新たなる旅立ち
俺の眼前にいるこのドタプン♡クオリティ真っ盛りな巨乳の美人さんが、まさかのキキーモラさん……?
何を言っているのか訳が分からない。
そんな風に戸惑う俺だったが、確認のために背後に振り返ると、ジト目でこちらを見つめていたオボロが呆れながらも頷く。
「うん、私も最初信じられなかったけど、話してみると私達との思い出も普通に難なく答えていたし、それにステータスとかいうのを見てみても間違いなくキキーモラさんだったし……何より、そういうの抜きにしても、なんとなく彼女があのキキーモラさんなんだってことが分かるんだ。――まぁ、あれほど死にかけていたはずなのに、どうやって混成毒を消し去ったのかは謎なんだけどね」
「えっ……あんなヤバい状態を、自力で何とかしたのか!?一体どうやって!?」
今度はキキーモラ(?)さんにそう問いかける俺。
それに対して、若干慌てた様子を見せながら、美人さんが俺へと答える。
「いえ、それが私にもどうしてこうなったのか皆目見当つかないのです。……ただ、眼前で気絶したオボロ様を助けようと無我夢中で手を伸ばしていたら、自分の身体が光り始めて、気がつくとこの姿になっていました」
なんだって……?
あんな腰の曲がった鳥顔のおばあさんみたいなビジュアルだったのが、こんなムチプリ♡年上のお姉さんになるだなんてとてもじゃないが信じられない。
でも、確かにこの圧倒的な母性の象徴ともいえる膨らみを見ていると、確かに出会った当初にいきなり、母親面して『過激な性描写のライトノベル』をはたき落としてきたキキーモラさんの面影がある、と言えない事もない。
そんな俺の視線に気づいたのか、恥ずかしそうに胸元を両手で押さえながら、キキーモラさん(確定)がめっと俺の事を叱りつけてくる――!!
「もう、女性はそういった視線に気づいているのですから、じろじろと見てはいけませんよ?リューキ様」
刹那、俺の全身に稲妻が駆け巡っていく――!!
「ッ!?クッ……!オボロ、間違いない!この人は間違いなく、俺達の仲間であるキキーモラさん本人だ!!お前と同じように、俺も魂の深いところでそうだって理解できた!」
「今の言動のどこがよ!?エッチな本を巡ってアンタと戦った時とは別人扱いされてもおかしくないと思うんだけど!!――アンタ、あんだけ駆けずり回る羽目になっておきながら、まさか、『もう本物でも偽物でもどちらでも構わない!』的な事を考えているんじゃないでしょうね~~~!!」
「うるせぇ、うるせぇ!!俺の信じたものが、この世の真実そのものじゃいッ!!……てゆうか、オボロ。気絶したっていうけど、まさかお前にも何かの毒が……?」
そうだ、混成毒の影響に晒されていたのはキキーモラさんとマリオだけだったはず。
NPCの二人は無力化して捕えていたはずで、この場にいた人物の中でオボロが唯一五体満足で無事といえる存在だったはずだ。
そんな彼女が気絶する事態になるという事は……まさか、混成毒は他者に移る性質でもあるのか!?
