逃亡生活
ビカルタ達『ヒヨコタウン』の住人達から、意図せずして”竜騎士”のバイクを半ば強奪したうえに、さらにそれをロストしてしまった俺達。
……このままここに留まっていては、町の奴等から”山賊狩り”をされることになるかもしれない。
そういった判断のもと俺は、オボロとドタプン♡お姉さんに進化(?)したキキーモラさんを連れて、一刻も早くこの『ホッタテ山』を後にする事を決意した――!!
それから半月後。
『ヒヨコタウン』から離れようとひたすら南下していく俺達。
相変わらず俺の足の遅さがネックになり、すんなりと移動する事も出来ない。
そのため俺達は結構日にちが経っても他の町に到着出来ておらず、もっぱら山で暮らしていたとき同様に野宿する生活になっていた。
昼間は飲料や食事を確保するために、食べられそうな魔物を倒しながら、『ヒヨコタウン』からの追っ手を警戒していた。
(今はまだ誰にも見つかっていないけど、もしも、アイツ等が混成毒みたいな感じに自分達の力でとんでもない発明をしたりなんかしたらどうなるか分からないぞ……あのバイクみたいな乗り物で俺達に追いついてきたら、あるいは連絡手段を生み出して他の村や町に、俺達の事を既に知らせているかもしれない……!!)
……先の見えない状況下だからか、どうにも思考がネガティブになってしまっている。
そんな気分を切り替えるためにも、こうなったら次の町で何が待ち受けていても、先手必勝の精神でとりあえず略奪劇をかまして物資を強奪するしかないのか、と思考していた――そのときである!!
「ッ!?ちょっと、リューキ!キキーモラさん!前方から誰か来てるし、とりあえず茂みに隠れるわよ!」
そんな風にオボロが小声で、俺達に呼びかける。
見ればオボロの言う通り、前方から二人組の男達がこちらに来ようとしている。
『ヒヨコタウン』とは方角が違うとはいえ、おそらく彼らは町からの追手ではなく、離れていても陽気に聞こえてくる豪快な笑い声や会話を聞く限り、彼らは他の町で活動していた”プレイヤー”なんじゃないかと判断する。
見知らぬ”プレイヤー”と戦う理由なんて俺達側には全くないが、アイツ等がどういう人間性か分からない以上、異種族であるオボロや(今はそう見えないが)魔物であるキキーモラさん達を連れた”山賊”の俺という普通のパーティーとは呼べない俺達が、どのような存在として認識されるか分からない。
この世界は既にゲームであっても遊びでない以上、俺達は当分の間他者を警戒していく必要がある。
案の定、道外れの茂みの中に隠れた俺達の前を歩いていたのは、モーニングスターを構えた禿頭の大男と、レイピアを所持した優男風な二人組の”プレイヤー”だった。
俺達が向かっている先がどんな場所なのか?
すこしでも有益な情報を得るために、俺達は二人組の会話に耳をすませる……。
「グフフッ……それにしても、本当だと思うか?あの噂を!」
「あの噂とはなんだ?今のこの世界は僕達”プレイヤー”にとって分からぬ事が多すぎて、憶測が憶測を呼んでいる始末。要点をキチンと述べてくれないかな?」
「そんなのは決まっている!俺達”プレイヤー”が、この世界でエチチッ!な事をしても消滅せずに済む”修正パッチ”が眠るあの場所に関する噂の事よッ!!」
――今、アイツは何て言った……?
俺達のような”プレイヤー”が、この世界でエチチッ!な事をしても消滅せずに済む”修正パッチ”……だって!?
全年齢向けのVRMMOとして開発されたこのゲーム世界にそんなモノが存在するなんて……!!
オボロが「アホくさ……」としらけきった口調で吐き捨て、キキーモラさんが右手を頬に添えながらため息を漏らすが、しかし、彼女達は本当にそんな不真面目な態度で良いと思っているのだろうか。
もしも、このまま俺達の逃亡生活が続いていくようなら、野性味を帯びてワイルドさが跳ね上がった俺に対して、二人が猛烈に”雄”を感じるようになるかもしれない。
俺に対して『これ以上、高まる胸の鼓動を抑えきれない……!!』な状況になってから、この世界の残酷さを恨むことになっても、自分達が苦しむだけなんだぞ!!
――そんな事を考えながら、俺は二人の分まで真剣に奴等の話に耳を傾ける。
「『”シスタイガー大森林”の奥深くには、全年齢の法則を超越する”修正パッチ”というお宝が眠っている』とかいうあの噂の事か。だが、あそこには出現する魔物のレベル以前に、森に足を踏み入れた者達を阻む魅惑のムチプリ♡ボディをした”エルフ”や”獣人”といった異種族共がひしめいていると言われている……それがあるから、あそこに向かった”プレイヤー”は修正パッチを入手する前にロストしてしまい、今に至るまで誰も生きて戻っていないそうじゃないか?あまり、オススメはしないな」
「分かっている!他愛ない世間話として語ってみただけの事よ!……俺とてまだ死ぬつもりはないからこそ、あんなおっかない場所から離れた場所で、手頃な新しい狩場を探しにいっているわけだしな!」
「とはいえ、こんな町から離れた場所で新しい狩場なんて見つかるかな?……他の場所がどうなっているかもいまだに分からないままなのに……」
そんなやり取りをしながら、二人組はこちらに気づくことなく目の前を過ぎ去っていく。
大分離れてから、俺達は再び街道へと戻る。
彼らの背中を見送りながら、オボロが「男って本当にしょうもないんだから!」と口にする。
「あんなしょうもない話はさっさと忘れて、早く次の町に行くよ~!」
「フフフッ……そうですね、オボロ様」
そう言いながら、二人は次の町でしたい事を楽し気に語り始める。
その光景を見ながら、俺は当然の如く別の事を思案していた。
(修正パッチ、か……よ~し、こうなったら絶対そのお宝をゲットしてみせるぞッ!!)
そんな決意とともに、とりあえず俺はオボロ達に続いて次の町へと向かう。
さっきの二人組の話によると、ここから町までそんなには離れておらず、情報も特に行きわたっていないらしい。
まさに、絶好のタイミングで巡り合えたオアシス的存在と言える。
……この先何をするにせよ、とりあえず今は少しでも早く休息を取りたい。




