"天敵"の出現
突如、俺達の前に現れた一人の青年プレイヤー。
(今のキキーモラさんはともかく)異種族のオボロや魔物の”3ピース・ホロウ”と一緒に行動している俺達のパーティなんて確かにコイツからしたら、訳が分からないというか不審者以外の何者でもないだろうな……。
さりとて、この状況をどう説明したものか――そんな風に頭を悩ませていた時期が、俺にもありました。
「とりあえず、大人しくさせるのが先でしょ?……今まで休んでた分、コイツからキッチリ情報を聞き出してあげる!」
そう言いながら、オボロは尻もちをつきながら「ヒィ~~~ッ!!」と声を上げている青年プレイヤーにゆっくりと近づいていく。
『あんまり手荒なことをするなよ……』と俺が注意しようとしていた矢先、突如、オボロの獣耳がピクリと動く。
そして険しい顔つきになりながら、瞬時に目線を上に向けていた。
そうして、オボロがおもむろに口を開く。
「――何か、上から来るッ!!」
それを言い終えるのとどちらが早かっただろうか。
刹那、「ケヒヒッ♪」という声とともに、二つの人影が木の上から勢いよくオボロの前に降り立つ――!!
オボロに向けて好戦的な笑みを浮かべているのは、お尻から細長いしっぽを生やした二人組のお姉さんだった。
ベリーショートっぽい髪形と無造作に伸ばしただけといった感じの髪型という違いはあったが、どちらも赤色である辺り姉妹か何かなのかもしれない。
さらに共通点として、どちらも健康的に割れた腹筋とそれでも出るところが出たムチプリ♡ボディと、動きやすさを重視したのか、胸と腰あたりを薄い布で覆っただけの扇情的なファッションといった特徴を見逃すわけにはいかないだろう。
尻尾をはじめとする外見から受ける印象から判断するに、このお姉さん達が”シスタイガー大森林”に生息するという”獣人”なのかもしれない。
”獣人”と聞いて俺は、これまで犬耳とか猫耳の種族ばかり想像していただけに、こういう猿の性質を持った種族もいるとは思わなかった。
”獣人”ってどのくらいの種類の存在がいるんだろう?と疑問に思っていた――そのときだった。
「あ、あぁ……!?まさか、コイツ等までこの場に出てくるなんて!?……もう、俺はおしまいだ~~~!!こんなの絶対助かりっこねぇよ!!」
声を発したのは、いまだに尻もちをついたあの青年プレイヤーだった。
猿族な獣人のお姉さんが自分に背を向ける形でオボロと対峙しているんだから、その間に不意打ちをかますなり逃げ出していれば良かったのに……。
案の定、ムチプリ♡モンキーお姉さん達が一斉にそちらの方に振り向く。
「あぁん?後ろでキーキー猿みたいな声出してんじゃねぇぞ、この雑魚プレイヤーが!……例え、一瞬だろうとアタシを不愉快にさせた以上は、テメェの身体を使ってスッキリさせてもらう事決定済みだから。搾り取ってやるから、しっかりと覚悟しとけよ?」
「キヒヒッ!姉さまの言う通りだよ~♪今こうして、”プレイヤー”のくせに、現在進行形でこうして生きている時点で君が経験ないのは明らかなんだよ、クソ童貞くん♪大人しくアタシ達で卒業して、『キモチい~!!』って叫びながら、光になって昇天しようよ♪その方が、コソコソとアタシ等の水浴びを覗きなんかするよりもずっと、ず~~~……っと、楽しいはずだよ♡」
髪をざっくばらんに伸ばしたお姉さんの方が見かけ通りつっけんどんに、ベリーショートの方がメスガキクオリティ満載で、そんな事を言い放つ。
ムチプリ♡お姉さん達からの発言を受けてヤツは、顔面蒼白になりながら「嫌だ~~~!!」とかほざいているけど、お前絶対、”修正パッチ”を手に入れたら180℃違う返答する事くらい、出会って間もない赤の他人の俺でもすぐに分かるからな?
だが、このまま見知らぬ他人とはいえ、眼前で俺より先に大人の階段を上られるのは面白くないな……。
そう考えていた俺だったが、そんな俺とは別に、オボロが二人のお姉さんに向かって「アタシの前で変な事しようとしてんじゃないわよ!」と、不意打ち同然で”瘴気術”を放つ――!!
相手には悪いけど、これで勝負が決まったな……と、俺は確信していたが、どうにも様子がおかしい。
二人のムチプリ♡お姉さんは、
「うわっ!?なんだ、この靄みたいなヤツ!気持ち悪ッ!?」
「姉さま、助けて~~~!!」
などと戸惑った声を出しているが、それ以外は特に何の以上もなくピンピンとしていた。
それを前に、オボロが信じられないといった感じに、茫然とした表情のまま彼女達に問いかける。
「ウソ……なんでアナタ達、私の”瘴気術”を受けても毒にも何にもならないの!?これじゃ、まるで、今まで何の状態異常にもなった事がないと言わんばかりじゃない!!」
それに対して、お姉さんの長髪さんがつまらなさそうに――ある種そのままの答えを口にする。
「あ?お前の今のスキルがどういうもんか知らねぇけどよ、アタシ等は生まれてこの方、一度も病気にかかった事なんかないぞ?」
それに続いて、妹の方も楽し気に追従の言葉を投げかけてくる。
「そうだ、そうだー!!ひ弱で誰にも愛されていない外部のキミ達へなちょこさんと、アタシ達のような”あの方”の加護を受けたイマドキ存在を一緒にしないでよね♪」
どういう原理なのかは分からないが、この”シスタイガー大森林”の異種族には、とてつもない状態異常耐性とでもいうべきものがあるらしい。
これまで最強と思われてきたオボロの”瘴気術”を無効化する敵とのまさかの遭遇。
……当初想定していたオボロのフラストレーション解消どころか、俺達は足を踏み入れて早々、パーティの危機という事態に直面しようとしていた。




