ステータス、オープン!
新スキルを使用するのに、必要とされる謎の項目……”BE-POP”。
吟遊詩人とかならまだ分かるが、この音楽と無縁そうな”山賊”という職業とどう結びつくのか皆目見当がつかない。
そんな疑問を前に軽い戸惑いを覚える俺だったが、スキルとは別に新着の通知が届いているのを見つけた。
そこには、こう記されていた――。
『能力値に、”BE-POP”が追加されました!』
……まぁ、スキルにもこれを消費して使用する、と書いてあったから、HPやMPみたいなモノだとは思っていたが……本当にそうだと言われても、まるで実感がわかない。
だが悩んでいたところで仕方ないので、早速俺はステータスを確認する事にした……。
リューキ レベル8 種族:人間 職業:山賊
HP:48/48 MP:0/0 SP:10/10
攻撃力:12 防御力:9 敏捷力:10 叡智力:6
スキル:【山賊領域】
うん、これが普通職のレベル1の状態と言われても信じられるくらいの、凄まじいクズクオリティである。
さっきまで最高潮に盛り上がっていた気分が一気に急落するこの最弱ぶり……いくら何でも、俺は新たに得たスキルに過剰な期待をかけすぎなのではないか?といった、そんな漠然とした不安が胸をよぎる。
これが”山賊”が最弱と呼ばれる理由の一つであり、山賊は他と比べてもレベルが上がったときの能力値が極端に低すぎるのだ。
このデスゲーム状態になってから、他のプレイヤーに聞かされて初めて知った事だが、あまりにも劣悪すぎてロクなプレイが出来ない事から、俺のようなネタ目的だった山賊プレイヤーですらこの≪PANGAEA・THE・ONLINE≫が発売してすぐに匙を投げ、運営に「これは単なるバグじゃないんですか?」といった旨の抗議メールを送った後に、キャラをリメイクしたりこのゲーム自体から身を引く者達が大半だったと言われている。
ゆえに、発売から一年くらい経過した現在の段階で”山賊”を使用しているプレイヤーなどほぼ存在せず、もしいたとしてもデスゲーム初期の段階であまりにも弱すぎて命を落とすか、俺みたいにお情けで生かされているかのどちらかなのだろう。
この弱さは流石に、このゲームを知らないような人物が何の予備知識や比較対象がない状態でこのステータスを見ても、「あっ、これが初期値って奴なんですね」と述べること請け合いだろう。
軽く意気消沈していた俺だったが、何も冷静になるためだけにこんな小学生のときの通信簿と向き合うような気持ちでステータスを開いたわけじゃない。
本命は、SPのすぐ下に表示されていたのだが……。
「なんだこれ……?ハジけてる、のか……?」
表示された”BE-POP”という項目に書かれていたのは、黄色に輝きながら心臓のように小刻みに収縮を繰り返す『フルハウス!!』という文字だった。
マトモな能力値ではない、と思っていたが、まさか数字ですらなかったとは……。
これではどのくらい目減りしたりしているのか、いざという時に分からない。
今のところこの文字から受ける印象としては、そんなに悪くなさそう……というか、何故かこの”BE-POP”とやらが満タンに近い状態のようだが、”BE-POP”を消費したときにどうやって補充すれば良いのか調べる必要がありそうだな。
そんな事を考えていると、ふと、あまり気分が良くない類の視線を感じた。
ステータス表を閉じて、視線の感じた方に目を向けると、そこにはこの”ヒヨコタウン”のNPC達がジロジロと不躾な眼差しを向けてきたり、わざとらしくこちらをチラ見しながらこちらを馬鹿にするような嘲笑をクスクスと行っていた。
このゲームがオープンした頃、彼らはそれ以前と同じく、本物の人間さながらの感情表現とリアクションを行っていたが、こちらから何か行動を起こさない限り特に反応は示さないし、幾分か多いとはいえ行動のレパートリーにも限りがある、少し高度なだけのNPCだった。
けれどもここ最近彼らは、この町を牛耳る『肝っ玉バイプス』の面々におもねるかのように……明確な感情、それも俺達に対しては悪意というモノが芽生えているかのようだった。
(いや、気のせいなんかじゃなくて、コイツ等は本当に生きてる……と、考えるべきだ)
現に先ほど俺に向けた侮蔑や嘲笑などは、プレイヤーが快適にゲームを楽しむ事だけを想定するなら、作り込む必要がない機能である。
弱小とはいえ、プレイヤーの一人である俺の不興を買うにも関わらず彼らがそのような行為をしたのは、単に自分達がそうしたかったから……そんな"個"としての意識が、コイツ等NPCには宿っているとしか思えなかった。
――世界がまるで、プレイヤーを置き去りにして変貌している。
――それなら、俺達プレイヤーが脇役になった先に、この世界の"主役"に選ばれるのは、一体誰なのだろう――。
そんなとりとめもない事を考えていた俺だったが、すぐに思考を切り替える。
今はまだ幸いにもハルタ達に見つかっていないが、このままボサッと同じ場所に留まっていたら、何時なんどきNPC達に密告やらされるか分からない。
そう判断した俺は、まだ誰にも本格的に相手にされてない今のうちに、このヒヨコタウンという町から逃げ出すことにした。
(……と言っても、この先どこに潜伏しようかな……)
そんな風に思考しながらも、俺の答えは既に決まっていた。
「とりあえず、"山賊"らしく山にでも行ってみるか……!!」