森林探索
ようやく足を踏み入れた”シスタイガー大森林”。
大森林の中は、ジャングルを彷彿とさせる木々が生い茂っていた。
カンカンに照り付ける日差しは、大きな植物の葉などによって遮られているが、やはり蒸し暑いことには変わりない。
ここに来て――いや、その前から薄々感じていたのだが、俺は博徒さんのところであのアイテムを購入した事を早くも後悔していた。
「キキーモラさん、本当にゴメンな?……気を利かせて購入したつもりだったんだけど、少し考えたらこういうところには向いていない装備だって分かるはずだったよな……」
「アタシもゴメン……あのときは似合いそうだと思って、つい浮かれてリューキの提案に賛成したけど、普通にまずかったよね……?」
俺とオボロは、そう口々に述べながらキキーモラさんに謝罪する。
そんなキキーモラさんが、現在身に着けているのは、あの結構布地がボロそうな初期の服ではなく、白と黒の色合いを基調としたロングスカートタイプのメイド服だった。
ライトノベルとかで見かけるような安易に胸元が空いたような服ではなく、本当にお屋敷か何かで務めていそうな清楚な印象の正統派……これぞまさにメイド服の醍醐味!!
厳密に言うと、そういうのも嫌いじゃないというか凄く興味は惹かれてるんだが……安易にエロ目的の要素に飛びつかないことによって、俺は『他のがっついた童貞プレイヤー達とは違う本物の価値が分かる男』になった気がしていたのである。
まぁ、結局そんな俺やオボロの浅はかな考えや同意で、こんな蒸し暑いジャングル地帯には適さない服装をキキーモラさんに強制させる形になってしまった。
だが、当の本人であるキキーモラさんは特に問題なく、少し汗をかいていたが本当に特に問題なさそうに俺達へと返答する。
「確かにヒラヒラしており、このような色々な障害のある場所では少し動きにくいのは事実ですが……暑さに関しては、御二人が心配するほどではありませんね」
「え、嘘……キキーモラさん、アタシ達を心配させまいと変に無理してない?キツかったら、正直に言ってくれて良いんだよ?それとも、キキーモラさんの種族ってそういうのに何か耐性があったりするの?」
「いえ、そういうわけではないと思うのですが……あの旅埜 博徒さんという方が用意してくださっていたこちらのメイド服という衣装に、大抵の環境の変化にも適応できる機能が備わっていたようなのです」
キキーモラさんの言葉を聞いて、俺も博徒さんにから受けた説明を思い出す。
”環境適応”。
そういえば、あのメイド服にはそういう機能も備わっているって購入する前に言ってくれていたっけ。
見れば、キキーモラさんは暑苦しい格好にも関わらず、軽装の俺やオボロよりもよほど涼し気な表情をしていた。
対して、オボロは(おそらく)もともと山育ちでミニ丈着物という格好にも関わらず、「アタシは、もうダメかも~!!」と早くも弱音を口にしていた。
俺同様に顔からは珠のような汗が出ており、ぴっちりと濡れた衣服とか、汗がツツ……と流れ落ちている肢の付け根とか……。
クッ、まさか、新しい衣装にチェンジしたキキーモラさんだけでなく、見慣れたオボロにまで俺の性癖を曲げられそうになるとは夢にも思わなんだ!
と、そんな事を考えていた――そのときである!!
「御二人とも、お気をつけてくださいませ。……どうやら、何者かがこちらに迫ってきているようでございます」
そのように、キキーモラさんが、俺達に呼びかける。
確かに、ガサゴソと何かがこちらに近づいてくる音がする。
一気に警戒心を引き上げる俺達。
そして、次の瞬間、勢いよく俺達の前に何者かが飛び出してきた――!!
「ッ!!コ、コイツは……!?」
「3ピース!!!」
奇怪な鳴き声とともに、俺達の前に姿を現したのは、浅黒いマッチョな身体つきの上に梟の頭部を生やした奇怪な魔物だった。
笑顔、ともとれるニコニコ顔のような表情をしながら、両手の指でピースサインを作っている。
『………………』
「3ピース!!!」
さめざめと無言になっている俺達を無視して、梟の魔物が楽し気に鳴き声を繰り返しながら、ピースサインのまま器用にこと、オボロとキキーモラさんに自分のもとに来るように促す。
この”3ピース・ホロウ”と表記された魔物は、どうやら、女性プレイヤーを相手にそういう3ピースな行為をしたがる性質の魔物のようだ。
博徒さんには警戒心MAXだったけど……流石にコイツのノリに絆されるほど、我がパーティの女性陣は馬鹿じゃないという事は、これまでの付き合いから確信していた。
だが、想定外だったのは、あれほどここに来るまでに滅茶苦茶フラストレーションを溜めまくっていたはずのオボロが「ゴメン……流石に、今アイツの相手とかする気分じゃない」とか言って、戦闘を放棄した事である。
俺が挑んでも良いのだが……それだと、最弱ステータスであのマッチョ梟相手に、接戦を繰り広げるのは確実である。
だが、このまま向こうも見逃さないだろうな……と思っていたそのときだった。
「リューキ様、ここは私めにお任せくださいませ」
そう言いながら、俺達の前に颯爽と躍り出たのは――優雅なメイド服に身を包み、一本の大きめの竹ぼうきを手にしたキキーモラさんだった。




