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戦い終わって……

 獲得した新スキルによって、”竜騎士”である高プレイヤー:ハルタを撃退した俺。


 そこで休む暇もなく、奴の攻撃によって燃える建物の消化活動を(村を襲撃しにきた山賊なのに)半ば強制的に手伝わされたりした結果、無事に鎮火する事に成功した。


 ……この世界ではプレイヤーも魔物もNPCも、死ねば皆平等に光の粒子となって消失するため、死体というものが残ることはない。


 でも、それで遺された人達まで綺麗に割り切れるわけじゃない、ってことはこの場にいる町民達の顔を見れば明らかだった。


(……いや、俺もそんな他の奴の心配とかしている場合じゃない。早く”アレ”を入手しないと……!!)


 そう考えながらオバサン達の指示のもと、彼女達と協力してロクに動けなくなっている人達に飲み物を配ったりしていた――そのときだった。


「ったく、山賊が人助けとはご苦労な事だな!ほら、そんだけ働いたら喉も乾くだろ?これでも飲めよ!」


 そう声をかけてきたのは、この町のNPC達の統率者にして、下手したらハルタ以上に俺と死闘を繰り広げた相手であるビカルタであった。


 ビカルタはこちらに向けて、液体の入った瓶を投げてきたため、俺はそれを何とかキャッチする。


「あぁ、助かった。ちょうど今潤いが欲しかった……って、これ!七色に綺麗に輝いているとか絶対マトモな飲み物じゃねぇだろ!?てゆうか、これが”アキヤラボパの雫”って奴じゃないのか!?」


「ハッハッハッ!!流石にバレちまったか!」


 豪快に笑って誤魔化そうとしてるが、とんでもないからな?


 ……これでロクに確認せずに俺が飲んでいたら、今までのこの町での死闘が全部無駄に終わってたからなマジで……!!


 そんな意味を込めて、ビカルタを睨みつける俺。


 だが、すぐに気分を切り替える。


 まぁ、これでお目当てのものが手に入った以上、こんな無礼な町に用はない。


 後はさっさとトンズラするのみ――!!


 そう思った矢先に、ふとこの町に転移してきた当初の疑問がはっきりと俺の脳裏に浮かび上がる――!!


「――って、山の中に戻るにはどうすりゃ良いんだよ!?」


 そう、この町に来る分には、マリオから渡された『エビメダル』という転移アイテムがあればそれで良かった。


 だが、今の俺が持っているアイテムは、”マイク”のみ。


 しかも、マリオやキキーモラさん達のいる地点にピンポイントで転移できるアイテムなんて便利なものは流石にないはずなので、この町の住人から仮に”アキヤラボパの雫”以外のアイテムも貰えたとしても、どうにも出来ない可能性の方が高いのだ。


 ……せっかく、ここまで生き残ることが出来たのに……それが、こんな形ですべてが無駄に終わるなんて!!


 とてつもない絶望感に襲われて、何かないかと焦りとともに身体を回転させながら周囲を見回す俺だったが……ふと、あるものが視界に入る。


「アレ、は……?」


 俺が見つめる先。


 そこにあったのは、燃えずに無事にいた建物のそばで立てかけるかのように置かれていた一台のバイク――紅蓮の色をしたそれは、”竜騎士”であるハルタが乗りこなしていたものに違いなかった。


 そんな俺の疑問に答えるように、ビカルタが語りだす。


「あぁ、あのまま地面に放置したままだと、むざむざ消えちまうだけだったからな。――これは、仲間達の命を奪い町を壊した忌むべき存在だが、今は少しでも復興するのが先だからな。少しでも費用の足しになるかと思って、売り払う用に拾っておいたんだ」


 そんな説明も右から左に聞き流す勢いで、俺はバイクに近づいていく……。


 盛大に激突していたものの、外傷は特に問題なさそうだ。


 とはいえ、俺は騎乗スキルがあるような職業でもないし、普通なら乗れないはずだが……。


「……ヨシ!思った通り、出来た!!」


 クラッチレバーの操作からチェンジペダルの調整と、運転などしたこともないはずなのに、何の問題もなくスムーズにアクセルを吹かせることに成功した俺。


 それを見て、ビカルタをはじめとする町民達は非常に驚いた表情を浮かべていた。


「なん、だと……?剣や槍だけでなく、ソイツまで操作出来るとはお前、弱いけど一体どんな上級職なんだ!?」


 おっ、まさに答えは今ビカルタが述べた通り、あれらの武器を使ったのと同じ”BE-POP”を消費する事によって、俺もこのバイクを使えるようにしただけである。


 とはいえ、NPCが使えるような武器や槍と違って、上級職である”竜騎士”の装備品であるバイクだったため、消費量が心配だったが、それは強敵であるハルタを退けたことによる安堵や勝利による喜び、そして僅かながら復興作業で地元住民と普段やらないような心の交流らしきものをしたことによる新鮮さによって、回復した意思の力で何とか賄う事が出来たようだ。(もっとも、それだけに今は”BE-POP”がすっからかんだが)