そのような考えが浮かんできて激しく動揺する俺だったが、対するオボロは「あ~……」と言いながら、何やら気まずそうにしている。
「えっとね?……あのマリオとかいう奴がいたでしょ?アイツの言う事聞いて看病していたんだけど、ある程度回復してきたらアイツが『あとはリューキから治療アイテムを奪うたけだし、お前等用済み!』みたいな事言って襲い掛かってきたのよ」
それを聞いて、今考えていた恐怖とは別のベクトルの感情から驚愕する俺。
「えっ!?弱っているとはいえ、相手は高レベルプレイヤーのマリオだったんだろ!?そんな奴に襲われて大丈夫だったのか?」
「あぁ、うん。もちろん顔も腫れるくらいに何度も殴られたけど、それは私の”瘴気術”で何とか返り討ちにした。……それで相手は光になって消えたんだけど、私も無傷とはいかなくて気絶してたら、いつの間にか今の姿になっていたキキーモラさんに治療されてたの。そのおかげで体調だけじゃなくて、顔まで元通りになったし本当にありがとね、キキーモラさん!」
「私の方こそ、動けなかった間も懸命に治療して頂いた上に守っていただきお礼のしようもありません。……オボロ様が無事で本当に良かったです……」
本人の言う通り、確かに彼女の外見は無傷そのものであり、とても高レベルプレイヤーを相手に死闘を繰り広げていたとは思えない状態だった。
キキーモラさんは何故だか無事でピンピンしてるし、元凶だったマリオも既にこの場から消失している。
あれだけ苦労して入手した”アキヤラボパの雫”は何だったのか……と思わなくもないが、普通に便利そうなアイテムだし、俺の持ち物にしておくか。
そう判断していた――そのときだった。
「良し、ロープもこれで切断出来た!コノタス、急いでこの場から離脱するぞ!」
「ちょ、待てよ!ヒサモ!」
声のした方を見ると、オボロによって拘束されていたはずのNPCの二人組がどうやったのかロープから抜け出した状態で立ち上がっていた。
奴等は若干怯えたような表情と、一瞬だけだがキキーモラさんの胸元に視線を移してから、自身の武器も持たずにこの場から走り去っていく……。
ヒサモとかいう忍者野郎がキキーモラさんにしたことは絶対に許せないが、かと言ってキキーモラさんがこうして無事である以上、今はこれ以上彼女や治療されたばかりであるらしいオボロの前で気分が悪くなるような事もしたくない。
そんな感じだったので、俺としてはあの二人を別にこのまま逃がしたところで何の問題もなかった。
「あ、いや……お前ら、どうせ町に戻るならコレもついでに持ち帰ってくれよー!!」
そう叫びながら、俺はチラリとそちらに視線を移した――その刹那!!
「ッ!?は、はぅあッ!!」
俺は、目玉が飛び出るくらいの衝撃のあまり、驚愕の声を上げていた。
二人が何事かと俺と同じほうに顔を向ける。
俺達が見つめる先――それは、俺がここに来るために乗りこなしていたはずの”竜騎士”のバイクが、光の粒子となって消失している真っ最中だった。
……そういえば、オボロやキキーモラさん達を心配するあまり、俺はバイクを乗り捨てたんだった。
その結果、今までの”過激な性描写のライトノベル”やビカルタの”大剣”同様に、一定時間地面に放置されたままの状態だったから、バイクが焼失する羽目になってしまったのか……。
「なんて、冷静に分析してる場合じゃない!?……どうしよう、これは町の復興資金とかに使用されるはずの代物だったのを無理に借りてきただけなのに……!!」
――『必ず返す!!』と口にしたのに、借りパク同然にあのバイクをむざむざ消失してしまった。
その事がもしも、ビカルタ達『ヒヨコタウン』の住人に知れ渡ったら、本格的に”山賊狩り”の部隊とかをこの山に派遣されるかもしれない……。
「じょ、冗談じゃねぇ!!今回は不意打ちだったから何とかなったけど、アイツ等みたいな自力で”混成毒”とかいうヤベーもんを作るような奴等に四六時中狙われることになったら、命がいくつあっても足んないに決まってる!!――一体、どうすれば……!!」
焦りが急速に俺の中で、広がっていく――。
「ちょ、アンタそれ結構ヤバい状態じゃないの!?」
「リューキ様、お気を強く持ってくださいませ……!!」
そんな俺を心配そうに見つめてくるオボロとキキーモラさん。
……こうなったら、こうするしかないか。
二人の顔を見ながら、俺は決意を固める。
「オボロ、キキーモラさん。このままここに留まっているのは、スゲー危険だ。……こうなったら俺達三人で、別の場所にずらかるぞ……!!」
俺の発言を受けて、驚愕するオボロとキキーモラさん。
だが、自分達の現状を理解し覚悟も決まったのか、俺に対して強く頷きを返す。
――こうして、半ば夜逃げ同然の形で俺達はこの『ホッタテ山』を後にし、新天地を目指すことになった。
「とか言うけど、アテはあるの?リューキ!」
「んなもんはねー!ただ、ひたすらにこの場から遠い場所に逃げるっきゃないだけだ!!」
「ハイ、然と御供させて頂きます。オボロ様、リューキ様……!!」




