死闘の決着
俺の策が功を奏したことによって、愛用の大剣を喪失したビカルタ。
微々たるダメージとはいえ、俺の攻撃を何度も受け続けたことと武器をなくしたことによって精神的に疲弊したのか、奴は目に見える形で息を切らしていた。
俺の方も今しがたビカルタから手痛い一撃を受けてしまったことは事実だが、気持ちの方は全然負けていない。
それどころか、俺にとっての活路が見えてきたことで、激しく意思の炎が燃え滾っていた――!!
「今度こそ――これでキメるッ!!」
そう言いながら、ビカルタに向けて先ほどと同じようにがむしゃらなまでの連続攻撃を繰り出す俺。
今までのNPCと違って、身体能力を倍加してもまだ倒れないビカルタだったが、無傷とはいかず徐々にだが確実にHPは削れている。
しびれを切らした奴は、素手で俺へと殴り掛かってきた――!!
「なんだ、貴様はッ!!既に武器もなく、弱いくせにちょこまかと目障りなッ!!」
奴の拳が二発、三発と俺の肩や腹部に放たれる。
回避出来るような距離でもなく、またそんな技術も俺にはないため、マトモに受けることとなる。
だが、さっきの怒りがこもった一発ほどじゃない。
今のコイツの拳にあるのは、この状況に追い込まれたことに対する焦りと、得体の知れない俺に対する恐怖ともいえる二つの感情。
実際に、コイツが地面に落ちた大剣にこだわったりせずに、そのまま今のように素手で俺に殴り掛かっていたら、俺は為すすべもなく敗れていたに違いない。
俺はもともと最初から何も持っていなかった事を自覚していたから、下手に迷わずにいられたのだと、胸を張って答えることが出来る――!!
そんな俺だからこそ、奴からの反撃を受けて弱るどころか、さらに連撃を加速させて迫っていく。
「武器の一つや二つなくなったくらいで、怖気づいたりしてんじゃねぇッ!!――俺は、最初から何も持たずにここまで来たんだ!!今さら、お前なんかに……負けてたまるかよぉッ!!」
「ッ!?グッ……このォッ!!」
目に見えた形で、ビカルタが激昂する。
案の定、奴は重く鈍い一撃をこちらに放ってくる。
「カッ、ハッ……!!」
これもモロに喰らう俺。
すんでのところまで追いつめたが、俺の方もいよいよ危うくなってきたようだ。
覚悟を決めた俺は、切り札を使用することを決意する――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
裂帛の気合いを持って、盛大に叫ぶ俺。
その様子を見て、ビカルタは衝撃を受ける――!!
「き、貴様……それはッ!?」
そんなビカルタに向けて俺は、無言のまま不敵な笑みを返す。
ビカルタが見つめる先――そこには、アイテムボックスから取り出した回復アイテムが俺の手に握られていた。
これは、さっきと同じようにトサカ頭のNPC達からちょいとばかり拝借してきたものだ。
大剣ロスト作戦にコイツまで捨てる必要性は流石になかったので、俺はコイツともう一つのアイテムだけは最後までアイテムボックスに保管していたのだ。
そして、当然の如くこのアイテムを使用し、俺の体力はわずかなながらに回復していく……。
そんな俺を見て、ビカルタが憤怒の形相とともに、こちらを罵倒してきた。
「この……卑怯者がぁッ!?貴様に、恥というモノはないのか!!」
それに対して、俺は憮然とした顔つきになっていたに違いない。
ビカルタを睨みつけながら、俺は奴の問いに答える。
「あいにく、中身の伴わない威厳やら意地なんてものが無意味だってことは、自分の人生で良く分かっているつもりだ。……今の俺が優先すべき事は、何も失わせないために、どんな手段を使ってでもお前から”アキヤラボパの雫”を強奪する事のみだッ!!」
そう言っている間にも絶え間なく、俺は回復アイテムを自身に使用する。
……強化していても、俺自身の基本的能力値が低いからか万全に近い状態にまで回復したが、その結果、回復アイテムは流石に底を尽きた。
だが、これで俺は体力だけでなく、また戦うための意欲を奮い立たせることが出来た。
再び俺は、猛攻のラッシュをビカルタに行う――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
そんな俺の連撃を一身に受けながら、ビカルタが苦し気に呻く。
「クソッ……!!おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
最後の足掻きとばかりにがむしゃらなまでの乱打を放ってくるビカルタ。
俺はそれを受けながらも、身体に力を込めていく――!!
「――"雷"とはすなわち、最高の催しを前に盛大にシビれる在り方なり。……アゲていくよ!天空流奥義:"チャラリティ防壁"ッ!!」
自分の中に雷撃が走ることによって、身体が限界以上に硬直する様を模した天空流奥義:"チャラリティ防壁"。
この奥義を叫ぶことによって、俺は自身の肉体をいかなる打撃にも耐えられるほどに硬質化させた気分になっていく――!!
「――どうせ、ハッタリだろコラァッ!!」
「ッ!?ブフォッ!!」
ここまでの戦闘とやり取りから、流石に俺の実力は既にビカルタにバレているらしい。
奴から殴打を受けながら、俺も「当然だろ、テメェッ!!」と言い返しながら、防御を解いて再び連撃を放っていく――!!
「「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」」
俺達の渾身の叫びとともに、熾烈な応酬が繰り広げられていく――!!
どのくらい殴り合っただろうか。
俺達は互いに無言で息を切らしながら、相手の方を見て立ち尽くす。
「……」
「……」
このまま、立った状態で気を失うんじゃないだろうか、と思った矢先、ドウ……!!という音が聞こえる。
どうやら、先に限界を迎えたのは向こうの方だったらしい。
ビカルタは、盛大に背中から地面へと倒れこんでいた。
あの乱打の応酬によって、ようやく首の皮一枚の状態でつながっていたようなビカルタの体力を削り切れたが、俺の方も一度全回復したにも関わらず、またもギリギリの状態にまで追い込まれる形となっていた。
だが、勝利は勝利。
とにかくそんなビカルタを見ながら、俺は小さくため息をついて安堵する。
「これで、この町での戦いも終わっ、た……」
そう考えたのもつかの間、すぐに違和感に気づく。
見れば、俺達の囲むようにこちらを遠巻きに見ていたNPC達が、皆いつの間に仕入れたのか、自身の手に包丁やら棒といったものを手にして、こちらへと敵意を向けていた。
……まぁ、いくら戦闘に詳しくなくても、流石にビカルタとの戦い方を見ていたら、俺が本当はすごく弱いってすぐに分かる事だよな……。
いくら武器としては低質にあたる存在だったとしても、流石にあの人数にいっせいに襲われたら、今の俺ではひとたまりもない。
『どうやら俺は、ここまでのようだな……』
そんな風に諦めかけ、俺の帰還を待っているはずのオボロとキキーモラさんに心の中で謝ろうとしていた――まさに、そのときだった。




