竜騎士の暴走
上級職:”竜騎士”の力。
それは、【竜装転身】というスキルを使用する事によって、自身が身に着けている装備をすべて破砕する代わりに竜騎士の力を限界以上に引き出す特殊装備を身に纏い、それと同時にとてつもない破壊力のバイクを瞬時に呼び出すことが出来る能力である――!!
この姿になったハルタは、自身と同レベル・上級職である敵対していた”プレイヤー”達を、バイクでの騎乗突撃によってほぼ一撃で絶命にまで追い込んでいた。
ビカルタ達NPCがいつはっきりと自我に目覚めたのかは分からないが、少なくともあの凄惨な戦闘ともいえる殺戮を目にしていたのなら、あの状態のハルタを前に、そんな呆気に取られた表情をして良い訳がない。
俺はビカルタや他の町人たちに向けて、瞬時に声を張り上げて呼びかける――!!
「――何ぼさっと突っ立ってんだ!とにかくみんな、早く逃げろッ!!」
俺の言葉を受けて、呆けた表情から一転、慌ててバラバラに逃げ始める町人達。
そんな彼らに向けて、ハルタが自身のバイクを盛大に唸らせる――!!
「――死に絶えろ、ゴミ屑どもがッ!!」
そんなハルタの唾棄する声が聞こえたか刹那、物凄い速度で突風が吹き荒れる。
ハルタのバイクは業火を纏いながら爆走し、町人達に向かって突撃する。
「……ッ!?」
ハルタの突撃を受けた者達は、悲鳴を上げる間もなく強烈な衝撃と爆炎によって、瞬時に光の粒子となって消失していく。
同じ町の仲間が芥子粒のように命を奪われる光景を前に、ある者達は茫然としながら立ち尽くしたりへたれ込み、ある者達は恐慌状態になりながら、理性をかなぐり捨てて逃げ惑っていた。
そんな光景を見ながら、ハルタは愉し気な哄笑を上げる。
「ギャハハハハハハッ!!どうした、どうした!?お前等全員、人様に害為す毒持ちでうじゃうじゃ湧き出る虫けらなんだから、俺が用意してやった炎に自分から飛び込んでくるくらいの事をしなくちゃ駄目だろう?……オラオラッ!動けない俺に武器を突き刺しまくったときみたいに、寄ってたかってきやがれボケどもッ!!」
「ッ!?やめッ……!」
俺が声を上げるよりも先に、ハルタによる狂った虐殺の宴が繰り広げられていく。
「来るな、来るな……熱”いぃィィィィィィィィィィィィィィィッ!?」
「アンタァァァッ!?――こ、こんなの嘘だって言っておくれよぉ……!!」
「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
俺の眼前で、文字通りの阿鼻叫喚の地獄が再現されていた。
彼らの悲鳴や嘆きをBGMに、人だけではなく町の施設などにぶつかりながらも、一向にとどまることなく猛威をばら撒き続けるハルタ。
”竜装転身”をしたところで体力が回復するわけでもなく、状態異常がなくなるわけではないはずであり、現にハルタは哄笑を上げている間にも身体を突然痙攣させながらも何とか器用にバイクを操作していた。
……あの凄惨な拷問跡を見る限り、このまま何とかやり過ごすことが出来れば、混成毒が身体に巡って確実にハルタは死ぬに違いない。
確実性を取るならばそうすべきだったかもしれないが、今の俺は『お前だって仲間とともに俺を寄ってたかってリンチにしただろ!』とか、『”アキヤラボパの雫”を手に入れるためにもビカルタ達を死なせるわけにはいかない』と言った理屈や計算を超えて、ただひたすらにこの光景が気に食わない。
そんな一つの強い感情に支配されていた。
ビカルタとの戦闘での勝利と、そこからの解放感――そして、そこからの現在のハルタの凶行に対する怒り。
それらによって、俺の”BE-POP”は大分回復しつつある。
(……だけど、【凌辱に見せかけた純愛劇】で”山賊”である俺の身体能力を強化したところで、高レベルの”竜騎士”であるハルタにダメージを与えるどころか、追いつくことすら出来るとは思えねぇ!……かと言って、【山賊領域】を展開したところで、あの突進力を前に空間の揺らぎが突破されないって保証はないし、そうなったら俺は一発で消滅確実だ!!――一体、どうすれば良いんだ!?)
まさに八方塞がりというしかない状況の中、焦燥感のみが積もっていく――そんなときだった。
「……ん?なんだ、これ……」
ここまで緊張と波乱続きで気づいていなかったのだが、俺は自分宛てに何やら新着の通知が入っている事に気づく。
……こういうのは、情報に気づきやすいようにもう少し音やらエフェクトがかかるようにしたら良いのに、と思ったが、よくよく思い返してみればそれは全部自分がゲームを始めた初期に『煩わしいから』と、設定した事だった。
あの頃は、ヨースケとしかプレイする相手がおらず、アイツはそんなこっちに連絡してくる奴でもなかったし、それに俺の”山賊”は全く強くならなくて何も更新されなかったから、入ってくる情報が運営からもたらされる俺達のような弱小プレイヤーに関係ないバトルイベントやら、学生の手が届かない課金アイテムの宣伝などばかりだったため、通知をオフにしていたのだ。
とにかく今はそんなどうでも良いことよりも、俺のもとに届いた新着情報の確認が先である。
そんな感じで急いで、項目を開くと――そこには、間違いなく今の俺が必要としている文面が記されていた。
『新スキル:【魂ごと焼き討ちする略奪劇】を獲得しました!』
なかなかに強そうなスキル名だが、これがどんな効果なのかは分からない。
だが、他のスキルが当てにならない以上、今の俺はこのスキルに全てを賭けるしかなかった。
そのように祈るような気持ちで、俺はスキル説明を読み進めていく――。




