表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/135

凍える大地

 俺が獲得した新スキル:新スキル:【魂ごと焼き討ちする略奪劇】――。


 そこそこ強そうな名前だが、もしもこのスキルが炎系統に属するものだった場合、どれだけ強力であろうとも、あの業火そのものを纏って武器にしているような”竜騎士”のハルタに通じるだろうか?という懸念があった。


 だが、今回得たスキルはどうやら俺が予想しているようなものとは異なり――ある種”山賊”らしい訳の分からない代物だった。





 スキル:【魂ごと焼き討ちする略奪劇】


 効果:プレイヤーが歌を熱唱することによって、広範囲にいる複数の相手に、何かしらの状態異常かこちらの攻撃力並びに、相手の防御力を無視したダメージ、もしくはその両方の効果を与える事が出来る。

 持続時間・威力はスキル使用時の本人の歌唱力によるため、時には不発に終わる可能性もある。


 取得条件:条件は以下の通りである。


・村ないし町といった【拠点】に対して襲撃行為を仕掛け、これを成功させること。


 これら三つの条件を同時に行ったときのみ、このスキルは取得可能である。





 歌唱力……?


 ざっと自分のステータスを確認してみるが、そんな項目はどこにもない。


 ……ということは、これは本当に自前の歌唱力を大勢の前で披露しなくてはならない、ということか……。


 その分、効果は間違いなく強力だし、スキルの取得条件が町とかへの襲撃っていうのも、まぁ山賊らしいってことで分かる。


 けど、それが何で熱唱することにつながるのか本気で分からない。


 にも関わらず、ここに来る前にオボロが俺に対して言っていた『天空流なんてまったくアテにならないけど、俺が山賊である以上マイクだけは絶対に約に立つはず』という発言が、このスキルが”山賊”にとっての正解なのだという実感を俺に与えていた。


 それでも、歌をこんな大勢の前で歌うだなんて――。


 ズキリ、とかつて心の奥深くに埋まった棘が強くうずく。


 それと同時に、ドッ、ドッ、と早鐘を打ちながら動悸し始める心臓。


 ――だが、迷っている場合じゃない。


 今、こうしている間にも、多くのこの町の住人がハルタの暴虐に曝されている。


 意を決した俺は、アイテムボックスから唯一残ったアイテムである”マイク”を取りだし、電源をオンにして盛大に声を張り上げる――!!





♪今日は気になるあの子と 放課後二人きりの帰り道


 それなら朝まで、コックリさんでparty☆night!


 泣いても叫んでも もう遅い


 ここは東京 良いところ


 ここは東京 Shippori and the City!!♪





 がなるような声で一気に歌い上げる俺。


 それに対する周囲の反応は――。



『…………………………』



 皆、一様に軽い困惑と冷め切った気持ちが入り混じった無表情かつ怜悧な眼差しを、こちらに向けていた。


 ……そんな風に睨んでくるが、仕方ないだろッ!!


 なんせ俺は、小学校から現在の高校生になるまでロクに友達と呼べる存在もおらず、人前で歌を披露するどころかクラスで喋っていることが稀扱いされるような奴なんだぞ?


 そんな場数を踏む機会すらロクになかった奴なんて音痴に決まってるし、例え歌をいくつか知っていても、それをスラスラ披露できるだけのレパートリーも本番での度胸も何もありはしないんだ。


 音痴を誤魔化せるだけの笑える要素で押し切ろうと、『東京 Shippori and the City』というネタに振り切れた歌を選曲してみたのだが、結果はご覧の通り、冷えっ冷えの状況を生み出すことになってしまった。


 そんなエターナルフォースブリザードぶりをもってしても、現在この町を襲う業火を鎮めるほどにはならなかったらしい。


 それどころか、当の本人であるハルタが『耳障りな雑音出してんじゃねぇぞ、この糞雑魚野郎がッ!!』と、さらに苛立たし気に怒りの炎を燃やしながら、俺の方へとバイクの向きを変えて狙いを定める――!!


 ターゲットが俺だけになった事を理解した周囲は、一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


 これで、ハルタが俺のもとまで来ることを遮る隔たりは、何一つなくなってしまった。


 今の無意味なダダ滑りのためにスキルを一回無駄撃ちしたことと、現在進行形でテンションが上がる要素がない――それどころか下がりまくっているため、意思の力も全く回復できず、俺の残りの”BE-POP”では【凌辱に見せかけた純愛劇】も【山賊領域】も使用できないだろう。(まぁ、使用出来たところで先ほども述べた通り、ハルタのステータスや能力を打ち破れるほどではないだろうが)


 まさに、一刻の猶予もない状況下の中、俺は目を背けようとしていた心の痛みに向き合い、奴を相手に一かバチかの勝負に出ることを決意する――!!


 『東京 Shippori and the City』とは比べ物にならない痛みが胸をかき乱し、強烈なフラッシュバックが俺の脳に浮かび上がり、立っているのも困難になってくる。


 だが、それでも俺は強くマイクを握りしめて、再びスキル:【魂ごと焼き討ちする略奪劇】を発動する――!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここでマイクだとぉお!?w うーんさすがの発想です。 マク●ス的に、歌うことで敵の心をつかんで、味方に……というわけではなさそうですがw >『東京 Shippori and the Ci…
[良い点] ついに……ついに来た!――と思ったけど、まだか、まだ前段階か……! うむむう……! しかしスゲえ歌詞だぜ、『東京 Shippori and the City』……! [一言] つまり、…
[良い点] しっかり伏線があったにも拘わらず、「ここでマイクか!」と思ってしまいました! 何故、思い至らなかったのか(笑) 個人的には新鮮な気持ちで読めてハッピーなのですが、ぼーっと読んでいるのか、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