 ……それにしても『弱いは余計だ!!』と言おうと思ったが、実際それは事実だし、それどころか俺は上級職ですらないため、ロクに反論が出来ない。


 それでも、侮られたくなかった俺は不敵な笑みとともに、ビカルタに返答する。


「不可能を可能にする意志に満ちた最強の職業――それが、”山賊”であるこの俺、リューキ様だッ!!」


 ドドンッ!!と、オノマトペと派手なエフェクトが付きそうな俺の名乗り。


 だが、それに対して町の連中はきょとんとした表情を浮かべる。


「え?……”山賊”って、弱っちい職業じゃないのか?」


「そうよね~!この町にいた”プレイヤー”達も『最弱の”山賊”にだけはならなくて良かった!』みたいに笑い話にしているのを何度か聞いたことがあるもの!」


 ……マジか。


 バレないと思っていたけど、普通にNPC達も”山賊”が最弱職だってことは知っているのか……。


 まぁ、こういう事が出来るとは知らなかったようだが。


 俺はそんな彼らにニコニコと無言で愛想笑いをしながら、ゆっくりアクセルを踏みならしていく。


「……」


「……」


「……」


「……オイ」


 案の定、ビカルタに呼び止められる。


 心臓が跳ね上がるが、前に誰もいない今ならチャンス!


 俺は勢いよく一気にアクセルをひねって加速する――!!


 バイクは俺の意思に呼応するかのように、ひたすら前へと爆走していた。


「おい!テメェ、コラッ!!」


 ビカルタをはじめとするヒヨコタウンの連中が背後から、俺に向かって何やら叫び続ける。


 だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。


 アイツ等もこれから色々大変化もしれないが、俺の方も一刻も早くこの”アキヤラボパの雫”をキキーモラさん達のもとに届けなけれがならないからだ。


 手段なんて、選んでいられない。


 それでも、と俺は一瞬だけビカルタ達の方に顔を向けて最後に声を上げる。


「用が済んだら、必ず返す!!――だから、今だけはこれ頼む!」


 それだけを告げて、俺は今度こそ『ヒヨコタウン』を後にして走り去っていく――。





「あ~、とうとう行っちまいましたね、アイツ……」


 拳闘士であるカサトが去り行くリューキの背中を見ながら、そのように呟く。


 そんなカサトの言葉に大してビカルタは、「あぁ、そうだな……」とだけ呟いたが、その表情はどこか晴れやかだった。


「案外ボスは最初から、頼まれていたらあの乗り物をアイツにくれてやるつもりだったんじゃないんすか?」


 と他の部下が訪ねてくるが、それに対してビカルタは「馬鹿な事を言うな」と答えを返す。


「奴はこの村を襲撃しに来た”山賊”とやらで、この町から貴重な品物を強奪していった。……それ以上慣れ合う必要はないし、事実はそれだけで良いんだよ」


 自分達が”NPC”と”プレイヤー”という事なる存在であるという事実は変わらない。


 ましてや、リューキが”山賊”という存在ならば、礼を述べて丁寧に送り出すというのは、むしろ彼の在り方に対して無礼にあたる……と、ビカルタは判断していた。


 そして、リューキは『自分の仲間を救う』という役割を果たすために、自分達から強奪同然の行為をしてまで走り始めた。


 ならば、彼に町を救われた今の自分達がすべきこともただ一つ――。


「オラッ、無駄口叩いてないでちゃっちゃっと持ち場に戻る!でもって、復興どころかあの山賊ヤローが次に来たら目ん玉飛び出て腰抜かすくらいに、立派な街並みにしてみせようじゃねぇか!……俺と、ここにいるお前等で!!」


『オゥッ!!』


 ビカルタの言葉に、一同は深く頷く。


 悲しみや恐怖といった感情は、今もまだ皆の心の中にはある。


 だがそれでも、そんな最中でも立ち上がり声を上げ続けた一人の”山賊”の姿を思い描きながら、彼らは復興作業へと取り掛かっていく――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか、バイクまで手に入れてしまうとは……! そしてバイクに山賊、なんと似合いのカップリング……! これが世紀末なら、「あべし」とか「ひでぶ」とか言って爆散する光景に連想が繋がってしまいそ…
[良い点] リューキって、おばちゃん達と救助活動したり、ヒヨコタウン住人達を気にしてバイクを返す約束したりと、本来は人の良い奴なのかな? と、思いました。 虚勢を張って即見破られたり、山賊としての体…
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