キキーモラさんの実力
”3ピース・ホロウ”を前にしながら、箒を手に毅然とした態度で立ちはだかるキキーモラさん。
彼女が持っている箒は、正統派メイド服と同様に旅埜 博徒さんのところで購入した装備だった。
最初にキキーモラさんが所持していた箒は、『ナハバツ』に到着する前の魔物との戦闘で、魔物に砕かれてしまっていたので、新たな装備としておあつらえ向きなこの箒も購入しておいたのである。
そして、この箒は――以前のものと違って、ただ相手を叩いたり掃除に使用するだけの性能なんかじゃない。
キキーモラさんが、真剣な声音で一言呟く。
「それでは――参りますッ!!」
刹那、キキーモラさんが”3ピース・ホロウ”に向けて、真正面から駆け出す――!!
なんの駆け引きも感じられない愚直ともいえる突撃。
筋肉を誇る魔物に簡単に捉えられると心配したのだが、敵は獲物がみずから自分のもとに飛び込んだと勘違いしたのか、目に♡マークを浮かびかねない勢いで喜びの奇声を上げながら無邪気にハシャいでいた。
「ピ、ピ、ピ~~~ス♡」
それを好機と受け取ったキキーモラさんが、箒の柄を掴む右手に力を込める。
刹那、勢いよくキキーモラさんの右腕が振るわれたかと思うと、鋭い輝きを放ちながら敵の胸を斬り裂いていた。
「ピ、ピ、ピ~~~スッ!?」
同じ鳴き声ながらも、今度は驚愕を色濃くしながらそのように叫ぶ”3ピース・ホロウ”。
その様子を見ながら、緊張したような表情を浮かべるキキーモラさんの右手には、竹製の短い柄の部分から覗く鋭利な刃物がある。
見ての通り、俺達がキキーモラさんの装備として博徒さんから購入したのは、箒の柄の部分に刃を隠した仕込み刀とでもいうべき暗器だった。
……いや、まぁ、魔物相手にせよ、同じ思考が出来るプレイヤーにせよ、戦闘になればなんとも思われないまま襲われるか怪しまれるかのどちらかだと思うので、奇襲という意味合いではあまり意味がなさそうだけど、こういうのは正直”ロマン”というか。
相手が痛がって身動きが取れていない内に、連撃で仕留めたいところだが、どうにもキキーモラさんの様子がおかしい。
彼女にしては珍しく、動揺した表情で冷や汗を浮かべながら、魔物の方を見て「あ、う……」と短くも悲痛な声を漏らしている。
そうこうしている間に、痛みにも慣れたのか、憤慨した様子の”3ピース・ホロウ”がキキーモラさんの方に向かって突撃しようとしていた。
「3……レェェェェェェぇェェェェェイ」
「お怒りはごもっともだけど、それ以上は言わせねぇよ!?」
キキーモラさんの身の危険もあるが、直感でそれ以上叫ばせると何かマズイ気がした俺は、スキル:【凌辱に見せかけた純愛劇】を使用して自身の能力値を強化し、敵の前に躍り出る――!!
「――"金"とはすなわち、キラリと輝くセンスでみんなを魅了する在り方なり。……括目せよ!天空流奥義:"スタイリッシュ斬り"ッ!!」
「レ、レイ、ppp……ピ~~~ス♡」
見事、強化された俺の手刀が奴の胴体へと、クリーンヒットする。
それでもなお向かってこようとした”3ピース・ホロウ”だったが、怒りに我を忘れるのではなく、『最後くらいは潔く、自分らしくありたい』と願ったのか、何とか笑みを作って、本来の”3ピース・ホロウ”としての鳴き声を上げてドゥ……と後ろに倒れ込む。
「敵ながら、実にあっぱれな奴だったぜ……!!」
想定外なところで、スキルのために”BE-POP”を使用することになったが、何とかみんな無傷の状態で決着もついたことだし、とりあえず結果オーライかな、と判断していた……のだが、キキーモラさんの様子が何やらおかしい。
仕込み刀を再び箒の柄に戻すと、何度か深呼吸をしてから、意を決したように俺の方へと顔を向ける。
(美人さんの真剣な表情って、ドキッとするな……!)なんて馬鹿な事を考えていた俺。
だが、そんな俺に構うことなく、キキーモラさんがおずおずと――けれど、迷いのない瞳で俺にある一つの提案をしてきた。
「申し訳ありません、リューキ様。……もしも、の話で構わないのですが、今私が傷つけたそちらの魔物を私めに治療させて頂いてよろしいでしょうか?」
……え?
キキーモラさん、あんなしょうもないノリの奴に3ピース♡な事を許しちゃうのか……?(困惑)




