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風来坊:旅埜 博徒

 風来坊・十四代目:旅埜たびの 博徒ばくと――。


 そう名乗った相手の方へと、俺はすぐさま振り向く。


 そこにいたのは、三度笠を頭から被り道中合羽?とかいうのを羽織ったいかにも時代劇然とした格好をした男だった。


 『ナハバツ』の町にいたNPC達は、南の温かい気候を思わせる割と薄着の格好をしていたが、この博徒という人物はそれらからあまりにもかけ離れているため、おそらく”プレイヤー”なんだろう。


 年は20歳くらいだったけど、整った顔たちと慣れた感じの笑みを見て、俺はあまり自分とは相性が良くなさそうな”陽”の気質とでもいうものをそこはかとなく感じ取っていた。


 いや、まぁ、”陰”の気質においても、俺と相性の良い人間なんて人生でそんなに出くわしたことはないのだが。


(って、なんで自分の思考でこんな自虐に走らなきゃなんないんだよ!こうなったら、さっさと用件を聞いて切り上げたら、さっさと二人を連れてこの場から離れるのが賢明だな……!!)


 恰好はふざけている(まぁ、元がゲーム世界であることを考えたらそうでもないのか?)が、それでも伝わってくる”トッポイ”とでも形容したくなるようなチャラついた間男的オーラ。


 コイツと同じ時間と空間を共有すればするほど、コイツがオボロやキキーモラさんを相手にShippori and the Cityな行為をする光景を、俺の眼前で繰り広げる可能性も跳ね上がるのだと、俺の本能が警鐘を高らかに鳴らす――!!


 ……こんなポッと出の奴の前で、上下両方から惨めな雨をまき散らしながら「ちくしょう……ちくしょう!!」と悔しがる想いなんか絶対にしたくない!


 そんな決意とともに、この場でもっともコイツを追い払ってくれる可能性のあるオボロへとすがるように視線を向けてみれば、彼女は博徒ばくととやらの方を見ながら、首を不思議そうに首を傾げていた。


「……う~ん、この人何か変だな~……」


「ッ!!ちょ、ちょ、オボロさん!?いくら何でも、初対面の人相手に流石にそこまで言うのは失礼過ぎやしないかな!?」


 いや、それとなく断ってほしいと思ったが、まさか、そんなドストレートとも言えない断り方があるか!


 俺は当初の苦手意識も忘れて、苦笑している博徒さんに向けて「すいません!本ッ当にすいません!」と平謝りしてから、オボロに向けて説明する。


「良いか、オボロ?お前のところにはなかったかもしれなかったけど、この世界はもともとVRMMOっていう娯楽の中の世界で、そこでは俺達のように魔物を倒したりアイテムをゲットして楽しむ人もいれば、現実の自分とは違うゲームの中のキャラそのものになり切る”ロールプレイ”を楽しむ人もいるんだ。――俺はこういう装備があるって知らなかったけど、博徒さんは自分の格好に合わせたキャラクターになり切って、”風来坊”とか”十四代目”っていう意味深な言葉を口にしているだけなんだよ!」


「静止役に見えて、君も初対面ながら結構ずけずけと言うんだね?」


 俺が現実世界で良く読んでいたネット小説やラノベだと、ネトゲを舞台にした作品によく出てくる自身のアバターキャラになり切る”ロールプレイヤー”は、目立ちたがり屋が多い印象だった。


 だが、実際にそういうプレイの仕方をする人達は、多くの人間から注目されるよりも、『他の誰とも違う自分だけのプレイがしてみたい』という事で、自身の中で詳細にキャラクターの設定を決めてなり切る職人気質ともいえる人が多い、という話を俺は何度か耳にしていた。


 博徒さんも何らかの珍しい職業になった”ロールプレイヤー”だと思うのだが、オボロはその説明に納得いっていないようだった。


 俺は小声で彼女に問いかける。


「なんだよ……まさか、この博徒さんが『ヒヨコタウン』のときみたいな自我を持ったNPC……てゆうか、そこからの追手だと疑ってるのか?それとも、オボロの知り合いなのか?」


「いや、そうじゃないんだけど……まぁ、良いや。バクトさん、だっけ?アタシがちょっと勝手にこんがらがっていただけなんだけど、とにかくごめんなさい!」


「いやいや、お構いなく!こちとら、根っからの風来坊。訝しむのも当然ってもんでさぁ!……ただ、道すがら、俺っちは行商人のような事もしておりましてね。御三方があの魔境:”しすたいがー大森林”に向かわれるってんなら、しがない俺っちのようなものでも何らかのお役に立てるんじゃないか、と思いましてね。お声がけさせて頂いた次第なんですよ」


 そう述べたかと思うと、博徒さんは自身の風呂敷を俺達の眼前で広げていく。


 この風呂敷は見かけ通りの代物ではなく、おそらくそういう形をしたアイテムボックスから何かなのだろう。


 明らかに単なる手荷物としては収まりきらないような中身が、色とりどりかつ豪華絢爛に俺達の前に並べられていく――!!


「もちろんお代は頂きますが、他よりもお手頃に、かつここでしか手に入らないブツもありますよ!……良かったら皆さん、如何です?」


「リューキ様、オボロ様!食料や飲料だけでなく、回復アイテムも充実した品揃えのようですよ!」


「この装備品も独特の形していて面白ーい!……でも、実戦で使えるのかな?」


 そんな風に、博徒さんが出したアイテムに興味津々ではしゃいでいるオボロとキキーモラさん。


 だが、今の俺にはそれ以上に目についた代物があった。


(――いやいや、今の俺達にとって一番必要なのはコレ・・関連だろ!?――勝負を賭けるなら、今しかない、か……?)


 迷いつつも心は、とうの昔にそちらへと傾いている俺。


 まぁ、思い立ったが吉日。


 俺は博徒さん、お目当ての代物の説明を訪ねていた――。









 結局俺達は、あの並べられた多彩なアイテムのうち、僅かな量しか購入する事が出来なかった。


 ……まぁ、戦闘はこなしているけど、山とか野宿ばかりでロクに人と交流してなかったから、金を全く持っていなかったしね。仕方ないね。


 そういう意味では、倒した魔物の素材との物々交換と言う普通のNPCなら選択肢すら出ないような原始的な申し入れを、嫌な顔一つせずして受け入れてくれた博徒さんは、まさに野に降り立った聖人という他ないだろう。


 誰だ、あの人を『NTR漫画に出てきそうなチャラい間男』とか思ってた失礼な奴は。


 見つけたら絶対にぶっ潰す!!と内心で一瞬滾りかけたが、そう考えていたのが俺自身だったことに気づいたので、特に問題はないものとする。


 実質無罪。


 そんな感じで飲食料や回復アイテム――そして、博徒さんが


『袖振り合うも他生の縁、ってね♪』


 と言いながら、”オマケ”としてくれた地図によって、俺達は数日かけながらも何とか目的地である”シスタイガー大森林”に到着した。


 俺の提案によって、オボロの了承も取り付けられたある装備品と武器を購入出来た事だし、さっそく俺達は未踏の地へとその一歩を踏み出していく――!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] お、50部まで来ましたね、おめでとーございます! さておき……。 >実質無罪 ……ヒデーな!(笑) しかし、この「ルール=俺」は山賊において必須となる思考やも知れぬ……。
[良い点] 安定のリューキ思考、謎の自爆! スケベ妄想も逞しいですが、陽キャに対する危機意識が、もはや被害妄想レベル(笑) 誰だ、そんなこと思ったやつは! 良い感じで展開が読めなくなってきて、続きが…
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