町での洗礼
『ホッタテ山』を出てから、約半月あまり。
俺達はヘトへトになりながらも、ようやく次の町に到着したのだが……。
「えっ!?まさか、獣人がこうも堂々と真正面から攻めてくるなんて!!――誰かー!今すぐ戦える人はすぐここに来て!」
踊り子風な外見をした”プレイヤー”のお姉さんが、俺達(おそらく、今回はオボロだと思う)の姿を見た瞬間にそのように声を上げる。
そんな彼女の呼びかけに応えるように、颯爽と武器を持った数人のプレイヤーが威勢の良い声を上げながらこちらへと押し寄せてくる――!!
『応!応ッ♡』
そんな彼女達に向けて、俺は両手を上げて制止しようとする。
「よ、よせ!俺達は、少し事情があるけど、ちゃんとした”プレイヤー”なんだ!!話せば、分かり合える!!」
我ながら山賊らしくない発言だと思ったが、相手も同じ”プレイヤー”である以上、いきなり面倒ごとを起こすのはマズい。
そう判断した俺は、停戦を彼女達に呼びかけたのだが……。
「うるせー!!高レベル上級職のイケメンソロプレイヤーならいざ知れず、この町を奇襲している獣人の小娘の色香に篭絡したイモ野郎なんざ、さっさと死ねッ!!」
「それにもう一人の女も、小奇麗な顔をしていてもボロのようなみすぼらしい格好に身を包んでいて、思わずプー!クスクスですの~♪」
「不審者レベルMAXな連中は、とりあえずいっぱい苦しめちゃいまちょ、苦しめちゃいまちょ!」
こちらに殺到している女性プレイヤー達が、そのように口々に罵声を浴びせてくる。
厳密にいえば、オボロは”獣人”じゃなく”妖怪”だし、この町に来たのだって初めてのはずなんだが……。
これも道すがら、あの二人が言っていた”シスタイガー大森林”とやらに生息している異種族達とやらが関係しているんだろうか?
だが、それとは別にこのお姉さま方は、俺やオボロだけではなく『みすぼらしいから』なんていう理由で、キキーモラさんまで侮辱するような発言を行った。
そのうえ、こっちの命を問答無用で奪いに来ている以上、俺達がこのまま一方的にやられる理由はないはずだ。
相手のレベルは20台がほとんどで、30台が一人……今の俺達がマトモにやり合ったら結構厳しい相手ではあるが、特殊性を活かせば何とか足止めくらいは出来るはずだ。
そう判断した俺は、仲間である二人に対して視線を送る。
「――こうなったら、力尽くでこの場を切り抜けるぞ!二人とも!!」
「当然よ、リューキ!」
「承知いたしました。リューキ様!」
オボロとキキーモラさんに頷きを返しながら、俺は迫りくるお姉さん達に向けて鋭く流し目を送る――!!
「――"風"とはすなわち、老若男女を問わずドキッ!とするような仕草で、他者の心を鷲掴みにする在り方なり。……酔いしれろ、天空流奥義:"ビジュアル縛り"ッ!!」
刹那、俺は自身の右腕を勢いよく広げて一筋の細い”糸”を取り出す。
この紐は、俺の抜けた髪を倒した獣型の魔物の油でつなぎ合わせて作ったお手製の代物だった。
なんでもオボロ曰く、天空流奥義:"ビジュアル縛り"は、しなやかな乙女の髪を秘伝の獣油を用いて作った”糸”を自由自在に使用して対象を束縛したり、ときには切断するのに用いる奥義らしい。
また、『戦闘で糸を自由に使う者は、ほとんど美形』という人の深層心理を利用して、この奥義を使用している間は、対象に使用者の事を二割増しで魅力的に見せる事も可能である、と言われている。
今までと比べたら、格段に重要な奥義であるにも関わらず、オボロは
「ん~……必要とはいえ、リューキにアタシの髪とか油?とか上げるのは流石に抵抗あるから、自分で何とか代用してくれない?」
という具合に、全く必要な素材を提供してくれなかったので、俺は苦心しながら自前でこの”ビジュアル縛り”用の糸を制作する事になったのだ。
そんなドキリ、とする流し目とともに放たれた俺の糸が、殺到するプレイヤー達に迫る――!!
「――何キモイ表情で、こっち見てんだコラぁっ!?」
「どんなもん見せてくれるかと思ったら、糸を地面に投げて終わりでちゅか~~~?ゴミクズ坊や君♡」
……うん。まぁ、大体こうなることは分かり切っていた。
だって、俺は天空流奥義なんか使用出来たことないし、第一、糸なんてどうやって修行したらあんなアニメとかみたいに自由自在にヒュルルッ!って勢いよく相手を縛ったり色々出来るようになるんだよ!?
技を出来た”つもり”になるだけ、今までの天空流()の方がよっぽどマシだわ!!
そんな俺に対して、
「アンタ、せめて同じような結果になるにしても、あの熱唱するスキルの方を使いなさいよ!歌唱力もだけど、こういう人に見られてる場面で何度も歌を披露してかないと、いつまで経っても度胸が身につかないよ!」
と言いながら、オボロが”瘴気術”を使用して迫ろうとしていた相手をすべて戦闘不能にしていた。
……コイツ、何の躊躇いもなく危険な技を使用しよった。
とはいえ、全員辛うじて一命は取り留めているらしい。
「ア、アヘェ~~~♡」
「ヒ、ヒギィィィィィィィッ!で、ございます……♡」
……コイツ等、過去にどんな状態異常になったんだろう?
白目を剥きながら、舌を出してがに股状態のまま倒れこんでいる彼女達を見てると、生きていることは大事だが、これで本当に助かったと言えるのか疑問になってくる。
必要とはいえ今回の行動によって、ますます俺達とこの町のプレイヤー達との間に確執が深まった気がしないでもないが、ひとまず命の危機も去ったことだし、俺達はこの町の現状について彼女達に話を聞くことにした……。