はどこへやら、3ピース・ホロウの勇姿(?)を見たことで、俺達にすっかり気を許したロクロー。
どうでも良いが、なんで山賊団の部下であるフクロウの方が”兄貴”扱いで、俺の方が呼び捨てなんだよ。
内心でそんな思いを抱えつつも現在俺達は、ロクローの案内のもと、コイツの言う”あの人”とやらのもとへ向かっていた。
しかし、ロクローが言う”あの人”とやらの正体もだが……今の俺には、気になることがあった。
「それにしても、”山賊”は思わぬスキルや特性があって、まさかの最強職最有力候補だった訳だけど……そんな覚醒する以前の”山賊”と同じくらいの強さって、ロクローは一体何の職業なんだ?」
見たところ、ロクローは何の武器も所持しておらず、パッと身だと戦闘向きの職業には見えない。
かといって、他のプレイヤーの補助をする魔導士的な職業かと言うと、動きやすさを重視したスボーツマンとでもいうべき服装からして、そういう訳でもない気がする……。
ある程度徒手空拳で何とか出来そうな格闘関連の職業か?
でもそれなら、使い勝手は悪いかもしれないけど装備がなくてもある程度戦える辺り、”最弱”と言うほどじゃないはずだ。
本当に、何の職業なんだろう……?
「てゆうか、さりげなく何対抗意識燃やしてんのよ、リューキ!」
「フフフッ……それも、男の子だからでございますよ、オボロ様♪」
女ども、うっさい。
冷静に分析したり、微笑ましく見守るような発言をするんじゃない。
男には舐められないように、意地を張らねばならんときもあるんじゃいッ!!
そんな二人のやり取りが聞こえていたのか、苦笑らしきものを浮かべながら、ロクローが自身の職業を口にする。
「俺の職業は、”自転車乗り”。騎乗系の初級職なんだけど、俺の車種だと足元がぬかるんだり、木々が生い茂るこの場では走りにくいから、今はしまって徒歩で行動してるんだ。……知っての通り、俺の職業は自転車を乗りこなすだけでロクに攻撃スキルも身につかないし、本当に今からでも転職したいくらいだよ……」
どうやら、俺のマウント取りにも反論できないくらいに、ロクローは自身の職業に不満を抱えているようだった。
”自転車乗り”はその名の通り、自転車に乗ることで他の初級職とは比較にならない移動力やスピードをほぼノーリスクで発揮する事が出来た職業だった。
だがロクローの言う通り、優れたスピードなどがあっても、肝心の攻撃スキルがいつまで経っても身につかなかったため、俺の”山賊”ほどではないが、ネタ職業の一つとしてこれまでプレイヤー達の間で認識されていたのだ。
「……ましてや、このデスゲーム状態と化した今の≪PANGAEA・THE・ONLINE≫では、確かに今までのゲームと比べ物にならないくらいにキツいはずだよな~……」
「そうそう!まさに、本当にそれ!!……そんな感じだったから、俺みたいな低レベルで使えない職業のプレイヤーはもといた町でも冷遇されまくってたし、それが嫌で俺は自転車に乗って最初の拠点を飛び出したんだよ」
「そっか~、ロクローのところも結構大変な目に遭ってきたんだな……。俺のところなんか、同じ”プレイヤー”を奴隷扱いとかしてくるような場所だったんだぜ?」
「えぇっ!?マジかよ……それはいくら何でもヤバすぎじゃね?」
最初の対抗意識はどこへやら。
気づくと俺は、同じ不遇な扱いを受けてきたという共通点から互いの身の上話で打ち解け合っていた。
「く~~~っ!!リューキ、お前は本当に波乱万丈の道のりだったんだな~!!そんだけの事があったら、最弱職とか呼ばれようが、覚醒の一つや二つもしてみせるって感じにもなるか……いや、とにかくスゲーよリューキは!」
「いやいや、本当に凄いのはお前の方だよ、ロクロー。俺はなんだかんだダラダラ奴隷扱いでへーこらしていたけど、お前はそんな目に遭う前に逃げ出すことが出来たんだろ?……少なくとも、本当に死ぬ寸前まで追い込まれなきゃ出来なかった俺と違って、決断する事が出来たお前は凄いよ!」
「それこそ、ただ単に俺は”自転車乗り”だったから逃げ足が速かっただけさ。……まぁ、そういう意味では俺みたいな職業はまだ一芸に秀でた部分があるだけに、マトモに戦えなくてもそうやって逃げたりすることが出来たわけなんだけどさ、今まで色々なところを回ってきたけど、やっぱり”山賊”はデスゲームになった最初の段階で結構命を落としているらしいし、そんな中でも”山賊”として今まで生き残ることが出来ているお前の方が凄いよ、リューキ」
「え?”山賊”職って今、そんなにマズいことになっているのか?」
驚愕の声を上げる俺と、『当然だろ』と言わんばかりに答えるロクロー。
なんでもロクロー曰く、”山賊”は単なるゲームの頃から全く良いところがないネタを通り越した”不快”レベルの弱さだったため、”山賊”を選ぶプレイヤー自体が圧倒的に少数であり、このデスゲーム状態になってさらに弱肉強食ぶりが加速して以降、モンスターに襲われたり、他のプレイヤー達の憂さ晴らしや武力衝突に巻き込まれたりして、大半の”山賊”プレイヤーがあっけなく命を落とす事になっていたらしい。
「そういう事例も最近は全く聞かなくなったし、今も活動している”山賊”がいるという話もてんで聞かなくなっちまった。……そりゃ、実際にこうしてリューキがこの場にいる以上、他にも生き残りがいる可能性は全くゼロじゃないけど……ひょっとしたらリューキ、お前がこのPANGAEAに残った最後の”山賊”なのかもしれないぞ?」
「俺が、”山賊”唯一の生き残り……」
そんな風に考えながら歩いているうちに、どうやら、目的の場所についたらしい。
町といえるほどではないが、それでもこの剥き出しの原初の大自然にあるとは思えない簡素でこじんまりとしながらも、しっかりと木材で造られた建物がいくつも並んでいた。
「いや、これはもう立派な拠点じゃない!……ここなら、ようやくアタシ達もゆっくりと休める~~~!」
「フフッ、良かったですね。オボロ様、リューキ様」
そんな二人の仲間達を見て、ようやく一息つくことが出来た俺。
この拠点の見張りをしていた男性プレイヤーに、ロクローが話しかけに行って5分くらい経ってから、俺達はようやくこの場所に入ることを許可された。
”あの人”が何者なのかは分からないが――鬼が出るか、蛇が出るか?
一体、この先どうなることやら……。
そんな事を内心で呟きながら、俺は力強く一歩を踏み出す――。




