神魔転生
――助けなくては。
自分のために傷ついた大事な仲間の事を助けなくては。
そんなこの場にいる誰よりも、現在自身が死の淵にあった彼女が思考していたのは、そのような願いだった。
なにをしてでも、救ってみせる!!
そのような強烈な意思とともに、彼女の脳裏に淡く紅い光が浮かび上がっていく……!!
「なんだ……?一体、何が起きようとしていやがるんだ、ヒサモ!?」
「クッ……俺に分かるわけがないだろう、コノタス!!……この拘束をほどいて一刻も早くこの場から逃げねばならんというのに……おのれッ!!」
NPCのコノタスとヒサモが見つめる先。
そこには、自分達の万能毒で死にかけていたはずの”キキーモラ”とかいう魔物の姿があったはずだった。
あのリューキとかいうプレイヤーが、何故亜人種の少女や魔物とともに行動しているのかはよく分からない。
分からないなりに、それもまた”プレイヤー”が持つ何らかのスキルや職業としての効果なのだと思っていた。
だが現在自分達の眼前で起きている出来事は、そのような理解の範疇から既に外れていた。
気絶したオボロに対して、弱りかけた状態で腕を伸ばしていたキキーモラ。
だがキキーモラが頭からカクン、と地面に落ちたかと思われた瞬間、突如彼女の身体から光が放たれ始めたのだ。
突然の事に目をつむる二人だったが光は、彼らを害するほどの強烈なモノではなく、それどころか見ているだけで他者をいやすような淡く紅い輝きを放っていた。
だが、それでも二人の警戒心が解かれることはない。
なんせここには、”プレイヤー”のリューキがいないにも関わらず、このような説明のつかない事態が起きているのだ。
なりふり構わず、この場から逃走すべき……。
そう分かっているはずなのに、コノタスとヒサモは恐れを抱いているにも関わらず自分達の眼前で起きている出来事から全く目を逸らせなかった。
そうしている間に、光に包まれたキキーモラはみるみるうちに、人の姿へと変貌していく……。
全身から淡い光を放ったままの姿で、人型に変貌したキキーモラはオボロのもとに近づき、彼女に向けて手をかざす。
「オ、オイ……俺達アレ、止めたりしなくて良いんかな、ヒサモ!?」
「少なくとも、お前はあの獣人らしき女に暴力を振るおうとしていた下衆プレイヤーを止めようとしていた!それで十分だろう!!……今、なんとか隠し持っていた刃物を取り出すことに成功した。もう少しだけ待ってろ……!!」
そう口にしながら、ヒサモは取り出した刀ともいえぬ石器のようなもので自分達を拘束しているヒモの切断行為に取り掛かる。
そんなヒサモと眼前の光景をコノタスが慌てふためきながら見ている間に、徐々にキキーモラの輪郭がはっきりと浮き彫りになっていく――。
『ヒヨコタウン』の面々から、不本意ながら半ば強奪するような形でバイクに騎乗する事になった俺。
ビカルタからもらう事が出来たこの”アキヤラボパの雫”を、キキーモラさん達の力が尽きる前に飲ませなくてはならない――。
そんな想いとともに、俺はバイクをさらに加速させる――!!
「待ってろ、キキーモラさん……オボロッ!!」
こうしている間にも、マリオの方がトチ狂って爆弾を押したりしていないだろうか。
そんな懸念とともに、俺達がもといた地点が近づいてくる。
「特に地形も崩れてなさそうだし、少なくともマリオの奴はまだ無事って事か……仲間よりも、諸悪の根源の方が先に安否が分かるとか、まったく嫌になるな……!!」
そうしている間にも、何か見慣れぬ人影が増えている。
ボロいスカーフを頭から被り、みすぼらしい格好をしているが背筋がピンとしている女性らしき人物の背中と、何やら戸惑ったような感じで相手に矢継ぎ早に質問しているらしいオボロの声が聞こえてくる。
いや……よく見ると、周辺からキキーモラさんとマリオの姿がない辺り実質人数、減ってる!?
何かあったのかと、俺は彼女たちのもとに近づくとバイクから速攻で降りて、慌てて彼女達のもとへと近づいていく。
上手く駐車できなかったのか、後ろでガシャン!!とバイクが倒れる音がしたが、今はそれどころじゃない。
俺は、見知らぬ人物への警戒心よりも先に、オボロの方へと詰め寄るような形で声をかける。
「オボロ、一体何があった!?キキーモラさんと、マリオはどこへ消えたんだ!?……ま、まさか、もう
……!!」
間に合わなかったのか。
すんでのところで、そんな言葉が出かかる。
しかし、認めたくなかったが、時間も大分経過してしまっているし、混成毒にやられていたマリオとキキーモラさんの両者が、何の行動をする間もなく息絶えてしまっていたとしてもおかしくない。
理屈では分かっていても、そんな現実を認める事の脳が許さない――。
そんな自分の心境を表すような、慟哭を腹の底から出そうとしていた――そのときだった。
「あの……大丈夫ですか、リューキ様?」
突如話しかけていた、澄んだ癒されるような女性の声。
ようやく、オボロが話していた相手がいたことに気づいた俺は慌ててそちらへと振り向く。
「誰だ、アンタは!!今、大事な話を……!」
そう言いながら振り返って刹那、俺はすぐさま絶句することになる。
なんと、俺の眼前にいたのは、みすぼらしい恰好をしながらも、ほのかな赤みががったロングヘア―に一房の青いメッシュの前髪をした美人の女の人がいた。
背は俺より少しばかり高く、外見から判断するに年は俺より一つか二つくらいだろうか。
髪と同じように、見ていると気持ちが澄んでくるような綺麗な紅色をした瞳を向けて、俺に優し気な笑みを向けてくる。
だが、それよりも特徴的なのは、服越しからでも分かる圧倒的なドタプン♡クオリティ間違いなしの巨乳だった。
俺はガン見をしながら、先ほどまでの慟哭を忘れ――いや、それとは別の感情から盛大に叫びたくなる衝動に襲われていた。
(ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!俺の中で絶対に忘れちゃいけないはずの記憶が、急速にロストしてしまいそうになる!!駄目だ、絶対になくしちゃいけないこの想いと鋼の意思!でも、それとは別の部分が鋼鉄の如き硬度を得そう!絶対に、このムチ♡プリボディを見逃すなッ!!)
でも、流石にそんなことを初対面の女性に言えるわけがない。
何より、背後からのオボロの圧が怖い。
とりあえず、さりげなくならバレないかな?と、胸をチラ見しながら俺は相手に質問する。
「すいません、貴方が何者かは分かりませんが、今は大事なもう一人の仲間を助けるために立て込んでまして……」
それに対して、相手の女性は何ら動じることなく、俺に優しく返答する。
「えぇ、存じております。……リューキ様やオボロ様が、私を救うために尽力してくださった事、本当に感謝しております。……リューキ様、ありがとうございます……!!」
……待って、話が見えない。
いや、そうじゃない。
俺は普段からラノベとか読んできた人間だからこういう出来事に対しての適応力はあるが、それでも、まさか……。
俺が何か言うよりも早く、彼女はその答えを口にする。
「ハイ、リューキ様。――私が、御二方が懸命に助けてくださろうとしていた”キキーモラ”です」




